貧乏から抜け出せない芥山(あくたやま)は、なんとか金持ちになろう…と、雑念を巡らせた。その挙句、導き出した結論は食事業でのひと儲けである。そこで芥山はまず、小規模の仕出し弁当屋を始めることにした。小規模とは平たく言えば屋台での出店である。中古で買ったキャンピングカーを知り合いの自動車屋に頼み込んで調理専門車に改造し[陸運局へのへの届け出も含む]、芥山は小規模ながら事業を展開し始めた。
最初の一日は、七食分作ったが二食残ってしまったので、夕飯と朝食に回そうと考えた。この雑念には無駄がなく、五食分の儲け-(原材料費+諸経費)=一日の純利益の計算通り、幾らかのお金が芥山の手元に残った。芥山はその金を手にし、ニンマリと哂(わら)った。小金持ちになったような気がしたのである。この繰り返しをひと月ほど続けた芥山は、アルバイトを二人ほど雇える金を手にした。俺はもう、貧乏じゃないぞ…と、新しく購入した手持金庫に儲けた金を入れながら笑った。その後、新しく雇い入れたアルバイトをフル動員して弁当販売を続けた結果、芥山の通帳にはかなりの額が残るまでになった。芥山は、はっはっはっ…と大声で呵(わら)った。芥山は貧乏から完全に抜け出せたのである。だが、貧乏から抜け出せた芥山に病魔が襲いかかったのである。死の床に着いた芥山は、貧乏な方がよかった…と、大金が印字された通帳を見ながら病室で泪した。
貧乏な方が裕福よりいい場合もあるようです。^^
完
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