水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

雑念ユーモア短編集 (96)疲労

2024年06月05日 00時00分00秒 | #小説

 疲れていないときと違い、疲労していれば正しい判断が出来ないこともある。疲れ・・という体調の悪さが正しい判断を鈍らせる訳だ。ただ、その程度で済めばいいが、余計な雑念が邪魔をして間違いを起こさせることもある。
 宝木は疲れていた。山に登ったのはいいが下山の途中、、地図[マップ]に出ていない獣道(けものみち)に迷い込んでしまったのである。
「少し休むか…」
 宝木は獣道の脇へドッペリと腰を下ろした。荷は小リュックだけだから、そう重さを感じることはなかったが、ヨタヨタと20分ばかり歩いたため、喉が渇いていた。山小屋を出るときに補給した水筒の水は四分の一ばかりしか残っていない。この先、どうなるか分からないから、残った水は貴重である。しかし、喉の渇きは我慢できず、宝木はその貴重な水をひと口、そしてもうひと口と飲んだ。その結果、渇きは癒(いや)され、疲労の苦しさも少し治まった。すると妙なもので、頃合いの雑念がスゥ~っと閃(ひらめ)いたのである。
『そうだっ! コンパスで、まず方位を知ろう! 太陽は今の時間であの位置だから…こちらから来たとすると…』
 そこまで考えた宝木はコンパスで東西南北を計った。すると(たど)歩いた方向が逆であることが判明した。宝木は反転し、元来た獣道を引き返し始めた。山の傾斜だけで下るのは反対側へ出る場合もあることは過去の登山で分かっていたから、宝木は進む方角だけを第一と考えたのである。その判断は正解だった。20分ほどすると獣道から本道へ戻れたのである。あとはもう一方の道を辿(たど)ればいい訳である。
 そして数十分後、宝木は無事に登山口まで下山出来た。
 疲労したときは無理をせず、ひと呼吸おきましょう。そうすれば、必ずいい雑念が浮かぶと思います。^^

                    完


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 雑念ユーモア短編集 (95... | トップ | 雑念ユーモア短編集 (97... »
最新の画像もっと見る

#小説」カテゴリの最新記事