
『中央流砂』 ☆☆☆
松本清張原作の古いTVドラマ。1975年のNHKドラマで、プラハ国際テレビ祭金賞を受賞したらしい。松本清張の映像化作品を周期的に観たくなる私としては、「これはいけるかも知らん」と触手が動いたわけだが、どうも今一つだった。硬派で手堅い作りだし、役者たちの演技もなかなか見ごたえがあるけれども、ストーリーが尻切れトンボというか、竜頭蛇尾である。
話の舞台は役所で、上層部は政界財界と結託して不正を働いてうまい汁を吸い、下の連中はヤバイ時にトカゲの尻尾きりで悲惨な目に遭うという、理不尽な暗部の話である。ただ、役所の悪に対抗するキャラクターが不在なので戦いが描かれるわけでもなく、カタルシスがあるわけでもない。不条理を不条理のままに呈示して終わる、脱力感に満ちた、陰々滅々とした話だ。
一応主役は役所で働き、同僚が不審な死に方をさせられる川崎敬三だが、彼は小心翼翼とした覇気のない小役人で、主役としての魅力はゼロだ。不正を目の当たりにしながら、彼が考えるのは局長の尻馬に乗ってマイホームのローンをなんとかしてもらおうということだけである。最後に彼が突き落とされる幻滅も、組織や社会への幻滅というより、マイホームが駄目になってトホホという幻滅、うまく状況を利用できなかったわが身をひがむ幻滅だとしか思えない。非常にショボい。
主役に感情移入が困難ということで物語の面白さで見せなければならないところだが、先に書いたようにストーリーが尻切れトンボで、迫力のある前半に比べ後半は川崎敬三のマイホーム作戦がメインになってしまうし、おまけにあっけなく駄目になってしまう。
役者の芝居は良い。傲慢なエリート局長を演じる佐藤慶もいいが、なんといっても影の実力者・西を演じる加藤嘉が最高。西は警察の追求をかわすために、事務屋だった課長補佐(内藤武敏)をなんとかしようとする。温泉宿みたいなところで差し向かいになり、人払いをし、「私は君にどうしろこうしろと言える立場じゃないよ」と笑いながら、「つまり、善処して欲しいんだ」と言う。「善処しろ」などと言われても意味不明だが、これは要するに「自殺しろ」と言っているのである。お前が自殺すればみんなが助かる、というわけだ。しかし課長補佐が「どうして私だけが犠牲にならなくちゃいけないんです」と反抗のそぶりを見せると、「そんな意味で言ったわけじゃないよ」とすかさず笑ってとぼけ、「失礼ながら見直した」「私は骨のある男が好きだ」「惚れたらとことん惚れるたちだ」などとおだてる。で、その挙句殺してしまう。
いやまったくすごい狸ジジイだが、この時の加藤嘉の表情、セリフまわしは見ものである。
松本清張原作の古いTVドラマ。1975年のNHKドラマで、プラハ国際テレビ祭金賞を受賞したらしい。松本清張の映像化作品を周期的に観たくなる私としては、「これはいけるかも知らん」と触手が動いたわけだが、どうも今一つだった。硬派で手堅い作りだし、役者たちの演技もなかなか見ごたえがあるけれども、ストーリーが尻切れトンボというか、竜頭蛇尾である。
話の舞台は役所で、上層部は政界財界と結託して不正を働いてうまい汁を吸い、下の連中はヤバイ時にトカゲの尻尾きりで悲惨な目に遭うという、理不尽な暗部の話である。ただ、役所の悪に対抗するキャラクターが不在なので戦いが描かれるわけでもなく、カタルシスがあるわけでもない。不条理を不条理のままに呈示して終わる、脱力感に満ちた、陰々滅々とした話だ。
一応主役は役所で働き、同僚が不審な死に方をさせられる川崎敬三だが、彼は小心翼翼とした覇気のない小役人で、主役としての魅力はゼロだ。不正を目の当たりにしながら、彼が考えるのは局長の尻馬に乗ってマイホームのローンをなんとかしてもらおうということだけである。最後に彼が突き落とされる幻滅も、組織や社会への幻滅というより、マイホームが駄目になってトホホという幻滅、うまく状況を利用できなかったわが身をひがむ幻滅だとしか思えない。非常にショボい。
主役に感情移入が困難ということで物語の面白さで見せなければならないところだが、先に書いたようにストーリーが尻切れトンボで、迫力のある前半に比べ後半は川崎敬三のマイホーム作戦がメインになってしまうし、おまけにあっけなく駄目になってしまう。
役者の芝居は良い。傲慢なエリート局長を演じる佐藤慶もいいが、なんといっても影の実力者・西を演じる加藤嘉が最高。西は警察の追求をかわすために、事務屋だった課長補佐(内藤武敏)をなんとかしようとする。温泉宿みたいなところで差し向かいになり、人払いをし、「私は君にどうしろこうしろと言える立場じゃないよ」と笑いながら、「つまり、善処して欲しいんだ」と言う。「善処しろ」などと言われても意味不明だが、これは要するに「自殺しろ」と言っているのである。お前が自殺すればみんなが助かる、というわけだ。しかし課長補佐が「どうして私だけが犠牲にならなくちゃいけないんです」と反抗のそぶりを見せると、「そんな意味で言ったわけじゃないよ」とすかさず笑ってとぼけ、「失礼ながら見直した」「私は骨のある男が好きだ」「惚れたらとことん惚れるたちだ」などとおだてる。で、その挙句殺してしまう。
いやまったくすごい狸ジジイだが、この時の加藤嘉の表情、セリフまわしは見ものである。
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