ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん115…有楽町 『中園亭』の、餃子とルースー飯

2008年02月03日 | ◆町で見つけたオモシロごはん


 自分の主な仕事先の最寄である有楽町駅界隈の風景は、この1年で大きく変わった。有楽町駅中央口を出てすぐのところにオープンした、丸井などが入った複合ビル・有楽町イトシア。そこから外堀通りを渡ると、マロニエ通りを挟んで右にはリニューアルしたプランタン、その向かいにはこれまた新たなショッピングビルのマロニエゲート。銀座を訪れる人の流れが変わった、と噂されるほどインパクトがある施設が、駅周辺に続々と出現した年だった。
 中でも有楽町の駅前、有楽町2丁目地区の変化には、目を見張るものがある。この地区、銀座というオシャレな町に隣接しながら、かつては昭和の戦後すぐの頃の雰囲気を残す、雑然とした一角だった。駅から有楽町マリオンへ通じる沿道には喫茶店に食堂、パチンコ屋やミニシアターなどがごちゃごちゃと密集。映画「三丁目の夕日」に出てくるようなレトロ東京の風景が、今では東京最先端の複合ビルに変わってしまったのは、センセーショナルな半面、古き良きものを失ってしまったような思いもやまない。

 そんな中で有楽町銀座口出口のあたりに、当時からの商店が今も変わらぬまま残る一角がある。JRの新幹線のガードに並行した、ちょうど有楽町駅前あたりを頂点にした細長い逆三角形のエリアである。改札を出ると正面には、今や銀座でも珍しくなった露店の靴磨きが並び、すぐ左は何と、店頭にバナナやみかんを並べて売る果物屋。銀座の玄関口・有楽町駅の改札を出た正面が果物屋、というのも何だかすごい。
 有楽町2丁目地区はいわば、戦後の混乱期に形成された商業地区で、地権者が錯綜しているため土地の権利関係が複雑になっている。そのためこのエリアは再開発のための地権者の合意をとり切れず、今も手付かずのままなのだという。最先端のイトシアに隣接してがんばる、昭和レトロの町並み。これまた、変わりゆく有楽町の今を象徴する風景といえる。

 仕事の合間に昼食をとりに、このあたりまでやってくると、イトシア地下1階のフードアベニューを食べ歩きしてみるつもりが、いつも吸い込まれていくのは「昭和レトロ」の方。有楽町駅銀座口出口の改札正面、三角形の頂点にあたる果物屋に隣接して、ガード下に赤を基調とした外観、店頭のガラスケースに麺や丼や一品料理のサンプルがズラリ、と、ベタなスタイルの中華の店がある。
 『中国料理中園亭』と大書された看板に、店名を「ちゅうごくてい」と読んでしまいそうだが、正しくは「ちゅうえんてい」。かなりの数にのぼる多彩なメニューを揃えていることと、明け方4時までやっていることで、食事時はもちろん夜は酒を飲む客、さらに深夜には「締めご飯」を求める客や始発まで飲み明かす客と、いつ行っても混雑している中華料理屋である。


町の中華料理屋のような外観。すぐそばにはマリオンもそびえる


 ちょうど三角形の頂点からやや下がった位置にある店のため、ガラスの扉をガチャン、と押して中に入ると、白い木のテーブルにパイプ足の赤ビニールイスが数卓並ぶ店内は、何となく台形の形をしている。レジ横のおばちゃんはいらっしゃいませ、も、こちらへどうぞ、もなくひとこと「2階へ」とそっけない。狭く急傾斜の階段を気をつけて2階へと上がると、台形の左の辺側の窓からは昔ながらのJRのガード下、右の辺側の窓からは高くそびえるイトシアと、対照的な風景なのが面白い。
 イトシア側の窓際の席につくと、配膳場のすぐ横に位置し、隣で店員3人が中国語でずっとベラベラとしゃべっている。接客係の女性はほとんど中国人らしく、ものすごい早口で激しい口調のため、口論しているのかと思ったら唐突に一同大爆笑。客がすぐ横にいても、まったくお構いなし、といった感じである。愛想がないのは単に言葉の壁なのか、それとも本場・中国流のぶっきらぼうな接客そのままだからなのか。

