脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

脳機能という物差し②

2019年12月11日 | 二段階方式って?
前稿で「症状だけで理解するのではなく、脳機能という物差しを当てて正確に理解する」大切さを話しました。
実はこの保健師さんとの久しぶりの会話には続きがありましたのでご報告。今日は逆の話をすることになりますが。
同居されているご両親のことです。
A保健師さん「元気なんですけども、何しろおじいさんは94歳、おばあさんは91歳ですから、気にはなります。かといって特別手がかかるというのではなくて、毎日リンゴ山に行ってくれてるんですよ。車でないと無理なので車を運転していきますが、ちょっと心配」
私「大丈夫?お体は問題ないのでしょ?」
A保健師さん「年齢にしたら元気な方だと思います。ただちょっと。以前に比べたらおじいさんらしくないというか、ボーとしてることもあるし、同じことを言ったりもするし、どこか気になるところがあります。そうですね、表情もないし話にも乗ってきませんしねえ。
おばあさんも、以前ほど元気ではないのですが、おばあさんの方がまだしゃっきりしてますね。だからリンゴ山へ行くときには、必ず二人で行ってもらうようにしてるんです」
こういう話を聞くと「90歳を超えた老夫婦ならば元気な方だろう」と思いませんか?
私たちには、一般的に関係する高齢者が「よりよくあってほしい」という気持ちが根底にあるのですね。家族から「気になること」を訴えられても、よりよいことに目を向けて、そのことを重視し「お歳の割にはお元気じゃないですか!」といってしまう…
それがその高齢者を大切に思っていることの表れだと思っているに違いないと、私は思います。
生活上気になることが、誰にでも起きる正常老化の範囲ならば何の問題もありません。もちろんそれを厳密に区別するためには脳機能検査が必要になります。
生きていくうちに、あまりにも大きな出来事が起きてしまい、その変化のために生きる意欲を失ってしまう。それまで生きてきた生活ができずに、生きがいもなければ、趣味も交遊も楽しまない、運動もせず何もせず、ボーとしている。そんなナイナイ尽くしの生活が続くと、司令塔である前頭葉は出番を失って使わないから老化が進むことになります(廃用性機能低下)。これが認知症の始まりなのです。
世の中では、認知症というと上図でいえば大ボケのことを言っています。
セルフケアもできなくて、夜中に騒いだり徘徊したり家族のこともわからなくなっている…
ちょっと考えると、今日まで元気だった人が突然大ボケの症状を出さないことはわかるでしょう。大ボケの前には、中ボケが、中ボケの前には小ボケがあるのです。
ここから先は、脳の機能のことを知っておかないといけません。
最近ようやく高次機能障害という言葉が通用するようになりました。脳卒中や事故などの後遺症で、左脳の失語症や右脳の構成失行など後遺症が残ったときに使われます。ちなみに今までは後遺症といえば、運動の脳の障害、つまりマヒがあるかどうかだけに目が行っていたのです。
このような考え方から言えば、前頭葉機能は最高次機能といわなくてはいけません。
脳が老化を加速し始めるとき、最高次である前頭葉機能から始まるということも、納得できることだと思いますが。もっとも基礎的な機能から低下するというのは無理があります。
興味深いグラフを見てください。これはある地区の高齢者の約80%に対して、個別に脳機能検査を実施した結果です。(231人/303人)

縦軸のMMS検査は、アメリカで開発された簡易な認知機能検査で、左脳と右脳の働きを調べます。三頭建馬車でいえば、馬の働きです。カットオフ値は24と23の間に置くのは世界中で共通で、つまり24点以上あれば合格ということですね。
実は、世の中の認知機能検査はすべて馬の働きだけを調べるものなのです。
横軸は、御者である前頭葉機能(注意集中分配力)を調べています。
MMSだけ実施して24点以上と安心してはいけません。24点以上ある人たちの中に、前頭葉機能検査が不合格になる人たちがいるのです。
脳機能がこの状態の人たちが、小ボケ。脳の司令塔である前頭葉がうまく働いていませんから
・同時にいくつかのことがさばけない
・発想がわかず計画もたたない
・無表情、無感動で居眠りが目立つ
・同じことを繰り返し言う などの症状が出てきます。
繰り返しますが、MMSだけしか実施しなければ、見つかることのない人たちです。

話を聞きながら、「さすがに保健師さん。おじいさんの前頭葉機能がうまく働いていない症状には気づいているから、ちょっと気になっている。ただ、身近な人すぎて、
それが小ボケ、認知症の始まりとまでは思っていないだろう」と思いました。
小ボケは3年間くらい継続しますが、リンゴ山に行っているくらいですから少し控えめに質問しました。
私「1~2年前くらいに、それまでと生活が変わるような大きな出来事があったでしょう?」
A保健師さん「娘を亡くしました。ガンで闘病してたんですが、今年の初めに」
私「それは・・・一番悲しいことですものね・・・今までのようには生きていけないというのはわかりますよね。このことはおばあさんにとっても大きなダメージですよね」
A保健師さん「そうですね。おばあさんも落ち込みました。ただ孫一家が同居を始めてくれたので、3歳と1歳のひ孫たちの世話もあるし、かわいいしで気持ちを持ち直すには一番効果的だったと思います。
おじいさんも、ひ孫をかわいがってくれるんですが、おじいさんの方が状態が悪い原因があります。
胃ガンが見つかって治療をしたんです。それも今年。早期発見できれいに切除できたといわれて一安心しました」
私「治療がうまくいったので再発の恐れは感じてないにしても、食べ方に慣れるまでは何かと大変だろうし、意欲低下が起きても仕方ないわよね」
A保健師さん「今年は甥も亡くしたし。落ち込んでいましたが、そんなに影響したとは」
私「自分より年若い人との別れは、生きる意欲をそぐものよ。もちろん関係が密かどうかによっても違うけど。甥御さんでも遠くに住んでいてたまにしか会わない甥と、近所に住んでいて、小さい時から交流が深い甥とは全然違うし・・・」
A保健師さん「あ、近所に住んでいました。リンゴ栽培の指導者で自慢の甥だったんです」

脳機能検査は必須なのですが、脳機能から症状を理解する習慣を身に付けていると、症状から脳機能の類推ができます。
そうするとナイナイ尽くしの生活がどのくらい続いてその脳機能レベルになったのかがわかります。その「きっかけを一緒に考えること」が生活改善への、最も近道の第一歩だと思います。
94歳でリンゴ山へ行くほどの方ですから、きっとかくしゃくで鳴らしていたはずです。「ボーとしていたら必ず引き立てるような働きかけをする。おしゃべりでもおやつタイムにしても。やってくれたことに対してははっきりと感謝の言葉を伝える。もしゲームができれば勝ち負けがあることがとても脳を刺激するけど。
一番大切なことは、脳の元気をなくしていることを伝えるべきで、理由もはっきりさせてあげる。娘や甥との別れ、病気。そしてこの状況に負けていきいきと生きていかなかったら、脳はますます元気を失うことになる…ちゃんと理解できるのが小ボケなんですから。がんばってね」
長い電話が終わりました。


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