さうぽんの拳闘見物日記

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拳闘見聞の日々。

驚異の闘志と頑健さ、しかし変わらぬ「被弾前提」の熱闘 田口良一ドロー防衛

2017-01-05 21:40:02 | 関東ボクシング


大晦日、大田区のセミ、田口良一vsカルロス・カニサレスはドローで田口の防衛でした。

3回の途中くらいまでは、カニサレスが出て先制、田口は若干劣勢という流れ。
しかし田口が右のボディだったか、カニサレスの連打に返したヒットあたりから、
カニサレスが目に見えて足を使う型に変わったように見えました。

田口は前に出て圧力をかけ、カニサレスは徐々に圧されて苦しくなってくる。
しかし田口はジャブやアッパー気味の左、ボディ攻撃などはあるが散発的で、
完全に捉えるには至らず、ガードの隙間をヒットされる。

8、9回あたりは捉えるかと思ったが、10回はカニサレスも踏ん張って右当てる。
最後は、メインのコラレスと同様、ホールドの注意が出るが、減点はなしで終了。

会場で見ていると、ラウンドごとに採点を迷う回がけっこうありました。
田口の前進とヒットか、カニサレスが捌いて当てているか。
全体を見るか、好打を取るか。
正解の無い採点だろうなあ、と思って自分の採点を見ると、6対6になっていました。

公式は三者三様のドローでした。8対4で二人が割れ、あと一人がドロー。
8対4でどっちか、という試合だったようには思いませんでしたが...。


カルロス・カニサレスは、田口良一が世界戦で迎えた相手の中では、一番手強い選手だったかもしれません。
スピードもパワーもなかなかあり、田口がいつもどおりに打たれながらも執拗に出て、
捉えて攻め落とす、という展開は、この相手には難しかろう、と、試合序盤の段階で思いました。

反面、まだ不備が多い、青い段階の選手だな、という印象ではあります。
前に出る、足を使う、とふたつの闘い方を見せたものの、
総じて何をやるか、やりたいか、が見え見えで、わかりやすい選手でした。
打つパンチも同じ距離、タイミング、組み合わせが多く、ジャブで崩して攻めるより、
左右フックの組み合わせがいくつか、という印象。
もちろんそれで田口を充分苦しめましたが、競った回をもう少し取るには、不足があったというところでしょう。


今回の挑戦者選びについては、田口が本人の希望で強敵を選んだ、という報じられ方でしたが、
見ていて、それはあながちウソでもないのかな、という印象を受けました。

カニサレスが真に世界一流のボクサーだとは思いませんが、実際やってみて、
田口の被弾前提の前進と、執拗な攻撃での攻め落としがかなわなかったわけですし、
何よりもキャリアの下降期ではなく、上昇期の選手であったことも含めて、
過去の誰よりも手強く、敗北の危険性が高かった、と思います。

それにしても、いつものことですが、田口良一の闘いぶりには、鬼気迫るものを感じます。
白面の美男、不器用ながら良く鍛えられた頑健さをもって敵に肉薄し、
ある程度の被弾を前提にせざるを得ない、厳しい展開を、果敢だ懸命だ、という表現では
物足りないような姿勢で闘い抜く。
「評」の言葉を抜きにして言えば、畏るべき、としか言いようのない選手です。


しかし、世界王者としてどうか、といえば、このくらいの選手相手に、
壮絶な闘いをせねばならない、という時点で、やはり如何なものか、と思います。
もし彼が日本チャンピオンで、この選手と闘って勝ったなら、それは殊勲でしょうが...という。

何よりも、いくらタフだからといって、このような被弾前提の試合ぶりでは、
真に世界一流の、力の出しどころを弁えた、世界上位にふさわしい練度のあるボクサーと対したら、
厳しい結果が待っていると思います。
彼の防衛回数は5を数えましたが、宮崎亮戦が指名試合ということになっているものの、
直近の彼のキャリア、そして現状にそんな内実がなかったことは、誰もが承知の事実です。
一度も、本当に世界王者としての抜きん出た技量を示さないまま、こういう数字に到達したことも含め、
世界王者としての田口には、残念ながら不足を感じます。

そして、このような闘いぶりが、果たしていつまで続くものなのか、ということも、不安です。
その闘志には感嘆させられてばかりですが、そうはいっても...という気持ちですね。



