トシの読書日記

読書備忘録

イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン

2010-04-18 16:21:02 | ま行の作家
村上春樹「1Q84 Book1 Bo o k2」読了



今週発売される同タイトルの「Book3」を読む前に(予約済)もう一度おさらいをしておこうと思って再読しました。


去年読んだときには、もちろん面白いのは面白いんですが、ちょっともやもやしたものが残ったんです。でも再読して、かなりすっきりしました。

しかしこれは読めば読むほど難解な本です(笑)この小説のポイントは「Book2」の中ほど、青豆がホテルオークラのスイートルームへ宗教法人「さきがけ」のリーダーを「あちら側の世界に移す(つまり殺す)」ところの場面にあると思われます。ここをじっくり読むと、この小説世界の成り立ちがかなり明確につかめてきます。


この世に「善」と「悪」の境目のない頃から存在した(あるいは観念としてあった)リトル・ピープルの「声」を聞くことができるごくわずかな人間の一人である「さきがけ」のリーダー。そしてリトル・ピープルの存在を(あるいは観念を)世に知らしめてしまった、小説「空気さなぎ」の著者、ふかえりとそれをリライトした天吾。リトル・ピープルにとっては、このふかえりと天吾は非常に邪魔な存在なわけです。しかし、「さきがけ」のリーダーが殺されることで、この二人はリトル・ピープルから危険にさらされる必要がなくなると。だから青豆は自分の命をひきかえに天吾の命を助けるわけです。


文章に書くことで自分の頭の中をまとめようと思ったんですが、かえって段々わかんなくなってきました(笑)これは「Book3」を読んですっきりするしかないみたいですね(苦笑)


すべてを読んでもう一回まとめるとしますか。

「Book4」が出るといううわさもありますが(笑)




書店で予約した村上春樹「1Q84 Book3」を受け取るついでに以下の本を購入


筒井康隆「銀齢の果て」
万城目学「鹿男あをによし」
ジュンパ・ラヒリ著 小川高義訳「見知らぬ場所」
吉本隆明「夏目漱石を読む」


また、ネットで以下の本を購入


多和田葉子「文字移植」
佐伯一麦「鉄塔家族」
藤枝静男「悲しいだけ/欣求浄土」

ア・ラ・モードの味

2010-04-18 16:05:13 | あ行の作家
池波正太郎「江戸の味を食べたくなって」読了


池波正太郎エッセイシリーズ第二弾であります。このエッセイは、あちこちに書いたものをまとめたもののようです。

食べ物の素材に対する思い出、フランス旅行で見つけた江戸の面影を感じさせる居酒屋「B・O・F」への偏愛を綴った散文、池波氏が愛してやまない天ぷら屋と寿司屋の主人を招いての座談会、絶筆となった短編小説など、盛りだくさんの内容です。

いやぁいいですねぇ。堪能しました。この中で、第一部「味の歳時記」の二月のところに「小鍋だて」というものがあって、これがやたらうまそうなんですね。底の浅い小鍋に出汁を張り、浅蜊と白菜をざっと煮ては、小皿に取り、柚子をかけて食べる。ただこれだけのものなんですが、池波氏の文章の表現力でとんでもなくおいしいものに感じられるんですね。ただ、気をつけるのは、入れるものは二種類か三種類。あまりごたごた入れるのは野暮ってもののようです。今度、自分でやってみようと思います。

軽妙洒脱な心

2010-04-18 15:53:58 | あ行の作家
池波正太郎「夜明けのブランデー」読了


「週刊文春」に連載されたエッセイであります。著者直筆の挿絵も載せられていて、なかなかしゃれた造りになっています。

これまで、同作家のエッセイは「散歩のときなにか食べたくなって」等、食にまつわるものしか読んでなかったんですが、この作家は映画、芝居(洋の東西を問わず)に相当精通しているようで楽しく読ませてもらいました。もっとも、池波氏は元々芝居(時代劇)の脚本を書いていた方ですから当たり前といえば当たり前なんですが。


滋味溢れるエッセイでした。池波正太郎のエッセイ、もう一冊いってみます。

比類なきリアリスト

2010-04-18 15:44:38 | あ行の作家
内田百「第二阿房列車」読了



先日の「一箱古本市」で購入したものです。同作家は、以前にも1冊エッセイを読んだんですが、まぁいいか、くらいの気持ちいたところ、「古本市」でこの本を見つけ、なんだか買わないと悪いような気になってつい買ってしまったのでした。


これも「百鬼園随筆集」と同じテイストの、ユーモアあふれる、とぼけた、しかし観察眼の非常に鋭いエッセイであります。エッセイというよりは紀行文といったほうがぴったりくるかもしれません。


昭和30年代に走っていた国鉄の特急、「つばめ」、「桜」、「はと」、「越路」等に乗って九州の方へ行ったり、新潟の方へ行ったりして、見聞したものをまとめたものです。


まぁどうということのない本でしたね。ユーモアはたっぷりです。がしかし、自分のツボではないですねぇ。って前にも同じことを書いたような…(笑)

フェアプレーに徹する

2010-04-18 15:23:59 | や行の作家
山口瞳「男性自身~冬の公園」読了



なにかの折々にふと山口瞳を思い出して読んでみると、心の中にわだかまっていた鬱屈としたものがきれいに一掃される感じがして、すがすがしい朝を迎えたような思いになります。本書はもちろん再読ですが、やっぱり山口瞳、いいですねぇ。


冒頭の「ザボン」というエッセイ。プロ野球の練習風景を見るという仕事があって筆者は熊本の島原へ船で渡る。そこの旅館で二泊して帰る段になり、港へ行くんですが、野球チームの広報の田村さん、旅館の主人、仲居さんが見送りに来る。ここからは本文の引用です。

「小さな港。小さな船。船長と船客。岸壁。出港を告げるアナウンス。浅いつきあい。別れ。五色のテープ。こりゃあやっぱり相当におかしい情景であるといってよい。笑うより仕方がない。(中略)船室は椅子の部屋と日本間とになっている。(中略)船員がお茶とスポーツ紙を持ってきて、すぐに出ていった。私は一人になってレインコートを着たまま畳のうえに寝ころんだ。
 思いがけないことが起った。私の目から涙があふれてきたのである。それをどう説明してよいかわからない。なんだい、こりゃ『伊豆の踊り子』じゃないか。おかしいね、俺は37歳じゃないか、いやになるね。それともなんでもないことに泣けるのはいいことなのか。そんなことはあるまい。悲しいね、泣くなんて。バカバカしいよ。私は鎮静剤をのみスポーツ紙を頭にかぶってすこしねむった。」


これです。これが山口瞳なんですね。この心情、ものすごくよくわかります。こういったシーンが自分の琴線にビンビン触れるんですねぇ。


こういった部分を挙げるとキリがないんでこのひとつにとどめておきますが、この山口瞳の人に対する厳しさとか優しさの、その態度というのは誰に対してもフェアな関係を築きたいという思いなのではないでしょうか。

対する相手によっては、自分を有利な方向へ導きたいがために、おもねったり、妥協したり、強引にしたりしがちなんですが、それをしない「強さ」というものを山口瞳に感じます。


久しぶりに山口瞳のエッセイを読んで、心が洗われる思いです。