ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん…豊川稲荷 『まつや』の、創作稲荷寿司

2020年07月12日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
豊川稲荷の参拝を終え、昼ごはんを食べるなら場所柄、稲荷寿司一択だ。もともとはお供え物から始まり、門前町の家庭の味、参拝客の食事や土産へと発展した料理である。最近は某グルメグランプリ関連の、ブランド化推進団体も発足。記念日を制定したりイベントも行ったり、町おこしの素材として定着してきている。団体によると、豊川いなりずしなる「呼称」があり、定義はなく味付けやトッピングで店ごとの味を競う、とある。そもそもの稲荷寿司の立ち位置とはいささか変化してきているが、手軽な体裁から参拝客にも地元客にも好まれ続けているのは、変わらないようだ。

豊川稲荷の門前町には、まさに門前から稲荷寿司の店が点在しており、店ごとに様々なスタイルのものがある。大別して古来の伝統を守るシンプル系と、新進気鋭のオリジナル系になり、まずは前述の概念を舌で捉えたく「まつや」の入り口をくぐった。「いなり寿司専門店」と店頭に掲げてありながら、店内はカフェのように垢抜けている。2階の席は落ち着いた照明の下にジャズが流れ、座席はなんとソファだ。沈むように座りメニューをもらうと、ズラリと並ぶ変わり稲荷寿司の数々。箸袋には「創作豊川稲荷寿司」ともあり、店の雰囲気もオリジナリティにあふれている。

こちらは3代続く和食の店で、麺類や丼物や定食など幅広く揃う中、オリジナルの稲荷寿司が参拝客の話題を呼んでいる。洋食やイタリアンなどの要素を加える一方、伝統の製法も取り入れており、季節ごとの品にも力を入れているという。この日は15種ほど並ぶ中から、豊川わさび、五目、国産どんこに、愛知鴨ロースト、クリームチーズ添えトマトなるものもセレクト。運ばれてきた見た目は相当カラフルで、特に最後の2種のおかげでオードブルのようにも見える。

まずは変わり種から、鴨ローストはややレア気味のためジューシーで、クリームチーズトマトはトマトの甘みが自然で、カプレーゼに似た印象か。店のお姉さんに、ともにご飯と揚げに合うと話すと嬉しそうで、ちゃんと稲荷寿司になるよう研究しているらしい。トマトは完熟でないと合わず、農家の方に「専用」に取り置いてもらう、こだわり食材なのだとか。傘が分厚く煮汁がしみたどんこ、ホッとする味わいの五目、グルメグランプリでも好評で葉わさびが軽くツンとくる豊川わさびの3種は、これぞ稲荷寿司の正統派路線だ。

適度に食べ比べができた5種で、豊川稲荷の稲荷寿司の「今」が実感できたような気がする。思えば神社の門前町の食は、行き交う人々の影響から時代を映す食でもある。町おこしのコンテンツとして全国区になった先に、どんなストーリーが新たに加わるのか、料理の変化とも合わせて楽しみな、豊川稲荷のローカル寿司である。

旅で出会ったローカルごはん…大垣 『金蝶園』の、水まんじゅう

2020年07月12日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
大垣の商店街を歩いていて、店頭で葛が厚ぼったい和菓子を、桶の中で水で冷やしているのを見かける。竹の水口から清水が流れ続け、桶の中の菓子が見るからに涼感あふれる眺めだ。この「水まんじゅう」、市街の随所で湧く清冽な湧水で冷やした、あんを葛で包んだ菓子である。明治期から市街の和菓子屋で作られるようになり、水で冷やされる店頭風景は、水の街大垣の風物詩といえる。

駅前に構える「金蝶園」は寛政10年創業の老舗で、金文字で屋号を記した大きな木看板が存在感ある。店内で食べることもでき、こしあんと抹茶の2個に冷たい煎茶がつく。運ばれてきた饅頭はプリンのようなドーム型をしており、猪口に入れて作りふたをせずに湧水の桶で冷やすため、饅頭とは異なる形になる。ほか皮が厚ぼったいのも、葛饅頭との見た目の違い。水で直に冷やすため、葛粉に水に浸しても柔らかくなりづらいわらび粉を加えているそうで、あんがほんのり透けて見えるのも、涼感をそそる見た目である。

こしあんから軽く割っていただくと、皿に氷が敷かれているため、キンキンに冷えている。意外に腰があり、舌で押すと心地よくプツリと切れ、ヒヤッとした甘さのあんがとろけ出る。抹茶の方は、緑が鮮やかなあんにほんのり苦味が。ともに、冷たさとみずみずしさが相まって、これは散策後のリフレッシュにもってこいだ。

窓の外は大垣の駅前広場が望め、水まんじゅうを冷やす店頭の台越しに、噴水で水遊びする親子連れの姿が見える。水の街の玄関口で象徴的な眺めを見ながら、さんぽの終わりに涼をとりつつ過ごす、大垣のローカル冷やしスイーツ探訪である。

