さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

黄金の時、終わる 130ポンド級王者ふたりが引退表明

2017-07-29 21:01:41 | 関東ボクシング



世界的に選手層が厚く、ここだけはジュニアやスーパーの階級を設けて止む無し。
オールドファンの作家、安部譲二氏もそう書いておられた記憶がありますが、
このスーパーフェザーからウェルターまでのゾーンは、実際に人材豊富で、
過去の王者やタイトルホルダーの顔ぶれを振り返っても、なかなか「穴」が見つからない、
そういうのが却って珍しい、という感じさえあります。

その130ポンド級で、11度防衛の「王朝」を築いた内山高志と、
粟生隆寛の失った王座を、即座に取り返すのみならず、海外リングに飛躍した三浦隆司。
ふたりの元王者が、揃って引退を表明しました。


内山のデビュー戦からの流れは、G+でけっこう頻繁に見られました。
聞けば当時、日本のアマチュアの「パウンド・フォー・パウンド」は彼だ、とのことでしたが、
パワー充分、正統派のスタイル、そして何より、相手どうあれ丁寧に試合を組み立て、
とりあえず今勝てば良いというのでなく「先」を見据えた試合運びに、
なるほどこれは他とはちょっとモノが違う、心がけからして違う、と納得させられたものです。

クラスがクラスだけに、世界となるとわからんけど、この選手ならひょっとして...と
心中、期待していたものですが、時のWBA王者がホルヘ・リナレスだったこともあり、
あまり明るい展望は持っていませんでした。

しかし、リナレス初回KO負けの陥落を受けて、新王者サルガドに挑んだ試合では、
内山高志はその実力を十全に発揮し、世界レベルの実力を証明しました。
それ以降の堂々たる戦歴には、今更何も語ることはないでしょう。


三浦隆司については、小堀佑介戦の前後から、これまたG+やなんかで良く見ました。
この頃の試合は、なんといっても矢代義光との二試合が白眉で、初戦引き分けの後、
第二戦での壮絶なKO勝ちは、今思い出しても鳥肌が立つようなものでした。

パンチがあって、アグレッシブで、なおかつクリーンな闘いぶり。
こういう選手こそ、真のプロ、暇割いて身銭切って見るに値する選手というものだ、と
好感を持って見ていたことを思い出します。

内山高志に挑んだ最初の世界挑戦は完敗でしたが、ダウンを奪うという「爪痕」を残し、
再挑戦に至るまでの試合では、判定の試合でも中身のある試合を見せていて、
二度目の世界挑戦の試合は、勝って当然、と見る前から思わせるだけの成長を遂げていました。


このふたりのその後を語るとしたら、やはり米国での試合がかなったか否か、という話になってしまいます。

内山は米国での試合オファーが何度かあったと聞いていますが、国内の興行事情に縛られてか、
結局、実現はしませんでした。
マイキー・ガルシアやエイドリアン・ブローナーと米国で闘っていたとしたら、
その時、日本でやっているようなコンディションで、実力を十全に発揮出来たとしたら。
彼らと伍して闘えたか。或いは「粉砕」されたか。
ただ、いずれの結果であったとて、内山高志というボクサーの存在が、
より広く世界に知られ、認められたであろう、それだけは確信しています。
見果てぬ夢のまま終わったことが、ただただ残念ですが。


三浦隆司は、メキシコで一度、ベガスで一度、ロスで二度闘いました。
トンプソン、バルガス、ローマンにベルチェルトといった猛者たち相手に、
一歩も引かずに闘い抜いたサウスポーのファイターは、ひたすら誇らしい存在でした。
かつてヨネクラジムの名匠、松本清司トレーナーが語った
「世界中どこに行っても、倒して勝てるようなのを育てたい」という夢を、理想を、
そのまま体現したかのような姿は、目に眩しくさえありました。


