『嵐が丘』 ウィリアム・ワイラー監督 ☆☆☆★
英語版のDVDを購入して鑑賞。モノクロ映画である。大昔にどこかの名画座で観たが、ほとんど記憶にない。大好きな原作だし、ローレンス・オリヴィエは好きな俳優なので再見した。
あの長大な原作を映画化するに当たり、当然ながらワイラー監督は物語のあちこちをカットしている。もっとも重要なのはキャサリンの死後の物語がすべてカットされていることである。映画はほぼキャサリンの死とともに終わる。原作ではキャサリンの死は物語のちょうど真ん中あたりで、その後はヒースクリフのアーンショー家とリントン家に対する執念深い復讐が展開していくわけだが、これらをバッサリ省くことで、ワイラー監督はこの映画をヒースクリフとキャサリンのラブストーリーとしてまとめた。まあ確かにそれが物語の主要部分には違いなく、ワイラー監督は巧くまとめたなと思う。
が、後半部分がカットされたことでリントン家とアーンショー家のその後が分からなくなってしまい、どこか中途半端な印象を与えてしまうのも否定できない。ヒースクリフとキャサリンの物語は二人だけのこじんまりした世界ではなく、周囲の人々全員を巻き込む強烈なものであり、必然的にまわりの人々の運命をも捻じ曲げてしまう。キャサリンが死んでからもヒースクリフの執念が世界を歪めていく原作のストーリーは、翻って二人の絆をさらに強烈に印象づける役割も果たしているのだが、映画ではそれがなくなったために普通のメロドラマに近くなり、原作が持つ凄まじいまでの余韻の膨らみがなくなっている。原作は唯一無二の異形の物語だが、映画は独特のトーンを持ったロマンティックなラブストーリーに留まった印象である。
しかしその範疇で言えばこの映画はよく出来ていて、みどころも多い。まず主演のオリビエはさすがの風格で、ヒースクリフという壮絶なキャラクターを巧みに造形している。野蛮で荒々しいが、どこか人間的な深みと陰影を持ったヒースクリフになっている。キャサリン役のマール・オベロンはそれほど美人ではないが、勝気で気まぐれなキャサリンをエネルギッシュに演じていて、話が進むにつれだんだん美しく見えてくるから不思議だ。勝手気ままに振舞うキャサリンの、ただわがまま娘というだけではない憑かれたような表情がちゃんと出ていた。やはりエネルギーというか、精気というものは人間的魅力に大きく寄与するのだなと思った。性格どうこうではなく、強烈なエネルギーを発する人間は人を惹きつけるものだ。
それから何と言っても、原作ファンにとっては荒涼としたヨークシャー地方の凄愴ともいえる風景を映像化してくれたことがうれしい。あの風が吹きすさぶヒースの野原と岩山の、荒々しく凄味を帯びた光景の美しさこそ『嵐が丘』そのものだと思うからだ。「私はヒースクリフよ」とキャサリンが言う場面でぱっと稲妻が光るなど、映画ならではの印象的な場面もある。
まあ全体としては小粒な物語になってしまったが、原作小説全篇に荒れ狂う運命的な愛の迫力の、一端をうかがうことはできるフィルムになっている。『嵐が丘』は他にも色んなバージョンの映画があるので、折りをみてそれらも鑑賞してみたい。
英語版のDVDを購入して鑑賞。モノクロ映画である。大昔にどこかの名画座で観たが、ほとんど記憶にない。大好きな原作だし、ローレンス・オリヴィエは好きな俳優なので再見した。
あの長大な原作を映画化するに当たり、当然ながらワイラー監督は物語のあちこちをカットしている。もっとも重要なのはキャサリンの死後の物語がすべてカットされていることである。映画はほぼキャサリンの死とともに終わる。原作ではキャサリンの死は物語のちょうど真ん中あたりで、その後はヒースクリフのアーンショー家とリントン家に対する執念深い復讐が展開していくわけだが、これらをバッサリ省くことで、ワイラー監督はこの映画をヒースクリフとキャサリンのラブストーリーとしてまとめた。まあ確かにそれが物語の主要部分には違いなく、ワイラー監督は巧くまとめたなと思う。
が、後半部分がカットされたことでリントン家とアーンショー家のその後が分からなくなってしまい、どこか中途半端な印象を与えてしまうのも否定できない。ヒースクリフとキャサリンの物語は二人だけのこじんまりした世界ではなく、周囲の人々全員を巻き込む強烈なものであり、必然的にまわりの人々の運命をも捻じ曲げてしまう。キャサリンが死んでからもヒースクリフの執念が世界を歪めていく原作のストーリーは、翻って二人の絆をさらに強烈に印象づける役割も果たしているのだが、映画ではそれがなくなったために普通のメロドラマに近くなり、原作が持つ凄まじいまでの余韻の膨らみがなくなっている。原作は唯一無二の異形の物語だが、映画は独特のトーンを持ったロマンティックなラブストーリーに留まった印象である。
しかしその範疇で言えばこの映画はよく出来ていて、みどころも多い。まず主演のオリビエはさすがの風格で、ヒースクリフという壮絶なキャラクターを巧みに造形している。野蛮で荒々しいが、どこか人間的な深みと陰影を持ったヒースクリフになっている。キャサリン役のマール・オベロンはそれほど美人ではないが、勝気で気まぐれなキャサリンをエネルギッシュに演じていて、話が進むにつれだんだん美しく見えてくるから不思議だ。勝手気ままに振舞うキャサリンの、ただわがまま娘というだけではない憑かれたような表情がちゃんと出ていた。やはりエネルギーというか、精気というものは人間的魅力に大きく寄与するのだなと思った。性格どうこうではなく、強烈なエネルギーを発する人間は人を惹きつけるものだ。
それから何と言っても、原作ファンにとっては荒涼としたヨークシャー地方の凄愴ともいえる風景を映像化してくれたことがうれしい。あの風が吹きすさぶヒースの野原と岩山の、荒々しく凄味を帯びた光景の美しさこそ『嵐が丘』そのものだと思うからだ。「私はヒースクリフよ」とキャサリンが言う場面でぱっと稲妻が光るなど、映画ならではの印象的な場面もある。
まあ全体としては小粒な物語になってしまったが、原作小説全篇に荒れ狂う運命的な愛の迫力の、一端をうかがうことはできるフィルムになっている。『嵐が丘』は他にも色んなバージョンの映画があるので、折りをみてそれらも鑑賞してみたい。
ジュリエット・ビノシュとレイフ・ファインズの「嵐が丘」の音楽は坂本龍一でした。とってもよかったですよ。ジュリエット・ビノシュとレイフ・ファインズは、その後1996年のThe English Patientでも競演してます。二人は、カメラ上, 息が合うコンビだと思います。あと、レイフ・ファインズの最近の映画ならThe Grand Budapest Hotelが お勧めです。