脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

かくしゃくヒント35-マルチタレント奥州市千葉謙さん84歳

2018年07月17日 | かくしゃくヒント

奥州市千葉謙さんのお宅にお邪魔して、短い夏休みを満喫してきました。千葉さんのことはこのブログでも何度も触れていますが直近のを一つ。後半に千葉さんのことを書いています。
「認知症予防講演会 in 奥州市江刺区」

自作のミツバチの巣箱巣箱の全景です。

千葉さんは一言でいうと楽しい方です。
今回も開口一番の発言は「今年は天候が悪かったのか、ミツバチが来てくれないんだよ。巣箱だけでなく歓迎プレートまで用意してやってるというのに!そうか。ミツバチは字が読めないんだったか。ミツバチに字を教えてくれる学校はどこかにないかね」この調子(笑)
千葉さんの家は道からアプローチが長いのです。みごとに手入れされている畑と花壇。

門から振り返ると

門です。

手づくりの看板がウエルカム。以前伺ったときのものとつくりかえられて新しくなっていました。

看板を背にしてみると、遠く奥羽山脈が臨めます。この写真には写っていませんが、びっくりするほどの残雪が見えました。

「今年はミツバチも来なかったけど、植木屋さんもなかなか来てくれなくてね。庭中の松をボクがちょちょっと作ってやった。葉を整理して枝を誘引して、結構楽しいもんだったさ」

玄関わきにはこんな大きな松も。梯子をかけて、まるで本職の職人さんのようだったでしょうね。


心の字池の周りには松が何本もありました。

ちょっと向きを変えて。

千葉謙さんは多彩な人です。趣味は幅広く、また何をやってもすぐに玄人はだしの域に達する方なのです。書画、陶芸、木彫、お囃子もできれば歌も楽しめる。そうそう、そば打ちも名人でした。
千葉謙さんにかかると、盆栽も一味違います。
「山に行って、実生を見るとかわいくってねえ。連れて帰ってやらないわけにはいけない気持ちになっちゃって」

「それから、盆栽に仕立てたり、寄せ植えを作ったり。だいたい僕は人のまねするのは嫌いだから、自由なもんさ」
確かにいろいろな段階の作品たちが所狭しと存在を主張していました。

「寄せ植えは楽しいよ。言えば自然を写し取るようなもんだから」

都会の人で退職後畑づくりに手を染めた人たちは別ですが、農家の場合、野菜作りを「なさねばならない仕事」と思っている人は多いと思います。千葉謙さんにかかるとこうなります。
「カボチャを土手に這わせて収穫したという話をよく聞くけど、ボクくらいのプロになると、カボチャは整列させちゃうんだから。脇芽をとって、小さな竹の短冊を作ってまっすぐに誘導する。そうするといい実ができるんだよ」
「右はダークホース。左は坊ちゃんカボチャ。お互いに挨拶できるようにダークホースは右から左。坊ちゃんは左から右に進ませてる」

冗談のように聞こえますが、「15節目で…」という言葉が聞こえたような。つまり研究も実践もやったうえでの「カボチャの整列」のはずです。とにかく謙さんにかかると何だか全体的に楽しそうになってしまうのです。
掃除だって、軽やかです。写真を撮り始めた私に「3分待って」というと長靴姿で草刈り機をもって登場。前庭の芝生部分を、ほんとに3分かからずにきれいにされました。

私が泊めて頂いた客間から見えた「お田の神さま」です。ほんとにみごとに、徹底したお掃除ぶりです。ここまできれいだと、「きれいにすることが楽しい」何か、そういう気持ちがうつってくるような気がしました。
客間から西側の景色。杉の木立があってその先には手入れが行き届いたクルミ林が続いていました。

趣味らしい趣味の話に戻しましょう。
駅からの車中はゴルフの話でもちきりでした。
「昨日、稲瀬のゴルフ同好会の連中と盛岡まで行ってきてね。なんと準優勝。だいたいが現職のみんなが交流を目的としてやってるわけだから、40,50の人たちが多くてね。ボクは84歳で準優勝だから!」
「それはすごい!」
「それだけじゃなくて、実はニアピン取ったんだ」
「すご~い」
「それにね、何とドラコンもボクのものさ」
「え~ニアピンもすごいけど、ドラコンの方がもっとすご~い。盛岡まで行ってよかったですね!」

