さうぽんの拳闘見物日記

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拳闘見聞の日々。

馬力や手数のみでなく、技巧と戦術でも上回る マルチネス、井岡下して二冠獲得

2024-07-08 08:40:13 | 井岡一翔




ということで昨日は当然夕刻からABEMAのライブ配信を見ておりました。

格闘技の世界では、K1がABEMAのPPVを売っていながら、直前になってからCSのGAORAでも普通に生中継発表、という混沌とした事態が起こっていて、それに比べればボクシングは今のところ平穏でよろしいですな、というところでしたが、リングの上ではのんびりしたことは言っておられず、激しい打ち合いが繰り広げられました。



スーパーフライ級のタイトルホルダー対決、井岡一翔vsフェルナンド・マルチネスですが、まず立ち上がりの驚きは、マルチネスの肩周りから上半身にかけての、肉体の厚み。
WOWOWで三試合見たけど、ここまでごつかったかなあ?という印象。井岡との対比もあって、かもしれませんが。

初回からマルチネスが打って出る。ぐいぐい攻めていく感じだが、井岡は右決めたあとの左ボディで、早々にマルチネスを止める。
以前の試合でも、前に出ていると当然強いが、ボディ打たれて止まる場面があったマルチネス。
さすがに井岡、ちゃんと見てたんやなあ、と...素直に感心する気持ちかというと、微妙だったりもしますが。

初回は手数もヒットもあって、マルチネスが抑えたように思うが、ボディという突破口が早速開けたのだから、井岡がすぐに巻き返すだろう、と思ったら、そう簡単にはいかず。
2回からマルチネス、連打やボディ打ち、アッパーなどをまとめてくる。井岡はボディを返し、一旦攻勢を切るが、マルチネスまた右クロスなどを返してくる。
最初は「頑張るなあ」という感じだったが、ボディのダメージは堪えて、その前に手数をまとめてポイントを抑えていこうという組み立てが、徐々に見えてくる。

そうこうするうちに、マルチネスのガード、ブロックに井岡のボディブローが引っかかり、受けられる場面も目につく。
その上で体格に勝るマルチネスが相打ち覚悟で左フック、右アッパー、ボディ、右クロスと打ってくる。
井岡はボディジャブで食い止めるのがやっと。攻め込む展開が作れない。結局2回のポイントもマルチネス。

3回、井岡ボディストレート決めるがマルチネス前進。少し遠目から右ストレートのダイレクト。追撃の連打も。
井岡ボディ攻撃は決まるが、今度はマルチネスが右アッパー、左フックなどで相殺。
ボディを打ちに来る井岡を、アッパーで狙っている。この回もマルチネス。

4回、マルチネス少し離れて左ジャブ突く。合間にこれを挟めるなら、マルチネス盤石か、と思っていた展開。少しだけ、でしたが。
そうかと思ったら、強振ではなく細かい連打を真ん中に集めたり。色々やってくる。マルチネス。

5回、マルチネスの左フックで、井岡が一歩だけ下がる。左右連打からアッパー。攻められた井岡が左ボディ決めると、マルチネスがクリンチに出る。
井岡追撃するが、相手を「切り拓く」ところまで行けない。右ボディアッパー再三決まるが、ポイントは「微妙」止まり?
6回、打ち合いになるが、見栄えの良いヒットはマルチネス。この回、井岡のボディ攻撃も良いが、最大限に評価しても...?

7回、マルチネスは両足を半ば揃えて、その位置から左右アッパーをリードに使う。どっちが来るのかわかりにくい。
これを端緒に連打で井岡を打ち込み、下がらせる。さらにロープに追って左アッパー、右で追撃。
井岡左右ボディで反撃。場内沸くが、正確さが落ちている。マルチネス。
8回、井岡正対してジャブからワンツー。右ストレート相打ちも、次に手を出すのはマルチネス。井岡なおも正面から左アッパー、右ストレート。
しかしマルチネスの反撃、その手数が2倍、3倍返ってくる。マルチネス最後足使う。マルチネス。
9回、井岡の左ボディ何度か決まるが、マルチネスはすぐに打ち返して来るように。徐々にボディ打ちの効果が薄れている?マルチネスの闘志あればこそ、でもあるが。
ラスト、井岡のワンツー当たるが、マルチネスすぐに手を返そうとする。マルチネス。

10回、井岡の右カウンターで入るが、マルチネス前進して押し返す。井岡の左ジャブにマルチネス右クロス被せ。
井岡、正面から行くのにジャブの後、左が下がりっぱなし。打ち合うしか道はないが、体格で負けているのみならず、狙い無く打ち合わざるを得ない、という「絵」。
苦しい回。だがポイントが行く目もある回、か?

