平安夢柔話

いらっしゃいませ(^^)
管理人えりかの趣味のページ。歴史・平安文学・旅行記・音楽、日常などについて書いています。

平安妖異伝

2006-11-13 10:10:29 | 図書室3
 今回は、おもに平安時代中期の平安京と、平安宮内裏を舞台にした小説を紹介します。

☆平安妖異伝
 著者・平岩弓枝 税込み価格・540円 発行・新潮社 新潮文庫

☆本の内容紹介
あらゆる楽器に通じ異国の血を引く少年楽士・秦真比呂が、若き日の藤原道長と、平安京を騒がせる物の怪たちに挑む。桜の古木を篳篥の音で慰め、巨大な象太鼓に秘められた不思議を解明し、八面六臂の大活躍。都に妖気が漂うとき、清々しい管絃の音とともに二人の姿が現れる…謎の死を遂げた義兄の家人の後を追って、道長も見慣れぬ黒い邸に誘いこまれた…。怪しの物語十編。


 紹介文にもありますように、二十代半ば頃の藤原道長が主人公です。そしてこの本は、道長が、超能力を持ち、あらゆる楽器を弾きこなす謎の少年、秦真比呂とともに、都で起こる怪事件を解決していく…という連作小説集です。
 二人の前に現れる化け物も、動物の化け物であったり植物の化け物であったり、はたまた人間の化け物であったりします。そして、十編の物語一つ一つに、それぞれ雅楽器が登場し、事件を解決していく鍵となっています。

 物語を読んでの感想ですが、何と言っても道長が格好良かったです。化け物を叱りつけたり、自ら化け物退治をすることもあります。なので、道長が好きな方には絶対にお薦めです。

 また、物語には平安中期の有名人がたくさん登場するので、平安好きにとってはたまらないです。
 道長の妻の倫子や明子、倫子の父の源雅信はもちろん、兄の道隆、その娘の定子中宮、定子の母の高階貴子なども登場します。それと、わくわくしたのが後に「四納言」と呼ばれる藤原公任、藤原斉信、藤原行成、源俊賢の登場でした。道隆が大酒飲みで、藤原朝光、藤原済時と飲み友達であったことも史実通りに描かれていますし、3人が牛車の中で酔っぱらって寝てしまう場面はユーモラスでした。

 この連作小説集はフィクションという色の濃い作品ですが、歴史事項も時々出てきます。永祚二年(990)の藤原兼家の薨去もその一例です。が、何と言ってもこの小説集では、安和二年(969)に起こった源高明の失脚事件、安和の変がキーワードになっている小説が3編収められていて興味深いです。上の方で引用した本の紹介文の中の「義兄」というのは、道長の妻明子の兄、源俊賢、つまり高明の忘れ形見のことです。
 さらに、その安和の変の首謀者の一人は藤原兼家と言われています。つまり道長の父です。そして、道長が源高明にまつわる事件を解決していくというのも、何か因縁というか、不思議なものを感じました。そのあたりも、この小説がよくできている…と、感じる一つです。

 この小説集は、ファンタジー時代小説という色の濃い作品だと思いますが、それと同時に推理小説のような一面もあると思います。つまり道長が探偵で、真比呂が助手という感じでしょうか。ストーリーが変化に富んでいて面白く、どんどん物語の世界に引き込まれていきます。情景描写も美しく、みやびな雅楽が聞こえてくるような不思議な気分になることもできます。それと同時に、各話のラストでは、「人間にとって本当に大切なものは何か?」「本当の幸福とは?」ということをふと考えさせられる…といったしんみりした部分も持ち合わせています。
 その意味で、特に平安好きでなくても、小説として充分楽しめる作品だと思いました。
興味を持たれた方はぜひ手に取ってみて下さい。
 

最新の画像もっと見る