ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん109…新潟・石打 『ほんや旅館』の、自家製野菜などの料理

2009年03月07日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 昨年に続き、今年も区が主催するスキー旅行に参加することにした。15年ぶりにスキーをした昨年は、バブル期にかじったなんちゃってレベルのスキー技術を何とか思い出し、立てて、曲がれて、止まれるぐらいのところまでは回復。今年はさらなる技術向上を目指したいが、1泊2日の行程では、昨年思い出したレベルを思い出したところ止まりかもしれない。
 昨年は家族全員で出かけたのだが、今回は娘と二人でのスキー旅行となった。所用がある家内に加え、息子も小学校高学年となるとそろそろ多忙で、家族行事にいつも参加、とはいかなくなってきたようだ。

 最近、母娘の旅はちょっとした流行らしいが、父娘旅につきあってくれるのは、娘が小さい今のうちだけだろう。好印象にしておかないと、果たして次があるかは分からない。夜行バスの道中では、買い込んだおやつを好きに食べさせ、いろいろなお話をして盛り上がり、と、テンションを上げて、翌早朝に石打丸山スキー場へと到着した。
 初級者レベルの腕前で久々のスキーのため、最初はふたりとも危なっかしかったが、さすがに若い(?)だけに、娘のほうは勘がよく、すぐに怖さはなくなって楽しんでいる。自分も15年ぶりだった昨年と違い、体が思い出してくるのが早いようで、次第にスイスイと滑れるようになった。

 二人でリフトに並んで乗り、ハの字のシュプールを描き、と、父娘スキーが形になってきたところで、時計を見ると11時。昼食の集合時間は12時だが、興奮と夜行バス明けでちょっと疲れ気味の娘に合わせ、早めに休憩する事にした。
 昨年もお世話になった、ゲレンデの中ほどにあるレストランへと滑って移動。ぬれた手袋と帽子をはずしてストーブ横に提げてやり、ブーツの留め具を外すと娘もホッとした様子だ。のどがかわいたというのでアイスティーを注文、自分ものどがかわいたので、昼食前の昼ビールをお願いした。運ばれてきて乾杯すると、おやっ? とジョッキを睨む娘を横目に、グイッ。
 ゲレンデの定説である「スキー場で飲むビールは酔いが回らない」を、昨年に続いて検証してみたが、寒い中で適度な運動の後のビールというのは、実にうまい。渇きをいやし、程よい酔いで体が温まり、一石二鳥という感じである。

娘のほうが上達は早い? てな訳で昼間から上記のとりあわせに

 食事のオーダーは12時からだが、酒の肴で何かないか聞くと、煮込みの小鉢が運ばれてきた。モツはしっかり煮込まれてふっくらやわらか、裏側ついた脂がトロリと甘く、これは本格的な居酒屋の一品の味わいだ。集合時間が近づき、続々とやってきた同じツアーの家族連れのお父さん方が、自分の様子を見ておっ、と反応。次々に同じオーダーをしており、なんだか会社帰りの居酒屋の様相を呈してきてしまった。
 スキー場のフードは一般的に、味は期待できない上に高い、というのが、ゲレンデのもうひとつの定説とされているが、このスキー場の食事はまずまず。娘に注文したカレーライスも、しっかり具が入っていて値段も1000円以内と、良心的だ。
 ビールと煮込みを平らげた自分の「昼ごはん」は、おでんと冷酒に決定。品書きには「日本酒」とのみそっけなく書いてあるが、塩沢の青木酒造の地酒「鶴齢」なのは、昨年来ていて知っている。巻機山の雪解け水を仕込みに使った、本場越後の米どころの酒だけに、ほんのり甘くキリッと切れ味がいい。「お酒じゃなくって、ちゃんとごはんをたべなきゃダメだよ」と、ジョッキに続いて娘が冷酒のグラスを睨みながらひとこと。

 ほろ酔い気分もあり、食後も初級者用のゲレンデで、二人のんびり滑っていたいところだが、ちゃんとスクールを受けるように言伝されていたのを思い出し、午後はレッスンに参加することに。初めての頃からスクールで教わった娘と違い、自分はユーミン流れる苗場で適当に覚えた自己流スキーが染み付いているため、教えられるようにやるとかえってフォームがバラバラになり四苦八苦。
 それでも、終わりごろには娘はクルクル回れるようになり、自分も最後の3本だけ、奇跡的に板が揃って滑り降りることができた。いい感じを翌年につなげられるか、それともまたすべて忘れてハの字からになるかは微妙だが、時間切れとなり宿へと向かうバスへと乗り込んだ。
 昼のゲレンデの食事もまずまずだったが、このツアーの宿である『ほんや旅館』は、石打で一番食事がいい、と、主催者が太鼓判を押しているのが楽しみのひとつ。熱めの湯にゆっくり入って体をもみほぐし、夜行とスキーの疲れを落としたところで、早めの夕食の卓へと向かった。

 食事がいい、といっても、特別料理や豪華なものが出るということではなく、けんちん汁におひたし、冷奴など、家庭料理風の素朴な品々が、卓にいっぱい並んでいる。メインの皿はキノコソースかけのハンバーグにナポリタン、ポテトサラダと、なんだかお子様ランチのようでもある。
 全員揃っていただきます、とともに、空腹なのでハンバーグや餃子といった、ボリュームがある品に箸がのびていく。ハンバーグはいっぱいの刻み玉ネギに独特のスパイスが効いた、なかなか本格的な味。ギョーザは手のひらの幅ぐらいはある大振りで、ニラの香りがプンプン。大人と子供でメニューや味付けを変えているらしく、同じツアーの腹ペコの小学生たちも、これらお子様向けメニューをどんどんと食べている。

去年もおいしかったけんちん汁。餃子は野菜がたっぷりのヘルシー系

 お子様向けメニューもいいが、宿の自慢はなんと言っても、自家製の野菜を使った品々。冬はスキー旅館だが農業も行っているそうで、「石打は土と水がいいから、米や野菜の味が良くなる」と話すご主人。けんちん汁はニンジン、ダイコン、キクラゲなど、それら野菜がたっぷりで、根野菜のおかげでスキーで冷えた体がしっかりと温まる。おひたしはワラビとモヤシでしゃっきり瑞々しい。
 特に米は、高級ブランド米である魚沼産コシヒカリの産地だけに絶品。宿で出すのは魚沼産塩沢米のコシヒカリで、粒がキリッと立ちまろやかな甘みの、米飯の醍醐味を楽しめる味わいだ。普段はご飯はそれほど食べない娘も、よそってきた茶碗一杯をぺろりと平らげ、自分もお代わりを一膳。

 空腹のおかげで食が進みつい、忘れていたが、米と水がよい土地ならば、当然酒も優れている。お昼に飲んだ地元の「鶴齢」に、魚沼といえば八海醸造の銘酒「八海山」だってある。野沢菜と白菜の漬物が残っているのでこれをつまみに一杯二杯、といきたいところだが、今日は普段の食べ歩き旅ではなく、あくまでスキーが目的。あまり飲んだくれてばかりいたら、デザートのイチゴアイスを食べている正面席の同行者から、またご意見を頂戴しそうだ。
 漬物はおいしい米とおいしいお冷で平らげたら、夜はツアー主催の懇親会が控えている。さらに部屋に戻ったら、父娘水入らずの貴重な旅の夜を、のんびりと過ごすことにしよう。(2009年2月14日食記)