漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

マラカンドラ

2009年05月15日 | 読書録

「マラカンドラ―沈黙の惑星を離れて」 C.S.ルイス著 中村妙子訳
ちくま文庫 筑摩書房刊

を読む。

 有名な作品だけれど、これまで読まずにきていた一冊。感想としては、まさに神学SFといった感じで、時代遅れなのかといえば、まあそうとしかいえない。それに、当時の社会環境への風刺というか、戯画的な感じが、ちょっと鼻につく。
 ちょうど「天使と悪魔」の映画の予告などがテレビで流れていて、これはガリレオに関する映画のようである。つまり、科学と宗教の対立がテーマとしてあるようだ。ガリレオは、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に出てくるブルカニロ博士にも似て、科学で全てが説明できるのではないかという思想を持っていたとも聞く。それが教会の逆鱗に触れたようなのだ。西欧では、昔からこの手の論争がずっと盛んであるようだ。
 このルイスの「マラカンドラ」も、そうした科学対宗教の流れの中にある物語と言える。ウェルズで花開いたSFという分野が、ホジスンらを経てステープルドン、クラークへと続く「キリスト教ではない宇宙意識」という流れに繋がって行くことに対する、ルイスの抵抗とも取れる一冊なのだ。ルイスという人は、ナルニア物語でもそうだったように、芯までキリスト教中心の人だったから、科学というものが神や心の問題を無視してゆくことに我慢ならなかったのだろう。それも分かるが、神が介在した時点で、とたんに話が浅くなることも事実。それでも、ルイスにはどこか身が軽いところがあって、物語を語ることは上手いので、それなりに楽しめた。科学的な知識は皆無に近いようだが、骨董品的な神学SFとしての香気はあるかもしれない。