旅で出会ったローカルごはん…松江・茶町 『喫茶MG』の、ランチ

2020年07月10日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
松江市街の散歩中、昼食をとろうと店を探して京店界隈を一周した。松江藩に嫁いだ姫様ゆかりの飲食物販エリアだが、観光客御用達的な店ばかりで、相場も敷居も高い。なので、ローカル商店街の茶町へと一区画進んだら狙い通り、地元民のたまり場的な喫茶が見つかった。店内も店の方と顔見知りらしい、遅めのランチ客ばかりで、客層のせいか店内はどこか雑然としている。旅に出てもう5日目、食事はハレの名物ばかりでなく、こういう日常的なのを挟んでいかないと、さすがにしんどい。

ランチは唐揚げ・チキンカツ・コロッケの揚げ物系定食が、700円均一と安い。迷っているように見えたのか、ミックスもできますよ、とおばちゃん。チキンカツ&コロッケにしたら、揚がり具合がいわゆる肉屋の惣菜っぽい、油は軽くラードが香り高い、ごはんが進む仕上がりだ。ソースをざっとかけまわし、かじっては茶碗めしをかっ込む。コロッケのひき肉に存在感があり、きちんと作り込まれていて嬉しい。

壁には常連客のほか、ミュージシャンの写真もたくさん貼られていて、ライブのチラシも置かれている。地元の音楽好きには知られた店だそうで、今は著名になった当地出身のアーティストや俳優も通った店なのだとか。BGMがスティングとかライオネルリッチーとか、自分世代の洋楽なのも特徴で、かと思えば漫画も山積みされている街喫茶の風情もあり、かなり居心地良さげな店である。

大雨でもう街を歩く気もなく、夕方までこちらで沈んでいるのいいかも。先ほどの古書カフェといい、再訪時にもこの街の居場所になりそうな、松江の純喫茶である。

旅で出会ったローカルごはん…彦根駅前 『八千代』の、ひこね丼

2020年07月07日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
地名がついた丼や麺は、後付けで名物化を狙ったあざとさが、時として感じられることがある。地元に根付いた「常食」とは別物の、観光ビジネス的名物。大概は名産の素材を継ぎ接ぎしてあるので、バランスが悪く味もまあ、という程度だ。とはいえハレの旅の場による脚色で食べる側は満足、しかも「映え」ればなおよしなので、需要に対してありはありなのだろう。

なので、市街のあちこちで幟を目にしたこの丼も、大して期待せずに押さえとして頼んだところ、前段で滔々と述べた諸々を素直に反省。白滝に牛すじの煮込み丼、しかも温玉載せとくれば、味に文句があるわけない。トロトロのスジは近江牛で、崩した黄身がこってり絡み、これまた味が染みた白滝が歯応えシャッキリのコントラスト。白滝に当地名物の「赤こん」が混じっているのが「映え」狙いっぽくもないがオーケー、味に問題なし。一気にかっ込み、やや残ったご飯は小アユの佃煮とともに平らげた。これはこれで、地元特産品との王道的組み合わせだ。

調べたところ、ひこね丼の定義は地元の近江米をごはんに使う事、具は彦根の名物を使うこととの縛りで、10の公式レシピから店ごとに選んで供しているという。天丼とかちらしとかひつまぶしとかバリエーションがある中、この店のがやはり一番旨そうだった。雨を避けてさんぽができたのに続く引きのよさで、これまた持っている彦根の旅となったかな。

旅で出会ったローカルごはん…名鉄岐阜駅 『スピーチバルーン』の、モーニング

2020年02月11日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
名古屋のモーニングが品数の豊富さで話題だが、岐阜のモーニングも負けていない。ついてくる品のバリエーションの豊富さで、今や本家の名古屋や一宮を凌ぐ人気という。サンドイッチにサラダがつくのは当たり前で、うどんにパスタにお粥におにぎり、さらには寿司やカレーやベーグルなど、業態の特徴を出した大サービス。ドリンク代でいただけるという点だけが定義とはいえ、当地のサービス精神には改めて恐れ入る。

岐阜駅前から市役所にかけてはビジネス・官庁街のため、こうした店が多数しのぎを削るエリアだ。加えて界隈は老舗の喫茶店も多く、路地に入れば普通の街喫茶が、モーニングサービスの看板を出してお客を待っている。名鉄岐阜駅裏手の「スピーチバルーン」は、大きなガラス張りの外装が明るく、イージーリスニングのかかる店内はテーブルとボックスがずらり並ぶ、純喫茶そのもののつくりの店である。レジ横の岐阜新聞を手に、窓際の席に座りオーダーはモーニング一択だ。

が、「モーニング」と頼んでいるのは自分だけで、地元の方は飲み物のみ注文、黙っていてもモーニングがついてくる仕組みらしい。プレートにはトーストとサラダのほか、パスタ、揚げ物、フルーツゼリー、そして岐阜モーニングの特徴であり茶碗蒸しも、ちゃんとのっていた。これでドリンク代の430円というから、コスパの良い朝ごはんだ。パスタはバジリコでパセリほか軽くニンニクが効いており、揚げ物のオニオンフライは外はカリッ、中はグシュッとジューシー。茶碗蒸しはシイタケが香り高い本格派で、卵たっぷりなのが手作り感あふれる。

ミカンと桃のゼリーを平らげ、バランスもよい朝食に十分満足。安く済んだのと心地良さとで、コーヒーをお代わりしてもう少しゆっくりしていきたくなる、岐阜の朝一のローカルごはんである。