ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

味本・旅本ライブラリー12…『マスヒロの東京番付』

2008年11月01日 | 味本・旅本ライブラリー
昨年の今頃といえば、11月下旬の「ミシュランガイド東京」刊行を前に、東京の有名料理店はみな、落ち着かない時期だったのではないでしょうか。刊行された本の内容や掲載店、星のつけかたなど賛否両論ありましたが、そこは歴史と伝統がある、フランスの老舗飲食店ガイドブック。今後の東京の料理店を格付け・評価する上で、ひとつの「ものさし」になるのは間違いないことでしょう。

その一方で、ミシュランの言う「世界一の食都」だけに、東京のグルメガイドは百花繚乱のバリエーション。今年はそれらが続々と、「ミシュラン」2009年改訂版が刊行される11月21日の直前に、次年度版の刊行を合わせてきたのです。加えて、ミシュランの評価をさらに評価すれば注目されるだろう、といった「便乗本」もちらほら。「ミシュラン」がもたらした影響は料理店に対してだけでなく、グルメガイドを扱う出版業界や評論家の方々にも至っている、ということでしょう。

主だったグルメガイドの、10月末から11月にかけての刊行を見ていくと、5名の選者が選ぶぴあ刊行の「東京最高のレストラン2009」が10/24。東京のグルメガイドの決定版的な文春の「東京いい店うまい店2009」は10/31。そして5500人の投票者によって店を選ぶ「ザガットサーベイ2009」は10/27発売。この3冊は、東京の年度版グルメガイド御三家といえるもので、今年は「通りすがりのフランス人のガイドブックでは絶対に判らない」とか、「フランス人には分からない情報を一挙に開陳」とか、「本当にうまい店は客が決める!」とか、宣伝文句からして「ミシュラン」をかなり意識しているのが伝わってきます。

そんな中で異彩を放つのが、この『マスヒロの東京番付』。料理評論家・山本益博氏を中心とした、「東京番付編成会議」のメンバーが選んだ、170軒あまりの料理店を、書名のとおり相撲の番付で評価したという、興味深い一冊です。「ミシュラン」は調査員がフランス人(日本人もいるとの噂ですが)のため、店の選出傾向や評価が日本人とずれているといわれてますが、「東京番付」は山本益博氏を中心の「東京番付編成会議」のメンバーが選出、さらに20名の「横槍審議委員会」で審議の上、掲載店を決定。日本人が選んだ日本人向けの評価、というポイントが鮮明になっています。「ミシュラン」の調査員は5人、東京番付編成会議の評議員は100名とあり、文中にある「あちらは5人、こちらは100人」とのくだりに、なんともいえぬ説得力も。

ちなみに横綱評価は5軒、大関は14軒で、横綱で紹介の店はカラーで料理の大写真入り。いくつか挙げると銀座の数寄屋橋に近い寿司屋さんとか、恵比寿ガーデンプレイスのシャトーレストランとか、「ミシュラン」でも高評価の店の名も。これらの店は東京番付編成会議太鼓判の店だそうで、本家の大相撲よりも役力士が多く豪華番付なのはご愛嬌? 店によっては少々辛口のコメントも記されていて、このへんはガチンコ勝負の八百長なし、といった感じでしょうか(笑)。巻頭には折込で、ちゃんと番付表もついていて、相撲文字でリストランテ云々とかビストロ云々とか書かれているのが洒落っ気があること。

編者のひとりである山本益博氏は、言うまでもなく料理評論界の第一人者です。ミシュランブランドに対抗しての評価評論で、説得力ある裏付けを持つ論者は、日本ではこの人ぐらいでしょう。本書の後半には、昨年春の「ミシュランガイド東京」の発刊発表から11月の刊行までの間、氏が取材した料理店について日記風に記した「東京番付取材日誌」を掲載、その中で独自に「ミシュラン」に掲載されるだろう店や星の数を予想しています。氏の予想と「ミシュラン」の結果との違いが興味深く、たとえば「トイレは店外だしカードは使えないし日本語しか通じないから三ツ星はありえないか」と評論した銀座の寿司屋が見事、3つ星評価となっていたり。逆に、3つ星候補と太鼓判を押したレストランが、2つ星以下どころか掲載すらされていなかったり。そのあたりに、「東京番付」が氏をはじめとする、東京番付編成会議独自の評価である由縁が、垣間見られるようです。

現在、大手書店のグルメコーナーは、「東京最高のレストラン」のグリーン、「ザガット」のブラウン、「いい店うまい店」のピンク系、この「東京番付」はブルーと、カラフルな表紙が並んでいます。そして真打の赤い表紙が来るまでは、あと2週間…。

*『マスヒロの東京番付』 四六判変形縦長/292P/定価1470円/実業之日本社刊