水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

雑念ユーモア短編集 (99)さて…

2024年06月08日 00時00分00秒 | #小説

 齢(よわい)を重ね、年老いると物忘れすることが増える。脳細胞が、はぁ? と考え込むようになり、老化する訳だ。^^ これはもう、個人の問題ではなく、誰しも起きることなのである。なぜだ? どうして? などと雑念を挟む余地はなく、そうなるのだから致し方がない。^^
 野辺山は、やりかけていた残業を停止して考え込んでいた。
「どうしたんです? 野辺山さん」
「えっ!? いや、まあ…」
「私、先にやって帰りますよ。いいですか?」
 同じ残業をしていた鉾海は訝(いぶか)しげに野辺山を窺(うかが)った。
「はあ、どうぞ…」
 鉾海は首を傾(かし)げながら先に作業場を出て行った。野辺山が考え込んだのには理由があった。ふと、浮かんだ今夜の総菜である。朝、家を出るとき妻に頼まれた買い物が何だったのか? を忘れてしまったのである。さて…と、野辺山は椅子に腰を下ろすと腕組みをした。残業は出来なくても明日の朝にやればいいが、問題は差し迫った今夜の総菜だ。買えないと妻に何を言われるか分からないのだ。野辺山の脳裏に、思い出せない総菜の代わりに別の雑念が浮かんだ。
『結婚した頃は、あんなじゃなかったが…』
 若い頃の優しかった妻の笑顔が思い出されたのである。
「まあ、いいかっ!」
 何がいいのか分からないが、野辺山は残業をやめると、そのまま帰途に着いた。
 さて…と考え込むほど思い出せないときは、雑念に沈むことなく、いつまでも考えないことですね。^^

                   完


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