 壁一面には、赤い台紙に料理の写真を貼り付けたメニューがびっしり掲げられ、どれもなかなかうまそう。卓上の品書きを見て数えたところ、飯物は13種、麺類だけでなんと40種もあるのには驚きだ。
 飯物はチャーハンの種類が豊富で、ほか中華丼、五目あんかけ丼など比較的オーソドックス。麺の方は「什景湯麺(五目そば)」、「蝦仁湯麺(えびそば)」「麻婆湯麺(マーボーめん)」など、漢字4字の料理名が品書きの片面の上から下までずらりと並ぶ。中にはトマトそば、レモンそばなんて変化球も。愛想はないけれど、料理の方は本場さながらの期待がもてそうだ。
 相変わらず早口で歓談中の店の人に声をかけて、頼んだのはルースー飯。品書きには「肉絲●飯」(注・●=火へんに会)とあり、つまりチンジャオロース丼である。餃子やシューマイなど、点心はやや値段が高めなので躊躇していたら、ギョーザは3個でも注文できるとあり、サイドオーダーに決定。
 待つ間、窓から外を眺めながら、確かこの向かいには立ち食いそばのスタンドがあったな、そういえば、老舗のオイスターバーはどこに移転したんだったかな、などと、イトシアができる以前の有楽町2丁目の風景を、あれやこれやと思い出してみる。


卓上のメニューには麺と丼がズラリ。壁にも写真入の品書きがいっぱい


 先に運ばれてきた小皿の上には、餃子が3つ並んでいる。皮がむっちりとした食感で、中は肉と野菜のバランスが良くさっぱりした味わい。中華料理屋の餃子らしい、本格的なつくりである。そしてルースー飯はごはんの上に、チンジャオロースのあんがかかっただけと、見た感じはかなりシンプル。湯気が立っていないのが気になったけれど、レンゲでひとさじすくったとたんにバッと上がる。あんの片栗が濃いので熱が封じ込められていたようで、中はちゃんと熱々。この冬一番の寒さには、うれしい温かさだ。
 あんの具はピーマン、タケノコ、細切牛肉で、特にタケノコとピーマンが素材のしゃっきり感そのままで、あんがトロリ、野菜がシャクシャクと歯ごたえがいい。あんもしっかりとダシがとってあるようで、薄味ながらもいい味が出ている。店の人がテーブル上の調味料を詰め足している様子を見て、自分の卓上にも豆板醤があるのに気づく。餃子と丼にちょっと足してみたら、瞬間に体から汗が噴き出すほど強烈。これまた、身にしみる寒さにはありがたいインパクトである。


中華料理屋らしい、中園亭の本格的な餃子。値段はやや高めか?


 この三角ゾーンも駅のまん前の超一等地なだけに、そう遠くない未来に、再開発の手が伸びることは間違いない。その時、この店はどうなっているのだろう。再開発を機に、長い歴史を閉じてしまうのか。近隣に移転オープンするのか。それともこの場所に造られるかも知れないビルのフードコートの一角で、庶民的な雰囲気と素敵な接客(笑)のまま、営業を続けているんだろうか。
 ガード下側と反対側の出口から店を出ると、目の前にイトシアのビルが高くそびえている。少しは新しく変わる町の新情報のチェックもしておかないと、三角ゾーン同様に自身も銀座界隈の変化の流れに取り残されてしまうかも? 食後のお茶ぐらいは、イトシア2階にある喫茶店に寄ってみたいが、コーヒー1杯がルースー飯と同じ値段とは…。三角ゾーンが健在のうちはこちらへと足が向いてしまうことが、まだまだ多いかも。(2008年1月25日食記)