怒れるじじい！

　気をつけたい、還暦過ぎたら暴走老人！心したい、明日は我が身か暴力じじい。

　年取ると感情の起伏も穏やかになる、なんて嘘っぱち。苛立ちはざわざわと波打ち、怒りの突沸も希じゃない。世の中、頭に来ることで一杯だからなぁ。なに言ってんだ、年寄りはいい思いしてんだろってか？いや、そりゃ、若い衆と同じ、人によりけりってもんさ。金持ちもいりゃぁ、貧乏人もいる。言えるのは、どちらにとっても下流にゃ厳しい風が吹き荒れてるってことだ。これが日々怒りを新たにする。

　でもなぁ、怒り狂うなんてのは、やっぱり、はしたないさなぁ。できれば穏やかに爽やかに心地よく暮らしたもんだよ。だから、頭に血が上った時にゃ、要注意だ。極力、も一人の自分が、横から水をぶっかけるようにしている。その怒り、真っ当ですかい？その不満、身勝手じゃありゃしやせんか？

　だから、今回も、一度目はぐっと堪えて我慢した。警察相手でもあったしね。

　友人から超中古の軽トラックをもらえた。

　所有者を移転しなきゃなんないが、その必要書類の一つに車庫証明書てのがある。普段止めておくスペースが確保されてます、ってお墨付きで、所管の警察署長が発行する。高畠の場合南陽警察だ。

　２５分かかるからね、無駄足はしたくない。事前に電話で必要な書類、準備するものについて訪ねた。その答え、４枚綴りの申請書を書いてもらうので印鑑、それと手数料２０００なにがしが必要ってことだった。ちょっとくどく念押ししても同じ答え。ならばってことで印鑑と財布持って出掛けた。窓口で渡された書類、なんと、車の型式から車台番号、実寸まで記入する必要があるじゃないか！それならそうと言ってくれよ、車検証持って来てくださいってさ。こっちはずぶずぶの素人なんだ、だから、わざわざ事前問い合わせしたんだから！完全に無駄足、家まで２５ｋｍ３０分を往復して提出し直すしかない。頭は一気に沸騰！不満を叩きつけてやりたい衝動に駆られたが、そこはそれ、暴走老人、クレームじじいになるまいって自戒があるから、ぐぐーっと、堪えぶつくさ独り言をつぶやきつつ車に戻った。

　家に戻り、車検証見ながら種類を整え、もう一度、赤湯まで２５ｋｍ３０分！皮肉の一言も言ってやろうかと思ったが、それも姉ちゃん相手にはしたない。車庫証明書の交付なんてたまにしかない仕事なんだろ、だから、細かいところまで気が向かず、肝心な点を外して説明しちまったんだろう、まっ、仕方ない、我慢！我慢！自ら気持ちをなだめて、提出。

　一通り申請書類に目を通した後で、お姉ちゃん、車はなんですか？って聞いてきた。えっ、そんなこと関係ねえだろ、大きさ間違ってなきゃ、車庫証明出せるだろと、またまたかちん！でも、ここも抑えて、軽トリックです。って、じじいにゃ相応しい車だろうが、なんて憎まれ口はもうとう口にしない。

　と、それに対する姉ちゃんの言葉、軽自動車、車庫証明要りません、南陽、高畠では！はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！！！！！

　抑え続けた自制の心も、この瞬間にぶち切れた！

　てえっと、なんですかい？２回の往復、２時間と１００ｋｍの車移動はまったくの無駄だったってことですかす？！それならそうと、最初に言ってくれりゃいいじゃござんせんか！あっしの失われた２時間と消費したガソリン５Ｌはどうしてれるって言うでやんす！？一度ならず二度までも、こりゃ年寄りをわさどいたぶってるとしか思えねえ！年金じじいにゃいい暇つぶしだろうって思ってんでやんすか？！

　いっくら怒りを叩きつけたところで、ええー、まあー、しか言わないお姉ちゃん、済みませんの一言も言えないだらしなさ。見かねた上役の警察官が、顔を出して、場所を変えてお話しをお聞きしましょう、って、おいおい、いかにもクレーマー対応マニュアル通りじゃないか！このなだめるような仕草にも腹がたったが、こんな若造に不満ぶっつけたって、何の弁償も謝罪もあるわけない。さらに時間と感情エネルギーの浪費を重ねるだけだ。理不尽なクレーマーを処理しましたなんて、実績作らせてやるもんか！ってことで、同道を求める警官の腕を振り払って、無駄にした時間とガソリンは戻らない！　この落ち度を生かして、以降、説明には相談者の立場に立って懇切丁寧にしてください！と物わかりよく、玄関を出た。

　もちろん、腹の虫が収まったわけじゃない。怒りの炎はめらめらと燃え上がっていたが、いつまで考えてみたところで、時間は戻らず気持ちが荒むだけ、ここは、プラスに、まっ、申請手数料２０００なにがし払わなくて済んだから、いいか、と納得させた。やっぱり金の力は大きい。でも、この２０００円、無駄骨おりで手に入ったわけじゃないよな、って考えがちらりと浮かんだが、慌てて追い払った。そう、損して得取ったってことにしておこう。