両者ともに歴戦の疲弊を抱え、相性の悪い相手に、徹底的に警戒され、対策され、
王座を失い、奪還ならず、という試合を最後に、リングを去る決意をしました。
世界に好選手ひしめく、層の厚いクラスにおいて、粟生隆寛を加えた3人がタイトルを手にし、
それを保持し続けたあの何年間かは、まさしく黄金の時だったのだ、と思います。
少なくとも、世界戦21連続失敗(20敗1分)の暗黒の頃には、想像もしなかったことでした。

そして、どんな素晴らしいことにも、終わりは来るのでしょう。
その素晴らしいことの始まりから、終わりまでを、しっかりと見られたこと、
見せてもらえたことには、何よりもまず感謝したい、と思います。


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7 コメント

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Unknown (R35ファン)
2017-07-29 21:30:46
こんばんは。三浦さんも内山さんも世界のどこに出しても恥ずかしくない、外れのない猛者でした。最初三浦さん見たときは世界は難しいかなぁと思いましたがアメリカで戦う姿は格好良すぎました。理屈抜きに相手をぶち壊すスタイルに夢見させてもらいました。
内山さんについては、あの会長が彼をただの地域限定ヒーローにした、と思ってます。彼こそアメリカに行くべき人材だったはず。この悲劇を繰り返さぬよう、田口さんと田中君の試合は絶対実現しなければならないです。
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Unknown (月庵)
2017-07-30 01:35:59
内山と、そして山中。国内限定で無双する絶対王者という古めかしい光景はこれで最後にするべきだと感じます。井岡もこの系譜に連なるのでしょうが(父親の一件のせいかその立場も怪しくなってきた感がありますが)。王道を歩むと国内に縛られ、異端を歩まなければ本当の本場に出られない。内山と三浦は、そうした歪な構造を自らの立場で図らずも証明する形になりました。それ以上は散々語ったのであえて言いません。

