ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

街で見つけたオモシロごはん124…銀座 『ABCラーメン』の、辛子とんこつつけ麺

2008年10月05日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


 自分は普段、昼食は家から弁当を持参しているのだが、毎年
8月だけは昼食は毎日外食する月間となっている。理由は、子供たちが夏休みに入って弁当が不要になるため、自分の分だけのために家内の手を煩わすのが申し訳ないから、である。
 主に仕事をしているのが、東京を代表する味の店が集結する銀座だから、いつも月の初めのうちは、Hanako最新号で話題の店に行ってみよう、ミシュラン掲載店のランチを試してみよう、などと精力的に食べ歩きを楽しんでいる。しかしながら、ランチメニューでも1000円オーバーが当たり前という場所柄、こんな調子で気ままに店を選び続けた結果、半月ほどで昼食用の予算に黄信号が点灯してしまうのもまた、毎年の恒例。マックや吉牛にゆで太郎も、銀座界隈にないことはないけれど、せっかくの食べ歩き月間なのにチェーンやFF、立ち食い系でお昼を済ますのも味気ない。

 8月も半ば近くなったこの日は、手軽な予算でお昼を頂ける候補の店に向かって、銀座通りを一丁目から晴海通り方向へとぶらり。途中、マロニエ通りと銀座通りの交差点付近には、ブルガリにシャネル、カルティエのブティックビルが、四つ角それぞれに店を構えている。ブルガリには「イル・リストランテ」、シャネルには「ベージュ・アランデュカス・東京」と、それぞれにイタリアンにフレンチのハイセンスなレストランが併設されている、と情報誌で見かけたのを思い出す。
 界隈には外国人観光客の姿も多く見られ、最近の銀座には、お金持ちの外国人旅行者が豪快にショッピングをしていくという話を耳にするが、彼らは高価ブランド品を「大人買い」した後に、そうしたブランドレストランで、東京最先端の洗練されたランチを楽しんでいくのだろうか。
 
そんな小じゃれたビル群を、横目で見ながら通り過ぎ、目指したのは銀座通りに面したビルの地下にある『ABCラーメン』である。銀座のランドマーク・和光の手前という銀座のど真ん中にありながら、メニューのほとんどが1000円を切るという、立地の割にリーズナブルな店。安く昼食を頂くなら、銀座でもラーメンが一番だ。


店は地下にある。人気メニューなど、店頭は貼紙でいっぱい


 地下にある店への入口へと階段を下りようとしたら、入れ違いに外国人の旅行者らしいグループがぞろぞろと登ってきた。銀座とはいえごく普通のラーメン屋然とした店なのに、こんなところまで外国人旅行客が足を運んでいるとは、と少々驚きつつ店内へ。奥のテーブル席へと通されて品書きを開くと、大きく記された「麻醤麺」の文字が目に飛び込んできた。ゴマ風味の濃厚スープに挽肉がのった、坦々麺風の見かけで、店の一押しメニューらしい。
 これに決めてもいいのだが、猛暑の銀座通りを延々歩いてきたこともあり、今日のところは温麺よりはさっぱりとつけ麺でいきたい。つけ麺も店の看板メニューのようで、つけだれのバリエーションが幅広いよう。しょうゆベースに煮干にかつお、昆布でだしをとった和風しょうゆ、2種の味噌にゴマを混ぜ込んだ特製ゴマ味噌、中にはカリーだれなんてのもある。暑さのせいか辛いものが食欲をそそり、カリーに決めかかったところで最下段の「辛子とんこつ」の文字にひっかかった。コクがあるカリーよりも、さっぱりと和風の辛さのほうを選ぶことにして、これに決定。
 店ではつけ麺の麺に自信があるらしく、麺自体を味わってほしいためデフォルトにはトッピングはない。別注で煮玉子、メンマ、梅干、そして辛味のダメ押しに「魔女」とのネーミングの特製辛味噌などを、好みで選ぶ仕組みとなっている。ほか、ギョーザなどサイドメニューも充実しているけれど、食べたいがままにあれこれ頼みすぎて、明日以降の昼食の残り少ない予算に影響が出てしまってはいけない。

 
うまく1000円以内で収まるように、トッピングはやめて半チャーハンをつけることにして、追加料金で量が増やせる麺は並盛りに抑えておいた。それでも、運ばれてきたざる上の麺は、結構な量。さらにトッピングは別注しなかったのに、つけだれの中にメンマやチャーシューが入っていたのはありがたい。つけ麺用に麺に絡みやすいよう、細かく刻んであるのが親切だ。
 
麺の山をひとたぐりして、さっそくつけだれに浸してひと口。つけだれは白濁のトンコツスープの表面に、ラー油のようなオレンジ色のギトギトした膜が張っていて、見るからに激辛そうな色。なんと、真っ赤な唐辛子のかけらまで浮いている。かなり濃い目のスープらしい見た目の割には、麺をすすってみると意外にそうでもない。トンコツのだしの下地がしっかりしていて、これに加えてラー油の適度な辛味と爽快な香ばしさの、2層の味が楽しめるのがいい。がっちり厚みのある、立体的味わいのスープで、辛さは大したことないがじゃんじゃん食欲をそそる。
 さらにこのつけだれに、中太のちぢれ麺が抜群によく絡む。「手もみ中太麺を温度管理して一晩寝かせ、腰を出した」とあるだけに、腰が強くグイグイと食べごたえがある。スープの重厚さとともに、なかなか力強いつけ麺である。
 卓上の薬味の中でも面白いのは、セルフサービス式のゴマ。卓に小さなすり鉢にすりこぎが一緒に置かれていて、好きなだけすってつけだれに加えるのだ。ゴマはセサミン、カルシウム、ミネラルがたっぷり含まれていて、猛暑の中の栄養補給にはもってこい。ゴマはすればするほど吸収が良くなるので、ゴリゴリ、パチパチとしっかりすっては振りかけ、麺をすすってはまたゴリゴリ、を繰り返す。


パラリとした仕上がりのチャーハン。半チャーハンは麺とセットのみ受付


 壁に貼られた品書きには、カクテル各種や銘柄ものの焼酎も揃っていて、おつまみになる一品料理も充実しているらしい。つけ麺も、半チャーハンもさっと食べ終えて、再び暑さの中へと戻る前に、サングリアかバドワイザーをぐっと空けてさっぱりしたいところだが、まだまだ夏の日は高い。今度訪れるのは、銀座の一等地では群を抜いてリーズナブルな飲み屋になった時間帯にしよう、と店を後にする。
 地上へ出る階段を昇りながら、壁に掲示された店の能書きの貼紙によると、先代はなんとフレンチ出身の料理人だそうだ。その技法や食材を用いたメニューもあり、先ほどの麻醤麺のスープも、バターと生クリームを用いてマイルドに仕上げている、とある。銀座ど真ん中のリーズナブルなラーメン屋は、実は結構洗練された店だったよう、銀座観光を楽しむ外国人のお客の眼鏡にも適ったということか。ただ単に、「ABC」という英文字の店名が、外国人に親しみやすかっただけだったのかも。(2008年8月14日食記)