さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
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拳闘見聞の日々。

フェザー級、夭逝の王者が最大の不確定要素に

2020-04-28 14:13:41 | 海外ボクシング


さて、階級の名称、どうにかならんかったんか、ハエや鶏より軽いやないか...と、今更なことをちょっと言ってみたくもなる、迫力の伝統クラス、フェザー級。
マガジンによるエントリー、一回戦は以下の通り。


ナジーム・ハメドvsテリー・マクガバン
サルバドール・サンチェスvsビセンテ・サルディバル
ウィリー・ペップvsエウセビオ・ペドロサ
サンディ・サドラーvsファン・マヌエル・マルケス




今月号のマガジン、別枠記事で増田茂氏がナジーム・ハメドについて書いてますが、本当に、最初見たときは驚いたものです。
確かスティーブ・ロビンソンに挑戦した試合をWOWOWが放送した際、それまでの主要試合のハイライトを一気に流し、そしてロビンソン戦のフルラウンド、という形で、その日の放送回は一本まるまる、ハメドの試合だけ、でした。
余程のことがない限り、あり得ない番組構成だったと思います。それほど、世の耳目を集める存在だったのですね。





当時見ていて思ったのは、色々と条件が揃わないと成り立たないボクシングだが、それが成り立っている以上、誰も文句言えんなあ、ということでした。

下半身の強靱さが、上半身の傾き具合からは予測できないパンチ、コンビネーションを実現しているが、相手の反撃を外す目の良さ、勘が生きていないと、いくらでも打たれてしまうだろう、と。
結局、何をもって防御の軸とするか、という部分が危うく、その特異なスタイルと、秀でた才能によってその難点を隠せているうちは良いが...という。
当時「ガード上げて普通に闘ったら、もっと強いのに」という、身も蓋もない評も聞いたことがありますが(笑)本当にそうだったかもしれません。

また、あの、リスクの高い防御で闘えたのは、ワンパンチで倒せる強打が備わっているから、でもありました。
早く試合が終われば、打たれる可能性はそこで無くなる。それを頼りに闘えた、という面があったのも事実でしょう。
そういう決め手を持たないにもかかわらず、スタイルだけを模倣して、痛い目を見た事例もいくつか見たことがあります。

ただ、増田氏も書いているとおり、下肢の強靱さをベースにした強打者、という点で、井上尚弥と通じるものがあり、それは当時、新たな驚き、発見でもありました。
違うのは、井上が防御の軸を技術面でしっかり持っているのに対し、ハメドは勘頼り、という面です。
相手のレベルが上がり、また研究されるうち、その部分でどうしても不足が出てくるのは当然でした。

しかし、ベストの時期は、本当にスリルがあり、圧倒的に強かったと思います。アルゲリョがエントリーされていない以上、階級最強の評があるのも当然だろう、と思うほどに。




対するは「テリブル」テリー・マクガバン。初めて見たのは...ウソつけ、という話ですね。当然、今回が初見です。

クラスの区分けが色々ややこしかった19世紀末から、20世紀初頭にかけて、今でいうバンタム、フェザー、ライトの世界的選手を総なめにする強さ、対戦相手に挑発されてリング上で「喧嘩」を繰り広げたりする気性の荒さと共に、貧しい子供達の面倒を見たりする人情家の面もあり、大衆に広く愛された王者だったそうです。
その激しい闘いぶりは、マイク・タイソンが台頭してきた頃「まるでマクガバンのようだ」と例える声があったといいます。

動画探して見たら、カラーつけてあるものが複数ありました。びっくり。
画質自体も、かなり手を入れてあるのか、けっこう見やすいです。こういうのがもっと広まれば、色々楽しく見られそうですね。


こちらも殿堂入りファイター、ジョー・ガンスを2回に沈めた一戦。なんと1900年12月。明治33年です。
始めて見ましたが、ヒジを上げた左右フックは強烈ですね。





ただ、栄光は短く、1901年、1903年と、ヤング・コーベット2世に連敗。
初戦はダウン応酬の末に倒され、再戦でもKO負け。動画は再戦の方です。
黒か濃紺?のトランクスがマクガバン。白がコーベット。11回KOで試合は終わります。
リング狭い!とか、終わった時の様子が「時代やなー」という感じ。





相手のコーベットという人がまたガラの悪いお方で、試合前に控え室に乗り込んで行って、マクガバンに「アイリッシュのネズミ野郎」と悪罵を浴びせ、それに逆上したマクガバンが冷静さを失って負けた、という話があります。
しかし後年、引退後にコーベットの方がマクガバンを訪ねて和解し、仲良くエキシビションマッチを戦ったのだとか。
この他、ジョージ・ディクソンなどの対戦相手も、このイベントに加わった、といいます。
引退後、レフェリーをやっていて、退屈な試合をした選手を二人まとめて、リング上で叩きのめしてしまったとか(そんなアホな...)とにかく色々と逸話も多いお方でした。


