水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

それでもユーモア短編集 (17)踏(ふ)ん張(ば)る

2019年03月27日 00時00分00秒 | #小説

 お相撲(すもう)の土俵際(どひょうぎわ)で、力士が危(あや)うく寄り切られそうになり、それでも、ぅぅぅ…と、必死に踏(ふ)ん張(ば)る姿は観戦する人々を興奮させ、なにも汗など握らなくてもいいのに、手に汗を握らせる。^^ 踏ん張った挙句(あげく)、逆転して勝とうものなら、ヤンヤの喝采(喝采)となる。これはお相撲に限ったことではなく、どのスポーツ、いや、人々が暮らすすべての生活にも言えることなのである。
 とある公園のトイレ前である。イベントがあった関係からか、長蛇(ちょうだ)の人の列が出来ている。
「おっ! まだ、踏ん張っておられますなっ!」
 先ほどまで一緒に並んでいた中年男がまだ並んでいる中年男に声をかけた。声をかけた涼(すず)しげな表情の男に対し、並んでいる男は限界が近いのか、催(もよお)しを必死に耐える表情だ。
「ああ、あなたはっ! …『ちょっと抜けますから』とかなんとか言っておられましたが…」
「はあ、もう済みました。ははは…」
 男は、ゆとりの表情で返した。
「済みましたとはっ!?」
 限界が近いこともあってか、並んでいる男の声は鋭さを増した。
「ははは…コレ、ですよっ!」
 ゆとりの男は片手に持った袋を徐(おもむろ)に並んでいる男の前へ差し出した。少し匂いがしたから、並んだ男もピン! ときた。
「ああ、そういうことですか…」
「ええ、そこに手頃(てごろ)な繁(しげ)みがありましたので、そこで…」
「なるほどっ!」
「もう一枚、袋ありますから、よかったら、お宅もどうですっ?」
「はっ、はいっ!! おっ、お願いしますっ!!」
 男は神や仏に祈るかのような声で懇願(こんがん)した。そして渡された袋を手にすると、疾風(はやて)のように茂みの中へと消え去った。
 こういう場合の、それでも! は危険で、踏ん張らない方がいいようだ。踏ん張ると漏らすことになる。^^

                                  


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