平安夢柔話

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王朝文学入門

2019-10-05 09:52:24 | 図書室2
 今回は最近読んだ平安文学関連の本を紹介します。

☆王朝文学入門(角川選書 489) 
 著者=川村裕子 発行=角川学芸出版 価格=1760円

本の内容紹介
 『源氏物語』や『枕草子』などの物語・エッセイ、『土佐日記』『蜻蛉日記』などの日記文学を中心に、ジャンルごと・年代順に主要王朝作品を総まくり。あらすじ、各作品の特徴・ポイントを初心者にもわかりやすく解説。千年も前の世界の人々が、私たちと同じように悩み、愛し、苦しむ姿を捉えた文学の魅力に迫る。王朝文学の全体像を知るための入門書の決定版。作品世界の理解を助ける便利な「楽しい王朝文化ミニ辞典」付き。

〈目次〉
はじめに―王朝文学の扉を開けて
1 夢を追いかけて―物語とエッセイ(物語の親―『竹取物語』
王朝の音色物語―『うつほ物語』 ほか)
2 自分をみつめて―憂愁の日記文学(海に漂うせつない思い―『土佐日記』
絶望を超えて―『蜻蛉日記』 ほか)
3 楽しい王朝文化ミニ事典(王朝の社会生活(官職、年中行事)
王朝の通過儀礼(元服、裳着、結婚、葬儀) ほか)

 専門の先生が平安時代の古典を物語・エッセーと日記文学に分け、時代順にわかりやすく紹介した1冊です。
 紹介されている古典は、竹取物語・うつほ物語・落窪物語・伊勢物語・大和物語・源氏物語・枕草子・土佐日記・蜻蛉日記・和泉式部日記・紫式部日記・更級日記です。この手の本にはあまり紹介されていない、「うつほ物語」「大和物語」が取り上げられているのに惹かれたことと、川村先生の本は以前にも読んだことがあり、文章がわかりやすくてとても好感をもっていたので、手に取ってみたのでした。

 で、「王朝文学入門」というからには簡単な入門書なのかな?とおもいきや、かなりマニアックな詳しいこと、今までとは違った視点からの古典の読みどころなどが書いてあって、新しい発見がたくさんありました。以下、少しですがそのあたりのことを書いてみます。
*この本は、視覚障害者用ネット図書館「サピエ図書館」からダウンロードした音声データで読ませていただきました。そのため、本文中に使われている漢字などは調べられなかったため、引用箇所で本文とは違った漢字を使用している可能性があります。どうかご了承下さい。

☆竹取物語の「三」というキーワード
 竹の中から発見されたときの姫の身長は三寸、姫は三ヶ月で大人になった。「なよたけのかぐや姫」と名づけられたときの宴会は三日続いた。
 更に、かぐや姫に求婚した五人の貴公子ですが、最初の三人とあとの二人には大きな違いがあるというのです。
 つまり石作皇子、車持皇子、阿倍ご主人は偽の宝物を作ったり探させたりしているのに対し、大伴御行と石上麻呂は自分で命がけで探しに行っているのですよね。
 そのため、元の竹取物語は最初の三人だけで、跡から二人、つけ加えられたという説が生まれたのだそうです。これは知らなかったです。

☆更級日記の作者の夢 
 更級日記は原稿用紙百枚程度の長さ。しかし、その中に40年以上にわたる作者・孝標女の人生が1つのテーマに沿って書かれていて、構成がとてもしっかりした作品なのだそうです。
 私は「更級日記」を何度も読んでいるのですが、この本で解説されていた、孝標女は友達が多いこと、宮仕えに夢を持っていたことには気がつきませんでした。
 特に宮仕えについて。孝標女は32歳頃に後朱雀天皇の皇女、祐子内親王の許に宮仕えに出るのですが、翌年に結婚し、常勤の宮仕えからパートの宮仕えになってしまうのです。それで満足していたと思っていたのですが、日記のラスト近く、夫の死の記事のあとにこんな文章があったことに、この「王朝文学入門」で気づかされました。以下、この本に書かれていた現代語訳を引用します。

引用開始 ー
 長年、天照大神をお祈り申し上げなさいと見てきた夢については、高貴な方の御乳母さまとなり、宮中あたりにお仕えして、天王や皇后のご恩恵に預かるだろう、と、夢解きがいつも判断していたのです。
      ー引用終了

 結局、この夢解きの予言は当たりませんでしたが、孝標女はいつもこの予言を心のかてにしていた、つまり、常勤の女房となり、高貴な方の乳母になる夢を抱いていたのですよね。
このことに関しては、今年6月にNHK総合で放映された歴史秘話ヒストリア「物語に魅せられて 更級日記・平安少女の秘密」でも紹介されていましたが、いまいち根拠がわからなかったので、更級日記本文にこのようなことが書かれていたことに気づかされ、すっきりしました。いずれにしても、今までの「更級日記」の作者のおとなしくて控えめな女性というイメージが少し変わって来そうな感じがします。

 その他にも、
 「落窪物語」の、「落窪の姫の裁縫の才能、、つまり姉妹の婿君の装束を整える能力」について、落窪の姫がいなくなったあと三の君が蔵人の少将に去られてしまった理由は、彼女に装束を整える能力がなかったから。「源氏物語」の、光源氏と藤壷の間にある「閉ざされた御簾」と、柏木と女三の宮の間の「開いてしまった御簾」について、「蜻蛉日記」の、結果がわかっているのに、過去の自分の気持ちになって文章を書く能力など、「あ、そうだったのか」と思わせる記述がたくさんありました。期待していた「うつほ物語」や「大和物語」も、あらすじや要旨がよくわかって嬉しかったです。

 それから最後の章の「王朝文化ミニ事典」、古典を読む上で参考になりそうな平安時代の衣食住についての事項が完結にまとめられていました。特に装束と食べ物については、装束体験をさせて頂いたり、王朝料理を頂いたりしたときのことを思いだし、楽しく読みました。その他にも年中行事など、とても参考になりました。

 全体的に文章もわかりやすいので、これから古典を読んでみたいと思っている方にも、上で書いたようなマニアックなことも書いてあるので、たくさん読み込んでいる古典大好きな方にもオ薦めの1冊です。

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