それでも井上はようやく重い腰を上げ、田中は積極的に自ら舞台をかき回し、内山と三浦が引退を決断する最中に木村翔が敵地で今年最大のアップセット戴冠劇を演じた。少しずつではあれ風向きが変わる兆しが見えているものと信じたいです。
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Unknown (盛者必衰)
2017-07-30 08:48:00
いつもさうぽんさんのブログを楽しく拝見しています。
内山さん、三浦さんの引退に関して、特に内山さんのほうは、田口さん/京口さんの試合の解説中に、引退を想起させるコメントもあり、ある程度覚悟していましたが、やはり寂しいの一語に尽きます。
両者ともに、見る者を引きつける素晴らしい試合を見せてくれた偉大な王者ですが、さううぽんさんの仰るとおり、両者の最大の違いは米国進出がかなったか否かだと思います。
内山さんの米国進出がかなわなかったことに、日本ボクシング界の歪みの縮図を見たような気がします。日本でも、選手の意向を最大限尊重したマネージメント(団体)が確立されることを切望します。
それと、話は逸れますが、テレビ視聴者を偏重し、現地のファンをないがしろにする業界の姿勢にも疑問を感じます。テレビ放送は基本的にディレイ放送でよいと思います。最優先すべきは、自らお金を払い、時間を費やしてまで試合会場に足を運んでいるファンであることは間違いありません。テレビ生放送の魅力は否定しませんが、今の業界の優先順位はかなり偏っていると思います。
また、主にマネージメントの観点から、現行の日本ボクシング界に井上さんが大きな風穴を開けてくれることを期待しています。どの試合でも、世界王者にふさわしい報酬と意向が許容範囲内で実現されるべきですし、そこには、ジム(会長)の意向が介入すべきではないと思います。ジムは本来、選手を適切に指導/育成すべき存在であり、それのみに傾注すればよい存在であると思います。
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Unknown (海草類)
2017-07-30 10:48:19
一つの時代が終わりましたね。
内山選手と三浦選手には数々の興奮させる試合を見せていただき感謝の言葉もありません。
お疲れさまでした。
二人とも偉大な選手でしたが後半のキャリアでの活躍の場は何とも対照的になってしまいました。
今さら言ってもどうしようもありませんが内山選手にはたとえ散ることになったとしてもアメリカに行ってほしかったです。
井上選手や田中選手には西岡選手や三浦選手の作った道を切り開き、内山選手が叶えられなかった夢を叶えてほしいものです。
現行のビジネスモデルから抜け出すのは簡単なことではないのはわかってはいますがこのまま守りに入っていても正直ジリ貧だと思うので…。
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Unknown (失吹丈)
2017-07-30 15:02:33
まさに、両雄が並び立つ、黄金の時代でしたね。同じ時期に引退というのも、両者の縁なのでしょうか。
ワタナベジムの内山に対するプロモートには大いに疑問と不信を感じるところではありますが、内山が自身の著書で、ワタナベジムだからプロになった、ワタナベジム以外は考えなかったというようなことを書いていた(と思う)ので、もっといい舞台で、いい相手と、というのは少々高望みなのかなとも思っていました。
二人とも後輩には慕われてるみたいなので、今後も別の形でボクシング界を盛り上げていって欲しいですね。
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Unknown (NB)
2017-07-31 02:51:56
自分は内山の人柄がとても良かったと思っています。話す一言一言、具体的にわかりやすく、自分を飾らないで真っ正直、男らしさのようなもんが良く感じられました。
最近、自分の魅せてきたパフォーマンスや実力以上の発言する日本人多いので、『はっ?』がめちゃくちゃ脳裏に浮かぶ事多くて(笑)。バカにした『はっ?』ではなく、『えっ』に近い驚きですかね(笑)。その点は八重樫は抜群です、真っ正直。ボクサーの有言実行力は非常に大事な所ですから、日本のマニアは見通す能力が凄いですからね、世界一でしょう(笑)。
内山の会見まではどっちつかずの気持ちで会見の記事開く時は緊張しました。
やって欲しい、けどもう無理ではないかの繰り返し。応援してきた者として、希望を叶えて欲しかった。永遠に悔いは残ります。
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コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2017-07-31 19:10:15
>R35ファンさん

三浦については、世界かどうかはちょっと考えなかったですが、このような良い選手が日本チャンピオンであるのは素晴らしいことだ、と、まずそれを思っていましたね。HBOの全米中継イベントでメインを張るところまで行くとは、想像すらしませんでした。内山のマネジメントの貧しさは、今後あのジムから出るタイトルホルダーに対する待遇の限界にもそのまま引き継がれるでしょうから、それも含めて気が重いですね。一定の枠を越えた話になると、必ず壁があると。そして次にその壁に直面するのが、他ならぬ田口なのではないでしょうかね。もちろん、良い方向でそういう予想を裏切ってもらいたいものですが。


>月庵さん

まあ、国内限定活動することで、目先の、小さな限界がある話ではあっても、好待遇だったりすればまだ、そういう納得もアリなのかな、と思えもしますが、そこがそもそも駄目だったり、大したことがないにも関わらず...というのが、内山の陣営に対する私の苛立ちですね。馬鹿馬鹿しい限りですが、それがまかり通る日本ボクシング業界の悪しき安穏については、これまた繰り返しになってしまいますが。
異端でなければ、日本の興行において売れ筋を外した選手でなければ、本場に雄飛できない構図の異様さを、井上尚弥が崩してくれるのかどうか。本人の実力に疑いはないですが、あとは陣営の舵取りですね。


