ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん91…君津 『スーパー回転寿司やまと』など、内房の地魚名物の回転寿司

2009年10月10日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん


 東京湾アクアラインの通行料が、期間限定で割引になり、思い立ったら橋を渡って、気軽にお魚料理を食べに行けるようになった。東京近辺在住のお魚好きにとっては、何ともうれしい措置だろう。
 鮮度抜群の魚介を素材とした漁師料理もいいが、意外におすすめなのが、回転寿司。場所柄、地元の漁港で水揚げされるネタも揃えている上、値段は回転寿司のお手ごろ価格。加えて店舗は多くがロードサイド型で、駐車場の心配も無用だ。
 東京湾フェリーのターミナルである浜金谷にも、そんな名物地魚回転寿司の店がある。「地魚回転寿司 船主総本店」は、JR浜金谷駅付近の国道127号線に面して店を構える。ネタの地魚はすべて、東京湾の天然物のみにこだわり、すぐそばが金谷漁港という立地を生かして、地元で水揚げされるネタも取り揃えている。

 店内には、「○○港直送」「朝とれ」「近海産」などの札がのった皿が巡回し、壁には「本日の近海魚」と記されたボードも掲げられ、まさに地魚尽くし、といった感じだ。ボードの品々を検討した上で、普段あまり食べることのないネタに挑戦すべく、ブダイとホウボウの握りを注文してみる。
 ブダイは鯛と名が付くがスズキの仲間で、外見も桜色の真鯛と異なり、ずんぐりした青っぽい魚体が特徴。沿岸の岸に近い浅い岩礁に棲息する磯魚で、主に海藻を餌にしているからか、身がやや青臭くかなり瑞々しい。白身の淡白さでは、本家の真鯛よりもこちらが上かも。
 一方、ホウボウは赤っぽく細長い体型をしており、大きな胸ビレが特徴ある魚体。底魚のため網にかかることが少ないが、白身の透き通るような甘みに、真鯛より味がいいとの評価もある。淡白な白身のサクサクとした食感が、確かに上品だ。

 そして、金谷ならではの地魚も忘れてはいけない。湾口の浅い海域で水揚げされる東京湾のキンメダイは、栄養価に富んだ潮目に棲息するだけに、甘味がたっぷりと脂がのっている。舌触りもきめ細かくトロリと柔らかで、キンメで有名な銚子や駿河湾の上物にも、勝るとも劣らない旨さかも。
 さらに金谷の地魚といえば「黄金アジ」。名の通り、黄身を帯びた黄金色の魚体をしており、回遊せず湾口の瀬に居つきエビやカニなどを餌に生育しているため、シャクシャクの歯応え、びっしりとのった濃厚な脂が、強烈に印象に残る。ちなみにこの店、東京湾フェリーのターミナルに隣接しており、こうした名物地魚が棲息する湾口を船でまたぐ? 際にも、気軽に立ち寄れるのがありがたい。



スーパー回転寿司やまとの店内。大きな生簀に活魚が泳ぐ

 これに対し、アクアラインでのドライブに便利なのが、館山道の木更津インターそばにある「スーパー回転寿司やまと」。君津市街の国道一二七号線の沿道に位置し、アクアラインに乗る前や後の腹ごしらえに、おあつらえ向きの一軒である。
 入り口を入った右手には大きな生け簀が据えられ、ヒラメや鯛などが注文に応じてタモアミでバタバタと引き上げられ、実に豪快。店は房総の活魚問屋が営業しているため、これら活魚や、房総沿岸の市場で買い付けた様々な地魚を提供しているのが、人気の秘訣という。
 カウンターに腰掛けると、目の前についてくれた板前さんが、「どうぞ、何でもお好きなものを言ってください」と、まるで回ってない寿司屋のような客あしらい。さっそく、本日の地魚をチェックしようと、「今が旬」と記されたボードに目をやると、クロムツ、メダイ、トビウオ、カマスなど、東京湾ならではの魚介が並び食欲をそそる。

 

店内には地魚を宣伝する幟が。ボードには今日の地魚の入荷状況が表示

 板前さんによると、地魚の中には日替わりで出される希少なものもあり、売り切れ御免なので食べたいネタはお早めに、とのこと。まずは、日替わりの房総地魚三種盛りを注文。ピンクの身がワラサ、皮が黒いのがカマス、赤身がトビウオと、説明を受けた順にいただくと、旬の青魚らしいみずみずしさ、ほんのり脂がのった甘味、ややくせのある青臭い香りと、個性の強い地魚それぞれの主張が際立っている。
 続いては、先ほどいただいたキンメと同じ、赤身系のネタ二品だ。濃いピンク色のほうがクロムツで、身にキュッと腰があり、後から口の中に広がる皮目のさりげない甘味が、実に品がいい。小振りのは比較的浅瀬、大型の成魚は深海の岩礁に棲息し、秋から冬にかけて脂がのり、味がよくなるという。
 もうひとつのメダイも、クロムツと同様に冬場が旬で、南房総近海に数多く棲息している。身の色は淡いピンク色をしており、舌触りはむっちり、ひんやり心地よい。赤身にしては淡泊な味わいが、名の通り鯛のようでもある。

  

左からサワラ、ヒラメの縁側、アナゴと地アジ。いずれも近海の地物ネタ

 板前さんの勧めに従い、東京湾の地魚ネタはさらに続く。ヒラメの縁側は歯ごたえコリコリで、上品な白身魚にしては味が濃いのは、アラならでは。珍しいのはサワラで、瀬戸内や対馬沖など西の方で漁獲される魚だが、房総半島沿岸でもいくらか水揚げがあるという。皮つきの薄いピンクの身はほのかに土の香が漂い、サワラの本場・岡山でいただいたのを思い出させてくれる。
 ここでも締めくくりに選んだのは、活アジである。注文すると店の生簀から、背に黒味を帯びた立派なのを網ですくい、その場で締めておろして握っていただいた。黄金アジではないが、アジはスズキやアナゴ、シャコと並ぶ、東京湾を代表する地魚。鮮度のよさが味の良さに直結するだけに、おろしたてで身がツルツル、ジューシーで、じんわりと染み出る脂の甘みがとても素直。東京湾の地魚回転寿司の主役といえる、見事な一カンである。

 最後は店の自慢という、ねっとり、フワフワの白身が魅惑的な江戸前のアナゴをいただいて、これで地物はほぼお出ししました、との板前さんの言葉に充分満足。あおさ汁でひと息ついて、あとは東京湾をまたいで家路につくドライブが残っている。
それでも小一時間後には、浜金谷の産直市場で買ったクジラのタレを肴に、自宅でビールで一杯といけるのだろう。豊饒の東京湾をまたぐアクアラインの割引の恩恵に、重ね重ね感謝、である。(2009年8月15日食記)