ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…水戸 『山翠』の、アンコウの氷鍋

2016年07月03日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
夏の常磐路のアンコウ探訪、神立から水戸に到着したのはちょうど13時過ぎと、梅雨の谷間晴れの蒸し具合がピークの時間帯となった。アンコウカレーでスパイシーに代謝を上げた勢いにのって、暑さにも負けず駅から近い水戸城址を、グイグイ歩いて散策する。城門だった薬医門の残る本丸から、大日本史編纂の地碑が立つ二の丸、藩校弘道館のある三の丸へ。光圀公や徳川御三家ゆかりの史跡を巡れば、水戸にやってきた実感が湧いてくるというものだ。

当地のブランド地魚であるアンコウも、実はこの両者との縁が深い。鹿島灘沿岸でとれる「常磐もの」のアンコウは、江戸時代には水戸藩から当時の将軍・家茂や皇室へ献上されるなど、品質がよく当時から高値で取引されていた。また徳川光圀公は美食家で地産地消を実践しており、アンコウも好んでいたとの記録がある。こうした評価に加え、水揚げ地である大洗や那珂湊から10キロほどと近いことも、水戸で古くからアンコウの食文化が発達した理由といえる。

そして水戸のアンコウ料理店といえば、地元で真っ先に名前が挙がる老舗が、泉町の「山翠」だ。店の由緒書きに「元祖あんこう鍋」と標榜するように、漁師のまかない食だった「どぶ汁」を郷土の鍋料理に仕立てた、起源の店ともいわれている。暑いときには熱いものをあてるとよいといわれるし、猛暑の中を歩いた夕食に鍋も悪くない。しかし肝が細く身が痩せ気味な夏のアンコウ、鍋のタネとしてどうなのだろうか。やや気にしつつ、日が暮れてやや涼しくなった駅前通りを歩くこと10分ほど。店頭のアンコウ鍋の石碑に迎えられ、大口を開けたアンコウの柄の暖簾をくぐった。

品書きを開くと、アンコウのほかにも奥久慈軍鶏、ぶな豚など、郷土の味覚が各種揃っている。そこでお昼と同様に、まずはビールのアテをご当地品から選んでみた。水戸のご当地品とくればやはり納豆で、マグロ、イカと並んで目に入ったイワシ納豆が珍しい。刺身を添えた納豆かと思いきや、焼いたイワシの身が数片のっており、ザザッと混ぜ合わせてネバッとひと口。たっぷりの玉ネギの刺激で暑さ負け気味の胃が覚醒し、本場ならではの濃厚なねばりの納豆のおかげもあり、体調も食欲も一気に回復基調となってきた。

そこですかさず主菜のローカル魚を、とアンコウ鍋のメニューを眺めたところ、「氷鍋」との見慣れぬ品が。お姉さんによると、名の通り冷製のアンコウ料理だそうで、氷を敷いた上にのせた小鍋に冷たいダシを張り、そこへアンコウを仕立てているという。実に夏らしいアンコウ料理、いや鍋とばかり、熱いもの路線を変更してこれを注文。味噌ダレとポン酢の二種のつけダレに、京都の黒七味、韓国唐辛子、ニンニク、大葉、ねぎ、もみじおろしの六種の薬味が運ばれ、続いて氷敷きの重にのった小鍋が登場した。見た目にも涼感をそそり、これは徳川のお殿様もさすがに思いつかない意外性である。

俗に「アンコウの七つ道具」と呼ばれる鍋のタネのうち、氷鍋に使われているのは身と皮、水袋(胃)、ヌノ(卵巣)の4種。目玉であるアンキモがないのは、季節柄ながらちょっと残念か。つけダレは濃いめなので薬味はお好みで組み合わせて、との説明に従いまずは身から。するとパツンとはじけ押し返すような弾力が、温かい鍋でのホックリ感と対照的だ。ほぐれた繊維はしなやかできめ細かく、ヒヤリと澄み切った舌触りが実にインパクトある。ポン酢にニンニクと大葉をのせたら、カツオのたたきを思わせる夏らしい味に。味噌ダレに韓国唐辛子とネギでいくと、彼の地のアンコウチゲを思い出す。一番辛口の地酒を、と頼んだ水戸の「一品」が、切れ味抜群で冷たい鍋が進むこと。

茨城県のアンコウが通年水揚げされながら、流通が冬場に偏っているのは、鍋への需要の高さとアンキモが珍重されることが大きな理由である。ほかの季節は肝が縮み高値がつかないため、冬場まで冷凍しておく漁師や店舗もあるのだとか。とはいえ身の味は通年落ちにくく、春から初夏は脂ののりがひかえ目で淡白なおかげで、鍋の季節とはまた違った味わいが楽しめるのだ。この店の氷鍋でも夏のアンコウを使うことで、暑さで食が進まない時期に食べやすくしているという。冷やして引き締めた身はあっさり目なので、濃いめのタレや様々な薬味との相性もピッタリ。夏場ならではの新たな味覚が開け、未知なるアンコウのうまさとの出会いがある。

