アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

女と蛇

2012-10-08 19:49:34 | 創作
          女と蛇  陸を見なくなって二週間たった頃のこと、私はなぜだか分からないまま苛々と気分をささくれ立たせ、突発的な憂鬱の発作にとりつかれては不機嫌と焦燥の中に沈みこむことを繰り返していた。長い船旅では時々こういうことが起こる。ふとしたきっかけで自分を持て余し、どうしていいか分からなくなるのである。ティールームの中にとぐろを巻いて陽射しを透かしてぼんやり花柄のカーテンを眺めたり、バ . . . 本文を読む

人もいない春

2012-10-06 20:42:35 | 
『人もいない春』 西村賢太   ☆☆☆☆  またまた西村賢太である。この人の私小説は病みつきになる。これも短編集で、定番の「秋恵もの」や珍しい創作「悪夢」など色んなタイプの作品が入っている。いつもの貫多が出てきて、アルバイト先で惨めな思いをしたり、プラトニックな恋愛に憧れて相手を探したりする。題材としては全体に小粒な印象がある短編集だが、一つ一つの充実度はいつも通りだ。面白さ完全保証。  中で . . . 本文を読む

亜愛一郎の狼狽

2012-10-04 20:51:13 | 
『亜愛一郎の狼狽』 泡坂妻夫   ☆☆☆☆  マジシャンでもある泡坂妻夫のミステリ短編集。亜愛一郎という探偵が出てくるが、本書冒頭の一篇が泡坂妻夫のデビュー作らしい。  亜愛一郎は「ああい・いちろう」かと思っていたら「あ・あいいちろう」だった。こんな名前あり得ないと思うが、あいうえお順で名探偵名鑑を作った時まっさきに掲載されるようにと付けられたらしい。この亜愛一郎、カメラマンでお洒落、ギリシャ . . . 本文を読む

サンクチュアリ

2012-10-02 22:24:13 | 音楽
『サンクチュアリ』 ノヴェラ   ☆☆☆☆  ジャパニーズ・プログレッシヴ・ロック、略してジャパグレの雄、ノヴェラ4枚目のスタジオ・アルバムである。一般のリスナーはあまり耳にする機会はないであろう日陰者的な音楽だけれども、私は時々引っ張り出して聴いている。私の記憶が正しければこのアルバムは最初のメンバーチェンジ後の作品で、つまり第二期ノヴェラの初スタジオ・アルバムということになる。ドラムとベース . . . 本文を読む