>盛者必衰さん

拙いブログですがお読みいただきありがとうございます。
日本のボクシング界は、選手に対する不当な関与の体制を確立していて、選手のキャリア構築を、選手の成功、ビッグマネーファイトを目指す方向でなく、ジムの興行権益を安定的に確保するための手段として行います。
あの帝拳ですら、西岡が入札で負けたり、三浦がメインイベンターとしての地位を確保出来るか微妙なところだったり、という事情もあっての海外進出でした。むろん、そういう別路線を取り得る帝拳の力は、高く評価されるべきで、内山の陣営のそれと比較すれば、その差は鮮明ですが。もし内山が帝拳の選手だったら、自分で売るチケットが報酬のほとんどを占めると言われる状況であれば、海外での試合がセットされた可能性が高い、と見ています。まあそもそも、そんな状況に選手を置かないですかね。

TV中継の現状に関しては、現場、会場観戦の観客をないがしろにする傾向がますます強まっている、と感じます。複数の試合を放送する際、メインを生中継(しかも遅い時間)に固定し、セミまでの進行が早いと、もうお手上げですね。有明でもえらい目に遭った、と以前ぐちぐち書きましたが、先日の大田区の話を散見すると、さらに酷いことになっていたそうで、もはや度し難いとしか。その場凌ぎのつぎはぎ、ごまかし、嘘偽りを重ねて世間から見放され、挙げ句TV局の言いなりで観客を無視し、さらに見放されるという、一本筋金の入った悪循環が、これからも繰り返されるのでしょうね。

井上尚弥の周辺事情が、そこまで選手の意向を優先したものかどうかは、期待半分、不安半分ではあります。しかし次の試合の内容と結果が、良い方向性を作り出してくれるかも、とまずは期待しています。しかし同時に、井上が有力な選手であるが故に、世界戦を始めとする試合をTV局に安定的に供給する「窓口」ジムとしての地位を、体制を維持するための活動を強いられるのも確かです(所属ジムがそういう「地位」になかった石田順裕は、それ故に、世界的な選手として活躍できた、と言えるかもしれません)。それが合法とされる日本ボクシングの欺瞞に満ちた体制が、どのようにしたら変わるのか。いずれ深刻な形で「崩壊」するしかないのか。それとも発展的な改革がありうるのか。あまり明るい予見は持ち得ない、というのが正直なところですね。


>海藻類さん

直接対決があったことも含め、振り返れば本当に、ボクシングファンとしてこのふたりを同時期に、つぶさに見て応援できたことは、とても幸福なことでした。三浦が挑み、内山がかなえられなかった米国での闘いを含めた、大きな枠の話を、井上や田中が実現してくれたら良いですね。井上のように海外でも「売れ」る選手になり、田中のように統一戦実現を果たしたり、従来の枠組を超えた選手の活躍が求められると思います。


>矢吹丈さん

その著書は読んでいませんが、やはりワタナベジムの練習環境(土居トレーナーの指導力)とコンスタントな試合の機会提供、という部分は、内山高志のキャリア構築に資する部分が大きかったのも事実でしょうね。問題はその先の、日本の業界の枠を越えた話になったとき、そこから何をどうしようという能力、ではなく意志そのものが欠落していたことでしょうが。両者にはとりあえず、しっかり身体を休めてもらいたいものですね。ボクシング界への関与は、あれば幸い、なくても幸い、というところでしょうか。何だか自分で書いていて意味わからんようになってきましたが...。


>NBさん

非情に、良い意味で大人の風格がありましたね。本物中の本物であるが故に、と理解するしかないんでしょうね。プロ入り当初は知りませんでしたが、大学でも最初は補欠選手で、あれこれ苦労もあったとかで。嘘やろう...と思って、本当に驚きました。そういう部分も含め、深みのある人格を感じましたね。
あれだけ強くて、誰もがそれを認め、でも叶えられなかった夢が確かに残った。引退の決断を支持はしますが、確かに残念でもありましたね。
八重樫はこないだもTVのバラエティーで見ましたが、もはや勝ち負けを越えた支持、認知をされていますね。IBFのベルトを肩から巻いて、カフェでスコーン食べてる写真にはひっくり返りましたが(笑)


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