水袋はキュッと弾力があり、かみしめると味が出る珍味。冷えて締まっている皮のコラーゲンは、口中で体温により口溶けしていく。ヌノは舌で押せばねっとり滑らかに潰れ、温かい鍋のツブツブ感とは食感が対照的。それぞれの「道具」も、冷製ならではの味わいがまた楽しい。野菜も白菜にネギ、シイタケ、シメジとたっぷりで、ポカポカホクホクならぬひんやりシャキシャキと平らげた。旬の冬の再訪はもちろん、一周してまたの夏の楽しみに期待もふくらむ、オールシーズン、オールラウンドの実力を実感した、夏の常盤路アンコウ探訪である。

水戸城てくてくさんぽ3

2016年07月03日 | てくてくさんぽ・取材紀行
かつて大手門があった場所から空堀を大手橋で渡り、最後は三の丸へと入る。かつては県庁が置かれ、ほか税務や法務の事務所、警察署などが集まる官庁街的なエリアである。

いちばんの見どころである弘道館は、入館料がかかるのでスルーして、裏手の見事な梅園を横切って鹿島神社へ。珍しい八角の堂を眺めてから、レトロな塔がそびえる県の三の丸庁舎を眺めて、城散歩は終了。銀杏坂を下ればもう駅前で、日本の城跡の中では屈指の駅チカではなかろうか。

水戸城てくてくさんぽ2

2016年07月03日 | てくてくさんぽ・取材紀行
本城橋で堀というか線路を渡り、続いては本丸へ。現在は水戸一高の敷地で、ちょっと入ったところに建つ薬医門は、現存する唯一の水戸城の建造物だ。かつては城門で本丸の表門だった勇壮なつくりは、城郭の威厳が偲べるかのよう。安土桃山期の様式らしく、太い木割と化粧棟木、雄大な蟇股と、豪壮かつ優雅な仕様も見事なものである。

橋を引き返して、続いては二の丸を横断して歩く。かつては御殿や櫓などが設けられた城の中枢で、現在は水戸三高と水戸二中、茨城大付属小の三校が敷地のほとんどを占める、文教地区となっている。通りは「水戸城跡通り」と名付けられ、各校の塀や門が白壁や木造にされるなど、城散歩が楽しめる景観が整備されているのがいい。

急な杉山坂の上に置かれ枡形が設けられた杉山門、大日本史編纂の地碑、那珂川から北を遠望できる二中裏の見晴台など、見どころが適宜整備・復元される中、圧巻は樹齢400年の大シイ。根回りが4.1mと3.3mの二本の木からなり、樹高は18.6m。戦国期から自生していたというから、構造物のない水戸城の歴史の生き証人的な存在といえる。

水戸城てくてくさんぽ1

2016年07月03日 | てくてくさんぽ・取材紀行
水戸は城下町なこと、意外と知られていない。駅のすぐそばに城跡が広がっていながら、ゆかりの施設はほぼ残ってないこともある。加えて黄門様こと徳川光圀の方が知名度が高く、藩の殿様への注目がイマイチ薄いことも。という訳で水戸さんぽは、城攻めで歩いてみよう。

水戸城は、徳川家康の11男・頼房が初代水戸藩主として居したのが始まり。本丸、二の丸、三の丸の、巨大な土塁と堀で形成され、石垣のない平山城としては国内最大だった。まずは本丸攻めとばかり、徳川光圀生誕地とあるお社に参拝してから、東寄りから城跡へと登る。二の丸を登りきったところには、柵町坂下門が復元されていた。かつては二の丸の南口にあり、上に坂町門との間の坂で馬の下乗と下馬をしていたという。

向かいの本丸とを隔てる堀は、現在はJR水郡線の線路が敷かれており、堀越しに望めば左右の隅櫓があった場所がこんもり緑の林になっているのが分かる。

ローカル魚でとれたてごはん…土浦・神立 『喜作』の、アンコウカレー

2016年07月03日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
梅雨の谷間の蒸し暑さが、ただでさえ猛暑で知られる茨城においては、一層厳しく感じられてならない。電車が駅に着き、ドアが開くたびにムッと車内に流れ込む熱気。そんな夏の常磐路の魚探訪、ターゲットはかのアンコウである。冬の魚でこの季節は端境期では、と思う人がほとんどだろうが、そこは県の看板ブランド魚介。鍋のみならず様々なアンコウ料理が、季節を問わず各所で味わえるのは、あまり知られていない。あえて真逆の季節に味わい真価を測ってみることで、旬にはない魅力が見つかるかもしれない。