11回、マルチネス左ジャブから連打、そのさなかにサウスポーにスイッチして右ジャブからまた連打。どちらが「技巧派」なのか。逆になっている。
井岡右ショートカウンター決めるが、マルチネス堪えない。足使って捌き、ラウンド終了後、四方に挨拶。すでに勝利を確信か。マルチネス。
最終回、マルチネスが左右ショート決める。井岡食い下がるが、マルチネスはスイッチして捌く。細かく左右に構えを入れ替え、ヒットを取る。
最後もつれてマルチネス、スリップ。立ったところで試合終了。


判定は8対4、9対3、12対0の3-0でマルチネス。
8対4もまあ、見方ひとつで...無いですか。さりとて、フルマークも厳し過ぎるように思いますが。
私は10対2か、11対1くらいだという印象でした。




見終えて、想像と違ったところがけっこうあった試合でした。   
驚きはフェルナンド・マルチネスの方にありました。思った以上に、馬力や手数の面ではなく、技巧や戦術の部分に冴えたものがある選手なのだと。

初回のボディ攻撃を受けたダメージを堪えるのみならず、その後の対処法も、もちろん闘志や忍耐あればこそですが、手数で抑え、反撃で相殺し、追撃を切りながらポイントを抑え、回復を図り、同時にガード、ブロックで受ける確率を上げていく。
ポイントリードを重ねてからは、はっきりとアッパーによる迎え撃ち、さらにアッパーをリードに使って連打に繋げ、ボディを打ちにくくする「仕向け」もしっかりやっていました。
それでも執拗に狙ってくる井岡に苦しめられましたが、時に間合いを空けて、アウトボクシングで捌くという展開も作っていたり。

総じて、マルチネス陣営は、決まった間合いで巧さが出るが、機動力と強打に欠け、距離の克服や切り替えを強いられると苦しむという井岡の弱点を、しっかり研究していた、と言えるでしょう。
堂々たる勝利、王座統一でした。拍手したいと思います。
出来ればまた、日本のリングで、さらなるタイトル獲得をかけての試合を見せて欲しいものです。



さて、敗れた井岡一翔ですが、マイペースなら巧さを存分に出せても、あれこれいろいろやることが増えると、当然その技巧も、試合が進むにつれ精度が落ちてくる、という現実を突きつけられた敗戦だった、と見ます。
今までは相手選びの際、強い弱いという話と同時に「寸法」を厳選している面があり、自分の間合いで捌けて、その範囲から逸脱する体格やリーチ、パワー、スピードを持つ相手は可能な限り、避けてきた。
私は今回のマルチネスもまた、ぎりぎりその範疇に収まる選手だと思っていました。しかし思った以上の体格と馬力を持ち、さらに巧みな闘い方が出来る点で、その想定は的外れでした。
そして、それ故に、然るべきものだ、と言える試合内容と結果が残った。そういう試合でした。


今後については、普通なら引退だと思いますが、ABEMAの格闘技やボクシング配信の置かれた状況は混沌としていて、コンテンツの選別その他、色々と動きがあるらしいです。
ボクシングにおいても、昨秋の件あたりから事情が変わってきましたが、その中でも目玉というか最大のスターたる井岡一翔の敗戦というのは、単にボクサーとしての内実だけでは語りきれないものかもしれません。
我々が普通のアタマで考えるようなものとは、まったく違う発想で物事が進められる可能性も、なしとは言えない。私としては、もうそういうの充分やろう、と思うのみ、ですが。



コメント (7)
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