漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

七枚綴りの絵/最後の絵/日輪の城郭・16

2007年02月22日 | 汀の画帳 (散文的文体演習)
 陽射しが、とても眩しい。
 その中に、意識が白くなってゆく。

 記憶が、混濁する。

 逃げ水を追っている。
 逃げ水をくぐり抜け、その先へ向かうために。
 昼下がりの、微睡んでいるような街角で。
 道路は、どこも真っ白なコンクリートで出来ている。
 建ち並ぶ家は、どれも強いコントラストで縁取られ、その窓の奥は濡れたように見える。
 家の影が、白いコンクリートの道に細長く伸びている。
 それが、とても黒い。
 そこに、逃げ水がある。
 私は逃げ水から少し離れて、その中を覗き込む。
 その中には、空があり、瑞々しい色彩がある。
 私は、光と影の強いコントラストの街角から逃れようと、逃げ水を追う。
 けれども、逃げ水は逃げ続ける。跳ねるように、逃げて行く。
 誰の姿もない、昼下がりの街角で。

 記憶が、透明になる。

 平原の、藤色の道を歩き続ける。
 乾いた、さらさらとした砂の道だった。時々、石が転がっている。私は石を蹴飛ばし、さらに歩く。
 振り返っても、もうどこにも列車の姿は見えなかった。一面、果ての見えない、柔らかい草の揺れる草原が広がっているだけだ。風は、優しく吹いて、それはとても心地よい。だが、先は全く見えない。銀色の塔も、幾ら歩いても、一向に近くなった気がしない。
 歩きながら、時々、苺のような香が鼻腔に触れた。けれども、どう見渡しても苺など見えない。道から外れて、草原に踏み入ろうかとも思うが、その草の余りの密さに、底が知れない気がして、どうしてもそんな気にはなれなかった。だから、ただひたすら藤色の道を歩いた。