漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

濡れた太陽

2013年10月19日 | 読書録

「濡れた太陽」(上・下) 前田司郎著 朝日新聞出版刊

を読む。

 劇団「五反田団」を主催する前田司郎による、「半自伝的(?)小説」ということ。岸田國士戯曲賞を受賞した劇作家であるが、芥川賞の候補になったり、三島由紀夫賞を受賞したこともあり、作家としても成功を収めている。
 小説の舞台は、福島県(作中では東京から二時間ほどのF県となっているが)にある高校。そこに通う、小学校の頃から小説を書いては途中で投げ出すということを繰り返している、見た目もぱっとしない少年相原太陽が、入学後に唯一できた友人がクラス合宿の行事でレクリエーション係になり、その出し物としてちょっとした寸劇をすることになったことに協力したことから、演劇の魅力に目覚めて、部員が三人しかいない演劇部を乗っ取って、自分の脚本で舞台をやろうとするというのが、おおまかなストーリー。
 面白いのだけれど、ちょっと変わった書き方をしていて、小説としての完成度とか、そんなタイプの小説ではない。最初は小説としての体裁をしているのだけれど、次第に戯曲のようになってくる。それは、作家志望から脚本・演出志望へと変ってゆく太陽の立ち位置と呼応しているようだ。したがって、小説と戯曲の中間、といった印象。著者の演劇に対する考え方が伺えるので、舞台が好きな人には興味深いかもしれないが、純粋な物語作品を期待して読むと、微妙な印象を受けるかもしれない。作中で展開される戯曲「犬は去ぬ」は、著者が実際に高校一年生の時に書いた戯曲らしいが、これは正直言って、僕にはいまひとつ面白さが分からず、読む勢いがややそがれた。けれども小劇団の台本は、舞台で演じられなければ面白さが伝わらないことが多いので、仕方がないのかもしれないし、なにせ書いたのが高一の時だというから、余計に仕方がないのかもしれない。