崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

別れる

2010年03月19日 06時22分01秒 | エッセイ
長く勤めた同僚の一人が転職になり、別れの昼食会を私の研究室で行った。このような別れの経験の多い私にとっては感ずるところが多い。当者にとっては別れることより夢をもって新しいところでの適応を始めようとする覚悟であろう。まるでジョン・スタインベックの小説のフロンティア精神で貧乏な人たちがただ夢をもって西へ西へ、移動する場面を思い出す。
 「別れる」ことは古い者と縁を切ることであるが、それだけのことではない。別れることは「残す」意味が大きい。韓国のことわざで「虎は死んで皮を残す。人は死んで名前を残す(호랑이는 죽어서 가죽을 남기고, 사람은 죽어서 이름을 남긴다」という。母が私に残したのは「愛」である。それは広く多くの人に影響するものではないが、私には強く影響している。ただ広く通じるものである。
 別れることで人は評価されたり、人間関係も改善されることも多い。人によって離婚しても愛する人もいる。離別が人間関係を広げ、結びの連鎖にもなりうる。それが愛のネットワークであり、モームの小説「ヒューマンバンディジ(人間の絆)」の絆である。
 私は時々別れのパーティでイエスの最後の晩餐会の気持ちを持つ。かれは最後の晩餐会の意味を我々に見せてくれた。思うこと、考えることが多いこのごろである。