昨日は雨の降りしきる中、横浜美術館で開催中の「ヌード NUDE」展に行ってきましたが、なかなか見応えのある良い展覧会でした。
目玉の作品は何と言っても、ポスターにもなっているロダンの「接吻」。
(こちらはヌード NUDE展の作品中、撮影が許可された唯一の作品です)。
実際の人間より大きな彫刻でキスしあう男女を表現したという本作ですが、いやいや、その存在ときたら大変なものであります!
展示室の映像でも解説されていましたが、そもそも生身の人間であればキスなんて、ほんの一瞬だから良いのであって、そんな長い時間できるものではありません。
ところが当然ながら、彫刻の「接吻」はこのように永遠にキスをしあっています。
スマホでどんなにバシャバシャ撮られていても、大理石の男女はピクリとも動かず、抱擁とキスをやめません。いや、そんなの当たり前田のクラッカーなのですが(古い!)。
頭部や台座にはノミの跡が残っていて、イタリアのベルリーニのように隅々まで磨かれている作品でないのは、これが実際の人間ではなく「石」であることを意識させるためなのか……いやいや、違うよなあ。
だったら、最初からこんなスキャンダラスな作品は作らないはず。
ダンテの神曲から題材をとったという本作ですが、女性のモデルはロダンの弟子であり愛人でもあった、カミーユ・クローデルでした。
当時43歳のロダンは妻帯者(妻のローズは当時39歳)の身でありながら、19歳のカミーユと不倫関係を続け、20代後半にはロダンの子を身ごもるも中絶。その後、ロダンとカミーユ、ローズの三角関係は15年も続きますが、最終的にロダンは妻のローズを選んだというわけで……。
美貌も魅力も才能も妻ローズより遥かに上と思っていた、カミーユはショックを受け、その結果、43歳で統合失調症を発症します。
まあ人の亭主を横恋慕したカミーユ。どちらが良いともわるいとも言えませんが、その後、精神病院で78歳になるまで過ごし死去というのですから、それだけ聞くとロダンはどうしようもないクズ野郎というわけで(苦笑)。
それだけに作品の存在感は見たこともないようなものではありました。
もちろんロダンが偉大な彫刻家であり芸術家であることは疑う余地もないのですが、だからと言って芸術家が作品のために何をやっても良いというわけでなく……まあ、そのあたりの是非はわたしなどがあれこれ言うことでもありませんので、ご判断はみなさまに委ねることにいたしましょう。
そう思いながら彫刻を見ると、いっそう興味深いものがあるかもしれません。
まあ善し悪しは置いておいて、ロダンの真似は誰にも出来んがなあ。
フランス人はとかく愛には寛容なようですが、ともあれ大衆が好きなスキャンダルを作品に昇華させたのが、この「接吻」かもしれません。
だから、この作品が青少年に悪影響を与えるということで、展示されていた市庁舎では布をかけられてしまったのが、経緯的にわからなくもないという感じかな。
ロダンとは関係ありませんが、かの勝海舟も愛人を同じ家に何人も一緒に住まわせて、奥様に「あの人とだけは一緒の墓に入りたくない」と言わしめた人物。
歴史に名を残すような人は、そのような一面があるのかもしれません(笑)。
さて最終的に「接吻」を購入したのが、本展覧会コレクションおおもとのイギリスはテートギャラリーなのですが、ロダンに限らず、さすがテートさん。ええもん、お持ちやなという感じですね。