前回に紹介した「業平ものがたり」に引き続き、伊勢物語関連の本の紹介、今回は、業平を主人公にした小説を紹介します。
☆なりひらの恋 在原業平ものがたり
著者=三田誠広 発行=PHP研究所 価格=1470円
☆本の内容
美男子なのに後ろ向き、高貴な出なのにマイペース…それでもみんなに愛された「なりひら」の恋物語。
☆目次
春の章 起きているのか寝てるのか
夏の章 わけもなく物想いにふける
秋の章 これがほんとうの恋なんだね
冬の章 都鳥さん教ぇておくれ
あとがき “
主要登場人物・略系図
「伊勢物語」の主人公のモデルとされる、在原業平の恋と生涯を、軽いタッチで描いた小説です。
巻末の著者によるあとがきによると、この小説の業平は、史実の業平ではなく、「伊勢物語」のむかし男の業平、だから、「業平」ではなく、「なりひら」という表記になっっているのだそうです。
確かに、史実的には「あれ?」と思う場面がありました。例えば、小説のラストの方に、業平が光孝天皇のお供をして狩に出かけるエピソードがあります。
この話は、「伊勢物語」114段に掲載されている話ですが、光孝天皇が即位した当時、業平はすでに世を去っているので、この話は兄の行平のエピソードではないかと言われています。
それで、なぜこのようなエピソードを業平のエピソードとして収録したかについて、あとがきによると、仁明天皇の皇子でも、皇位からはほど遠く、世の中から忘れられていた存在だったのに突然帝になった光孝天皇と、平城天皇の嫡流である業平は同じ境遇だからということでした。皇位から遠ざけられ、忘れられた皇族というのが共通点ということでしょうか。
つまりこのエピソードは、もし、業平が同じ境遇だった光孝天皇が即位するまで生きていたら、どのような想いで光孝天皇を見ていたのかという、歴史フィクションと言えるかもしれません。これはこれで良いのではないかと思いました。
前置きが長くなってしまいましたね。では、小説の内容と感想に移ります。
この小説は、業平自身が自分のことを「なりひら」と呼んで、その生涯を語るというスタイルで書かれています。なので、業平の心の動きがストレートに伝わってきました。
内容は、「伊勢物語」に収められているエピソードの他、作者によるフィクションもかなり織り込まれています。その例をいくつか挙げてみます。
・業平が高子の実父長良と酒を飲む場面がある。
・業平がふとしたことから菅家廊下に出入りするようになり、菅原道真から学問についての教えを受ける。逆に、業平が道真に和歌の手ほどきをする場面もある。
・伊勢物語23段(筒井筒の段)に登場する、「高安の女」の兄という設定の奈良麻呂というオリキャラが登場し、重要な役を演じる。
などです。
また、この小説の大きなテーマは業平と高子の恋愛なので、「伊勢物語」に収められた2人の逃避行の話ももちろん出てきます。
しかし、「伊勢物語」とはちょっとストーリーが違っていて、業平は高子を、母、伊登内親王の住む旧長岡京に連れて行き、2人は数日間、ここで一緒に生活しています。結局、「伊勢物語」と同じく、高子は兄たちによって平安京に連れ戻されてしまうのですが、業平と高子が短い間ながら、一緒に暮らすことが出来たという話は、何となく夢があっていいなあと思いました。
あと面白かったのは、業平が他の歌人たちについて辛口の批評をしているところです。
百人一首に収められた行平の歌や光孝天皇の歌などは、「つまらない歌」と切り捨てられています。僧正遍昭のことも、「歌が技巧に走りすぎていてけしからん」と言っていますし…。でも、「業平さん、あなたの歌も同じくらい、技巧に走りすぎていませんか?」とちょっとつっこみたくなってしまいました。
この「なりひらの恋」は、以前に紹介した「異文・業平東国密行記」で描かれたようなかっこいい業平を期待するとかなり裏切られますし、史実とはかけ離れているかもしれませんが、エンターテインメントとして楽しむことが出来た1冊でした。さらっと気軽に読めるので、「伊勢物語」や業平にそれほど詳しくなくても楽しめると思います。
