幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第百三回
ここは霊界である。霊界司と霊界番人の遣り取りが続いていた。霊界会議が緊急に開かれたのだ。
『仰せのままに致しましたが…』
『左様か…。ならば、よかろう。このまま昇華させた者と人間界の者を別れさせるのは、いささかのう…』
『はい、私めも、そのように…。あの者達は、今までにはない異端の者達でしたから…』
『そうよ…。お前も幾度(いくたび)となく呼ばれたらしいからのう。まあそれは、儂(わし)が命じて授けた如意の筆のせいでもあるのだが…。おお! そうよ、その如意の筆は如何(いかが)致した?』
『昇華とともに、ここへ戻っております』
霊界番人の光輪の中央が、ピカリ! と一瞬、黄金色に輝いた。
『それならば、よかろう』
こうした会話が霊界で続いていた頃、上山は岬の住むマンションのチャイムを押していた。
「あっ! 課長、どうぞ入って下さい」
「お久しぶりです、上山課長」
岬夫妻に入口で迎えられ、上山はマンザラでもない。
「やあ! お邪魔します…」
上山のその声は、亜沙美の胎内にいる平林にも聞こえていた。
『課長! 僕ですよ!』
無論、胎内の平林に声は出せない。気持で、そう語っているのだが、上山に聞こえるべくもない。平林は胎児として少し動こうか…と思った。
「あらっ! 初めて動いたわ、あなた。お医者様が云ってらしたのより少し早いんだけど…?」
「んっ? そうか…。らしいです、課長」
「おお、亜沙美君、よかったな。よかった、よかった!」
テンションを高め靴を脱ぐと、上山は岬夫婦に促されるまま、リビングへ入った。
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