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漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

蝿とり紙

2005年04月10日 | 近景から遠景へ
近景から遠景へ:2

蚊取り線香の香りに乗って、子供の頃の夏に滑り降りてゆく。

小学校に入る頃まで祖父らと過ごした家は、幼稚園の時に改築されたのだが、それ以前はまだ土間などが残っている、古い造りの家だった。土間を、縁の下から現れた蛇や鼠が横切ることもあったし、モグラが死んでいることもあった。
そんなだから、一応網戸もあるにはあるが、それで虫を防ぐことなどできるはずも無い。実質的に、蚊も蝿も、出入り自由である。
そうした家で、よく使っていたのは、蝿とり紙である。ともかく、主に台所だが、あちらこちらに天井から蝿とり紙がでろんと下がっている。今では知らない人もいるだろうから、簡単に説明すると、紙テープの両面に粘着力の強いのりがついたものである。それを天井から下げておくと、飛んできた蝿や蚊がくっついて、取れなくなってしまうのだ。
家が次第に密閉され、網戸だけでも用が足り、虫がやたらと入り込むことがなくなると、蚊帳や蝿とり紙は姿を消していった。
虫に頭を悩ませる必要のないのは、素直にありがたい。
だが、時々思う。
どうして、あれだけ開け放たれていた家のことが懐かしいのだろう。
太い梁を眺めながら寝転んでいた、子供のころの自分を思い出すのだろう。
広く開け放たれた、夏の広い家には、くっきりとした光と影があった。
影は涼しく、光は眩しかった、と。

蚊取り線香

2005年04月10日 | 近景から遠景へ
近景から遠景へ:1

ふと見ると、プリンターの脇に、蚊取り線香がある。
今年買ったものではなく、去年からずっと置きっぱなしのものだ。
このところ暖かくなってきた。
桜が咲き、もう散ろうとしている。
そろそろ、蚊取り線香の出番も近い。

この線香は、湿気ていないだろうか。
蓋を開き、火を点けず、少し匂いを嗅いで見る。
匂いは、やや褪せているだろうか。
だが、とても懐かしい、夏の匂いがする。

蚊取り線香は、どうしてこんなに郷愁を誘うのだろう。
香りたち、幼い頃のことを思い出す。
夏の、涼しい夕暮れの記憶だ。
昔、CMでやっていた「金鳥の夏、日本の夏」。
美しい花火が印象的だった。
蚊取り線香の香りは、日本の夏の香りなのかもしれない。