水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

ユーモア推理サスペンス小説 無い地点 <2>

2024年06月20日 00時00分00秒 | #小説

 捜査本部で何をゴチャゴチャ捜査しているのか? を説明しよう。^^
 五体のミイラが森林に乗り捨てられた車内から発見された。現場検証の結果、殺人と思えなくもない不可解な事件である。設置された[謎のミイラ・捜査本部]は鳩村にとっては有難迷惑な事件にも似た一件だった。自殺、他殺、その他の原因と、憶測は憶測を呼び、捜査本部は混迷していた。現場に残された車内の地図には国土地理院の地図にもない不思議な地名が多数、記されていた。現実には無い地点ばかりだったのである。
「まあ、とにかく捜査に当たってくれ…」
 捜査本部で指揮を執る新任の鳩村にすれば、そう言うのがやっとだった。
『それで、いいんですか? 署長…』
 右に座る庭取が小声で呟くように訊ねた。首は動かさず、正面の刑事達を見た姿勢のままである。
『? ああ…』
 鳩村とすれば、そう返すしかなかった。新任のため、まったく要領を得ないのである。恥を搔く訳にもいかず、ポカミスをする訳にもいかなかった。なにせ、無傷で来年の春を待てば現場を離れ、本庁へ返り咲けるのである。それは、本人の鳩村を含め、誰もが分かっていた。鳩村は、ああ…と返した後、何か拙かったか? と自問した。


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