縁側の上がり框のところに小さなテーブルがあって、その上にニアピン賞とドラコン賞がお行儀よく並んでいました。もちろん苔玉も千葉謙さん作。
「いらっしゃったお客さんに自慢するつもりでここに置いてあるんでしょう」というと、
「もちろん。そうだよ」と、悪びれたり恥ずかしがったりするところはゼロです。いいですねえ。
ところで、敷地の一角にアプローチコースを作って、「草取りと思うよりグリーンの手入れと思った方がいいもの」というほど入れ込んでいたんですが、クマ出没のニュースもあってアプローチコースは中止。
そうすると、早速その一画が野菜畑になってました。

ブルーベリー園も開園。大粒のや小粒のや。ここでもきっといろいろな情報を求めて工夫されていることでしょう。

見たこともないものも置かれていました。これは何ですかと尋ねたら
「コルゲートパイプ。道の下に通したりして工事で使う。頑丈なものだから、いらないといわれて即いただき!さ」これなら山芋だってできそうでした。

今日は千葉さんのマルチタレントぶりを家の中に限ってお伝えしましたが、本当のマルチな活躍は社会活動の部分にあります。
「朝は4時半に起きるのさ。暑いこともあるけど、ボクは昼からはだいたい用事で出かけるから、家のことは朝のうちにすまさないと」
昼からは、公的なことに引っ張りだこのようです。佐野向としとらんと会の仲間の世話、自治会のこと、老人会のこと、お寺の総代としての活動、地区振興会の会長さんもされてましたね。とにかく電話がよくかかってきます。この下のブログでその片鱗は伺えると思います。
「かくしゃくヒントー裏の山にいます」
「佐野向はまとまりがいい、とか仲がいいとか、活動が活発とか言われるんだよ。もともと密なつながりのある地域だったけど、としとらんと会ももう12年もやってるし。花いっぱいという掛け声をかけ続けたおかげで、ここは花がたくさんある地域になったよ」
確かに、道に設けられた花壇だけでなく、家の入り口や畑の一部にもお花があることは、車を走らせたら誰でも気が付くと思います。
この古タイヤ利用の花壇も、千葉謙さんの声掛けですって!道のそこここに置かれていました。


「レビー小体型認知症」って増えてますが。

2018年07月17日 | 二段階方式って?

またまた、保健師さんとの話(0点と1点の間)の続きです。
グループホームに入所した後に、改善がはっきりしてきたお母さんでした。そのお母さんが、たまたま受診したところ、ドクターから
「お母さんの認知症はレビーー小体型です」という「診断」が出てしまった…

「母のことは、二段階方式で勉強した通りの経過が追えました。本当に、脳の使い方で、症状が良くなったり悪くなったりするんですよね。生活習慣病という意味がよくわかりました。
そうなのですが、ドクターから「レビー小体型」と言われてしまうと、気持ちにすごく大きい影響を受けてしまうのです!?
やっぱり、ドクターから診断されるということは大きいです」


私「お医者さんより、娘のあなたの方がはるかに経過も現在の状態もよくよくわかってるんじゃあないですか?二段階方式の基本的な考え方『脳はイキイキと使う状況がなくなると、廃用性機能低下を起こして老化が進む。イキイキとした生活を取り戻すと改善する』で、説明がつかないとか納得できないことがありますか?」
「言われてみると、中ボケになりかけた昨年6月に受診した時も、『脳の画像には問題がありません。日にちを忘れることなんて誰にでもあります』と言われ、私の焦りは全く理解していただけませんでした。
進んでいく経過が見えるだけに、きちんとした説明を期待するのですが、それは今の医療機関ではやっぱり無理ですね・・・。」


私「認知症の専門であるほど、重症化してしまった人たちを診ることになるでしょう?小ボケや中ボケの人たちは専門医には受診しませんから。大ボケの症状に注目すると小ボケや中ボケの人たちの症状は、全くとるに足らないと思われてしまいます。脳機能という物差しを使えば、通常の老化とは全く別物の機能低下が起きていることはすぐわかりますが」

「今回の『レビー小体』の言葉は、認知症としての症状もかけ離れているので、気持ちとしては全く理解できない状態です!
幻視といっても、2年前に二度あっただけですし」


電話の後、レビー小体型認知症について調べてみました。
中核症状
1。注意、集中力の変動がある。
2。具体的な幻視が繰り返し起きる。
3。パーキンソニズム(パーキンソン症候群)が見られる。
4。レム睡眠時に、睡眠行動の異常が見られる。
バイオマーカー
1。基底核のドーパミン取り込み低下。
2。心筋シンチグラフで取り込み低下。
3。睡眠時ポリグラフで筋活動低下を伴わないレム睡眠。