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☆なりひらの恋 在原業平ものがたり
著者=三田誠広 発行=PHP研究所 価格=1470円
☆本の内容
美男子なのに後ろ向き、高貴な出なのにマイペース…それでもみんなに愛された「なりひら」の恋物語。
☆目次
春の章 起きているのか寝てるのか
夏の章 わけもなく物想いにふける
秋の章 これがほんとうの恋なんだね
冬の章 都鳥さん教ぇておくれ
あとがき “
主要登場人物・略系図
「伊勢物語」の主人公のモデルとされる、在原業平の恋と生涯を、軽いタッチで描いた小説です。
巻末の著者によるあとがきによると、この小説の業平は、史実の業平ではなく、「伊勢物語」のむかし男の業平、だから、「業平」ではなく、「なりひら」という表記になっっているのだそうです。
確かに、史実的には「あれ?」と思う場面がありました。例えば、小説のラストの方に、業平が光孝天皇のお供をして狩に出かけるエピソードがあります。
この話は、「伊勢物語」114段に掲載されている話ですが、光孝天皇が即位した当時、業平はすでに世を去っているので、この話は兄の行平のエピソードではないかと言われています。
それで、なぜこのようなエピソードを業平のエピソードとして収録したかについて、あとがきによると、仁明天皇の皇子でも、皇位からはほど遠く、世の中から忘れられていた存在だったのに突然帝になった光孝天皇と、平城天皇の嫡流である業平は同じ境遇だからということでした。皇位から遠ざけられ、忘れられた皇族というのが共通点ということでしょうか。
つまりこのエピソードは、もし、業平が同じ境遇だった光孝天皇が即位するまで生きていたら、どのような想いで光孝天皇を見ていたのかという、歴史フィクションと言えるかもしれません。これはこれで良いのではないかと思いました。
前置きが長くなってしまいましたね。では、小説の内容と感想に移ります。
この小説は、業平自身が自分のことを「なりひら」と呼んで、その生涯を語るというスタイルで書かれています。なので、業平の心の動きがストレートに伝わってきました。
内容は、「伊勢物語」に収められているエピソードの他、作者によるフィクションもかなり織り込まれています。その例をいくつか挙げてみます。
・業平が高子の実父長良と酒を飲む場面がある。
・業平がふとしたことから菅家廊下に出入りするようになり、菅原道真から学問についての教えを受ける。逆に、業平が道真に和歌の手ほどきをする場面もある。
・伊勢物語23段(筒井筒の段)に登場する、「高安の女」の兄という設定の奈良麻呂というオリキャラが登場し、重要な役を演じる。
などです。
また、この小説の大きなテーマは業平と高子の恋愛なので、「伊勢物語」に収められた2人の逃避行の話ももちろん出てきます。
しかし、「伊勢物語」とはちょっとストーリーが違っていて、業平は高子を、母、伊登内親王の住む旧長岡京に連れて行き、2人は数日間、ここで一緒に生活しています。結局、「伊勢物語」と同じく、高子は兄たちによって平安京に連れ戻されてしまうのですが、業平と高子が短い間ながら、一緒に暮らすことが出来たという話は、何となく夢があっていいなあと思いました。
あと面白かったのは、業平が他の歌人たちについて辛口の批評をしているところです。
百人一首に収められた行平の歌や光孝天皇の歌などは、「つまらない歌」と切り捨てられています。僧正遍昭のことも、「歌が技巧に走りすぎていてけしからん」と言っていますし…。でも、「業平さん、あなたの歌も同じくらい、技巧に走りすぎていませんか?」とちょっとつっこみたくなってしまいました。
この「なりひらの恋」は、以前に紹介した「異文・業平東国密行記」で描かれたようなかっこいい業平を期待するとかなり裏切られますし、史実とはかけ離れているかもしれませんが、エンターテインメントとして楽しむことが出来た1冊でした。さらっと気軽に読めるので、「伊勢物語」や業平にそれほど詳しくなくても楽しめると思います。
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