漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

ここは退屈迎えに来て

2013年10月09日 | 読書録
「ここは退屈迎えに来て」 山内マリコ著 幻冬舎刊

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 地方の小都市に生まれ、東京に憧れながら育った少女の感じること。念願叶って、二十歳前後に東京に出てきてしばらく暮らした後、再び故郷に戻った時に感じる独特の感覚。田舎にいたときはあれほど憧れていた東京が、長く暮らすうちにやがて色あせて感じ、故郷が懐かしいと感じて帰るものの、そこにはもう自分の居場所はないのだと気付く時の孤独感。さまざまなものが色あせて、遠く見える感じ。十代から三十代の女性を主人公に、そうした淡い閉塞感のようなものを切り取ってみせた連作短篇集。
 主人公の女性はそれぞれ違うが、共通した人物がひとり、出てくる。中学、高校と、女子たちの間で絶大な人気があったが、二十代の終わりにはもうその輝きは失われてしまっている男性、椎名である。彼は女性たちにとって、「かつての憧れ」の象徴として描かれている。但し本人は、自分がそこそこもてていたという自覚はあるものの、青春の象徴のような存在として、彼女たちの心の中にずっと一つの位置を占めているということまでは知らない。
 地方から東京に出てきている人たちには、共感できるところが多い小説だろうが、逆に東京で生まれ育った人たちには、よくわからないかもしれない。一読してそう思ったが、ふと思い返した。東京の中でも、かつての古い駅舎や駅前の商店街が、大きな再開発の計画とともに次々と失われて、似たような駅ビルが立ち並ぶ風景に変っていってしまっている。ビルの中に入っているのは、TUTAYA、マクドナルド、京樽、ユニクロ、ブックファースト、パステル、スターバックス……など、どこでも同じようなチェーン店ばかりである。地方出身者が自分の故郷に対して感じる感情とはやや違うにせよ、そのことでどこか故郷を失ったかのように感じる人は、少なくない気がする。