これだけ並べ立てると、とっても特殊な認知症のようですね。
この中核症状に続く、診断基準を読んで唖然としてしまいました。
Probable DLB(レビー小体型認知症)
①中核症状4項目中2項目が当てはまる。または
②中核症状4項目中1項目。プラスバイオマーカー3項目中1項目以上妥当。
私にとってはバイオマーカーは専門外ですから、①を検討して見ましょう。
1。注意、集中力の変動は前頭葉機能低下の結果ですから、小ボケより症状が重い人にはいつでもおきます。このような場合に一番大切な「どの程度」が基準として示されてない状態で、どうやって1に当てはまると「診断」できるのでしょうね。
2。パーキンソン症候群は、一般の人たちはパーキンソン病とイコールだと思っていますが、無表情や小刻み歩行など小ボケの人たちでも起こす状態をパーキンソン症候群と言うのです。パーキンソン病と確定診断するためにはさらなるステップが必要です。
付け加えると、パーキンソン症候群も大体はパーキンソンと省力して言いますよね。余計誤解を生みます。
この1と2があれば、Probable DLB。日本語で言えば「多分」レビー小体型認知症。
しつこいようですが、この1と2があれば、レビー小体型認知症じゃないかと言っても間違いではない…ということになります。
「そう言われてみると、確か先生のお話には『レビー小体って言っても問題ない』というようなニュアンスがあったような気がします」

つまり、ドクターは病名をつけてあげたかったんだと思いますよ。
勉強すれば、アミロイドベータ説はもう使えないことは知っていらっしゃるかもわかりません。
原因不明のままとされている「アルツハイマー型認知症」というよりは「レビー小体型認知症」といったほうが、きちんと診断を下してあげた感が強くなると思いませんか?
診断を下された方は、今回のように納得できなくても!

ちょっと勉強した方は、幻視やひどい寝ぼけ行動のような華やかな(?)症状が、一般的なレビー小体型認知症の必須条件だと思っていませんでしたか。
それでも頻度やどの程度かが診断には必須のはずです。そこは置いておいても、その二つが二つともなくてもレビー小体型認知症(だろう)と言っても問題はないと知っていましたか?
私は知りませんでした。

付録
Possible DLB(もしかしたらレビー小体型認知症?)の条件
中核症状4項目のうち1項目。または
バイオマーカーだけが1項目以上
これなら、認知症ならなんでもレビー小体型認知症の可能性があるといってもいいことになってしまいます!(初掲載2017.12.17)


兄のことー前頭葉の話

2018年07月17日 | 認知症からの回復

先月亡くなった兄のことを、パワーポイントにまとめてみました。
来週小布施町へ行きますので、その時にお話ししようと思ったのです。

理由はあります。兄が「小ボケの怖さ」「脳リハビリの大切さ」を実感してくれて、「ぜひぜひ皆さんに伝えるように」といってくれたからなのです。

脳がイキイキと働いてくれるということは、とても幸せなことです。せっかく生きているのですから自分らしく生きていかなければ・・・
その時のカギが「前頭葉」です。「前頭葉」こそ自分らしさの源です。
どの道を選択し、どのように生き、どのようにその生き方を評価するか。
何に興味を覚え、何を喜び、何に感動するか。そのすべてを、自分の前頭葉が決めていきます。

前頭葉機能について、エイジングライフ研究所のもう一つのブログで説明してありますのでご参考までに。(2月15日公開)
脳の司令塔の役割を担う「前頭葉」には人間に特有な数多くの高度な機能が備わっています。その「諸機能」とは、観察、分析、考察、洞察、推理、理解、興味、発想、企画、計画、工夫、創造、予見、シミュレーション、整理、機転、抑制、感動及び判断等の認知機能A
並びにそれらの認知機能を発揮する上での「機能発揮度」の基礎となる「三本柱」の機能ともいうべき「意欲」、「注意集中力」及び「注意分配力」の機能(B
及びそれらに加えて最終的な実行内容を選択し決定する上で不可欠な機能である「評価の物差し」としての「評価の機能」C)などに区分されます」