常磐線の電車をまず下車したのは、神立という駅。「かんだつ」という読みもあまり知られてなかろうこの街、土浦市に属した霞ヶ浦に近い立地で、アンコウゆかりの鹿島灘からはかなり内陸に位置している。海の見えない街にてのお目当てのアンコウ料理は何と、カレー。土浦市はカレーをテーマにした街おこしを展開しており、2007年から投票で全国のカレーナンバー1を決める「C−1グランプリ」も開催している。そこで審査員特別賞を受賞、土浦カレー物語認定商品でもある「あんこうカレー」が、此度の夏のアンコウ料理探訪の一品目なのである。

あんこうカレーを供する料亭「喜作」は駅から近く、中に通されると天井の高い古民家風の造りが落ち着ける。棟内に通されたせせらぎの音が、猛暑の旅に涼しげでありがたい。店は「いばらきの地魚取扱店」の認証も受けており、アンコウやフグ、霞ヶ浦の湖魚など、県の地魚を幅広く提供している。まずは茨城の地ビール・ネストビールのホワイトエールに、フィッシュアンドチップスをオーダー。白身魚は霞ヶ浦産のナマズ、チップスは土浦特産のレンコンという、これまたしっかり地産地消なアテである。

のどの渇きを癒すべく、運ばれてきたホワイトエールのグラスを、アテを待たずにグッ。ほんのり甘みのあるあたりにフルーティな後口が、コンテストで日本一との添え書きに納得のうまさだ。フィッシュアンドチップスはナマズのフライからいくと、ややねっとりした白身とパリパリ香ばしいアーモンドの衣の、食感のコントラストが心地よい。ナマズは淡水の底魚のため泥臭い印象だが、澄みきった品のよい味が面構えからは想像できない意外性、というと失礼か? チップスのレンコンは根菜の香りが芳醇で、えぐみやアクはなく混じりけない大地の味。デンプン主体のポテトフライに比べ食物繊維が豊富なので、本家フィッシュアンドチップスよりヘルシーなのもありがたい。

ひとしきり飲んだところで、運ばれてきたアンコウカレーの皿を見て、ビックリというか吹き出しそうというか。型押しされたアンコウ型のライスが、ルウの海をまさに泳いでいるかのようだ。ごていねいに目とちょうちんも模され、これは見るからに楽しい。アンコウの頭から失礼してご飯をすくうと、ちょうちんのはじかみがフルフルと揺れる。ルウはオマールエビの出汁がベースとなったシーフードカレーで、こちらにも土浦特産のレンコンがローカルカレーらしいアクセントに。甘口ながら食が進み、アンコウライスが次第に崩れてゆく。

アンコウカレーと名乗る以上もちろん見かけだけでなく、アンコウもちゃんと食材にされている。トッピングの唐揚げがアンコウの正肉で、白身のうまさの強靭さは鍋のそれをはるかに上回る。揚げることで旨味が封印、さらにルウのエビの風味に下支えされ、鍋の具としてそのままいただくよりも味の奥行きが出ている。いわばエビとアンコウ、底魚同志の出会いもので、淡白な白身ながら味が強く、シーフードカレー系のルウに負けていない。さらにアンコウの目玉の粒胡椒とカレーのスパイスで食欲が増進、代謝が活性化され、これこそ夏のアンコウ料理だ。鍋では上品に味わえるアンコウが、カレーに仕立てたらワイルドな風味の地魚なのを再認識させられる。

ところで茨城県のアンコウ、晩秋から春先しかとれないと思われがちだが、実際には底引き網漁の漁獲として通年水揚げされている。この店でも6月頃までは、水揚げされたアンコウが入荷した際にはそれを仕込んで、あんこうカレーの唐揚げに用いているという。最近、アンコウは通年出回るようになったが、とはいえ旬は肝の大きい冬場。鍋はやはりその時期がうまいからと、アンコウ鍋は春先から11月の間は提供しないとのこだわりも。底魚ながらルウの海の表層に浮上したアンコウライス君は、まるで夏ながらの存在感を主張しているようにも見えたりして。

淡水と海水の見た目怪しげなお魚料理の共演で、お腹は少々いっぱい気味に。でも捨てるところのないアンコウだけに、鍋のタネで「七つ道具」と呼ばれるライスのヒレや尾もしっかりいただいたら、最後はちょうちんのはじかみをかじり、さっぱりごちそうさまとなった。漁師町のカレーは地魚のダシが効いてうまい、との定説があるが、海の見えない街にて夏のアンコウをスパイシーに堪能した、土浦のローカル魚紀行である。