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この日はセミセミにOPBFとWBOアジアパシフィックの「統一戦」がありました。
Sフェザー級、伊藤雅雪と渡邊卓也の一戦です。

初見(だと思う)の渡邊は、リーチもあって良い体格に見えましたが、
立ち上がりから伊藤に気圧されたか、ロープ際に下がってしまう。
伊藤は低い姿勢から、じっくり見てフェイントをかけるが、ジャブは省略、攻撃は散発的。

渡邊は試合が進むにつれ、時折鋭いワンツーが見られるが、全体的に手数が出ない。
伊藤もまた、カウンター狙いが度を超している印象。

両者、ことに伊藤の悪いときはこうですが、試合運びや組み立てが見えず、
その場その場の反応、対応だけにしか意図が見えない試合ぶり。
終盤は渡邊が疲れたか、少々フォームが乱れ出すが、伊藤は相変わらず、
カウンターの「合わせ」狙い優先で、攻め崩そうという型が作れない。

後楽園ホールのような、狭い空間で双方の応援団が多数を占めるロケーションなら、
多少違ったかもしれませんが、場内の「その他」の観客にとっては、見ていて
「終わるまで、大したことは起こらないだろうなあ」と確信が持ててしまう、退屈な試合でした。

判定は前に出ていて、手数、ヒットとも上の伊藤が、当然支持されました。
伊藤は渡邊が出てきた時の隙に、何らかの「合わせ」技を決めたかったのでしょうが、
渡邊は総じて消極的で、その狙いにも当然乗らない。
では、伊藤がその先、何か違うことをするかというと、何もなかったように見えました。

伊藤は合わせ技の巧さ、目の良さ、俊敏さなどに秀でて、センスのある選手だと思いますが、
ことこういう展開での「試合運び」に関しては、非常に凡庸、或いは歪な選手です。
きっと頭の中では、物凄い勝ち方、倒し方が理想像としてあるのでしょう。
しかし現実の試合展開において、それを実現するには、あまりにやること、やれることの幅が狭すぎ、
あまりに偏り、選り好みが過ぎます。この上を狙うには、不足が多すぎると改めて思わされました。


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この日はワタナベジムの若手選手も多数出場しました。
京口紘人、谷口将隆はそれぞれ勝利。谷口は少し拳を傷めたか、判定。
この両者はライバルであり友人でもあるそうですが、現時点では京口が一歩リードかという印象。

その前には、中山佳祐というサウスポーが出ました。
あれ、この選手見たことあるな、と思ったら、以前、大阪で久高寛之と対し、
二度ダウンして判定で敗れたものの、それ以外は健闘して、良い試合をしていた選手でした。
ワタナベジムに移籍しての初戦だったそうです。
タイの選手にKO勝ちでしたが、試合数がたくさん見込めるジムへの移籍を、
今後の成長に繋げられるかどうか、ですね。



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2 コメント

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Unknown (R35ファン)
2017-01-06 08:54:21
確かに田口さんの頑強さとスタミナ、ハートは一流ですよね。ただ以前も述べましたが彼はこの階級では大柄でジャブも悪くないのに何故それをもっと活かせないのか、何故自分から相手のパンチの距離に近付いて被弾覚悟の試合をするのか。あのサイズで彼の長い距離のジャブでプレッシャーかけ続けたら相手はかなり嫌だろうなと思います。
今回ただ近付いて相手に先手を出されてクリンチ。パンチは大きく空を切る。この繰り返しにかつての佐藤修さんの鈍臭い戦いが被りました。田口さんはまだこの階級では三番手くらいかと見ました。
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コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2017-01-07 07:02:32
>R35ファンさん

今回の試合に関していえば、ジャブは出したかったが、出して当たる確信が持てない時間が多かったんでしょうね。カニサレスは無駄も多いが良く動いていましたし。ですので、そのまま出て、そこを打たれるという悪い流れでしたね。この辺はカニサレスの「動き勝ち」という展開だったと思います。もっともその悪い展開ながらも、12ラウンズのうち過半数を相手に与えない田口の闘いぶりは、ある面では物凄いものですが。田口の位置づけはそういうところかなと思います。世界王者として、一級の技量力量を試されぬままの現状であると。

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