「小ボケ」は その大切な「前頭葉」が元気をなくしてしまっている状態です。
兄の場合は、自営していた会社の経営実権を長男に譲った直後に、血糖値が急に上昇して緊急入院したことで、退院後にそれまでの生活を一変せざるを得なかったのは、容易に想像がつきます。
仕事が好きだといつも言っていた兄。
自分で起こした会社の経営に心を砕いていた兄(つぶさないようにするだけでも大変だったことでしょう)
男性なのに甘いものが好きだった兄。食事の楽しみも制限されてしまった・・・

入院中の兄と花火を見ながら「このままでは、危ない橋を渡ることになる。生活を変えて三頭立ての馬車がいつも走っているようにしなくては!まず歩いてね」と話したのです。(2010年8月)

Photo

そのターニングポイントから1年たったころに、母の法事で兄に会って、私は兄の前頭葉機能がはっきりと低下していることがわかりました。(2011年8月)

家族は
「なんだか元気がない」「おんなじことを言う」
「動きがモタモタしている」「根気がなくなった」
「よく居眠りしている」などと気にはしていても、
「もう年だし、長い間苦労してきたのだから。ご苦労様でした」という気持ちが先に立って、兄が何もしないでいてもそっと見守る状態だったと思います。
その気になって、自分のしゃべりたいことをしゃべる時には、まるで以前と変わらなかったはずです。
この時の兄のレベルでは、まだまだ世間の皆さんも前頭葉の機能低下が起きていることには気づかなかったと思います。もう3年もすればひそかに噂されるくらいでしょうか?
はっきり「気の毒にボケちゃったんだって」といわれるまでには、まだまだ6年も7年もかかります。

「今生活を変えなくては!」「脳を生き生きと使わなくては・・・・・ボケちゃうの!」
1年前と同じ私のことばを兄はよく聞いてくれました。私と兄だけが危機的な状況を理解したと思います。早いほど、脳機能低下の自覚があり、改善が楽だからです。(スライド内の・・・は絵文字です)

20119













それから、交換メールが始まったのです。
最初は数字だけ(そう私が言いました)
9月17日477歩。16日1839歩。15日2538歩
16*183915*2538とつながっていたので、ちょっとパズルを解くような気分でした兄のメールは全部保存していましたが、私の返信メールは10月末までありません。
1か月半経つと、慣れないせいか携帯のミスタッチもありまだパズル状態ですが、歩数のお知らせだけでなく、私に話したくなった兄の気持ちが伝わってきます。。(「・・・」は絵文字)

1年後(自然への思いに溢れて)              

201210

約2年後(目標歩数は6000歩でした)
20138

短いメールの中に、会社の皆さんや家族への感謝や、今の社会に対する不満や、経済のこと、選挙の見通し(兄は選挙好きでしたから)、思い出など様々な話をしてくれました。
出会った動物たちとの交流も兄らしい一面でした。散歩中にイヌやネコと出会うことをとても喜び、「アンパンを持って行ったのに来なかった」とかウグイスの鳴き声の変化を追ったり、キジやシカに出会った時などは、兄の興奮が伝染しそうでした。

201312

前頭葉は意欲的なのに、体が言うことを聞かないもどかしさを訴え始めたのは9月半ば。入院はしたもののはかばかしくなく病状は一進一退。兄は、歩けないことをとても残念がりました。
私は海外に行っていたのでしばらく返信できずにいる間に、12月に入って間質性肺炎の診断を受けたのです。その後転院して精密検査を受けたら胃癌も見つかり・・・あっという間に亡くなりました。1月25日でした。
でも、そんなにつらかったとは。

亡くなった時に、お医者様が
「そこまで元気に生活ができたのは不思議なほど」といわれたほど、病魔は巣食っていたらしいです。

Photo

体の健康があっての人生ですが、どんなに健康な体があっても、その体を使って生活するとき「私らしくありたい」と思いませんか?
繰り返しますが私らしさの源は前頭葉です。

兄は小ボケから見事にカムバックを果たし、兄らしい前頭葉を取り戻すことができました。家族の働きかけもありましたが、脳リハビリのベースを支えたのは「毎日歩いた」ということだけです。
認知症を治すには、早く見つけること、そして脳を使うという生活改善(一番簡単で効果的なのは歩くこと)がどんなに大切なのかわかっていただけるでしょうか?
兄は人生のラストステージで確かに兄らしい生活を送ることができました。けれども体は病気に勝てなかった・・・

「体のことはみんな言うけど、脳の健康が大切だと、講演の時に皆さんに伝えて」と、兄が上のように言ったのは去年の夏でした。(初掲載2014.2.2)

 

 

 


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