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永遠のチャンピオン、といえばこの人、サルバドル・サンチェス。
ある意味、多くを語る必要も無いので助かる、という一人です。

普通の相手との防衛戦では、苦戦も凡戦もあるんですが、ダニー・ロペス、ウィルフレッド・ゴメス、アズマー・ネルソンといった強豪相手に見せた、鮮やかで印象的な勝ちっぷりはどれも見事。
ことにゴメス戦は、その驚異的な内容、見れば見るほど味わいのある試合ぶりで、ボクシングファンなら知らぬ者のない「クラシック」のひとつです。
フルラウンドの動画貼っておきます。これはお勧めです。見始めたら、割とあっという間に終わります。





なんでこんなに、相手のやること全部承知、みたいな闘い方が出来るものか、いまだに不思議です。
また、普段の試合ぶりのとおり、大したパンチ持っているように見えないのに、その気になったら?ズバッと倒すし、華奢に見えて、打たれても全然堪えないし...得体の知れ無さ、という意味では、歴代最高のボクサーではないでしょうか。

当時のプロモーターが企図していたという、アレクシス・アルゲリョ戦が実現していたら、どうなっていたかな、と思います。
普通に考えたら、パワーでも体格でもまさるアルゲリョの圧勝なんですが、この人だけは、そういう普通の想像が当てはまらないんじゃないか、と。
いったい、どんな試合になったものやら...見果てぬ夢、ですね。




対するはメキシコの先達、サンチェスとは何かと対象的な「赤い鷹」ビセンテ・サルディバル。
東洋最強を謳われた関光徳との二試合でも有名ですが、全盛期の強さは凄まじいものがありました。
また、サウスポーは受け身のボクシングをする、という当時の常識を覆した、攻撃型サウスポーの先駆者と言われることもありますね。

当時、世界タイトルがひとつの時代、フェザー級の強豪選手を悉く跳ね返した中でも、関光徳との二戦、ハワード・ウィンストンとの三戦が特筆されます。
関には初戦でダウンを奪われ、KO負け寸前から逆転の小差判定勝ち。しかし再戦では、凄まじい猛攻でTKO勝ち。
その最後のシーンです。





異名通り、鷹が獲物に襲いかかるような姿に圧倒されます。
この関との二試合は、昔、リング・ジャパンのビデオで見ましたが、数年前、CSフジで高画質の放送があって、ありがたく拝見しました。
しかしYouTubeでは、初戦の動画がないようです。残念。


続いてハワード・ウィンストン、第三戦、12回のストップシーン。
二度闘ってKO出来ず、苦戦した相手、後のWBC王者ウィンストンを遂に仕留める。
最後に、有名な涙の引退表明シーンが少しだけ。





最後におまけ?昔見たとき、思わず二度見したシーン。
4度目の防衛戦、これも強豪フロイド・ロバートソンを見事、2回で仕留めた試合ですが、終わった直後、カウントアウトを終えたばかりのレフェリーと歓喜の抱擁。これこれ(^^;)
まー...そういう時代だったんでしょうけど、ねー...。






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さあ、これまた古い「鬼火」ウィリー・ペップ。
1940年代から活躍したイタリア系の技巧派で、当時の水準を超えた防御技術の持ち主。
映像を見ると、目の良さが抜群、足捌きもよくて、相手の背後に回るシーンが多いこと。
ここまで徹すれば、防御で人気者になった、というのも納得です。

しかし宿敵サンディ・サドラーとの4戦、今の時代なら反則勝ちだろう、という試合を闘わされ、負傷で棄権した試合も含め、1勝3敗と負け越し。
動画はカラーを後からつけた?見やすいものがあったので貼ります。4戦目。少し長くて19分。9回終了後、ペップが棄権します。
コメンタリーがロッキー・マルシアノです。たぶん、イタリア系のペップを擁護する内容になっているんでしょうね。





ペップの動画は数多くありますが、カラーだし画質も良いし、この動画の前半部分に、ペップの良さはかなり出ています。
後半、ことに7回以降は、試合自体が奈落の底へ落ちていく感じですが...。

しかし、歴代屈指の技巧派であることはわかります。今のボクシング界に生きていれば、ある意味、もっと評価される類いの選手かもしれませんね。



対するのが歴代最多、19度防衛の黒帯王者、エウセビオ・ペドロサ。
この人も亡くなったときに、少し取り上げたんで、その記事貼ります

80年代、中南米の王者が、敵地へ出かけて稼ぐ、という形が生きていた最後の時代の王者でした。
今なら、北米のマーケットでいかに「売れる」かが問題になるでしょうから、こういうスタイル、立ち位置というか、それを貫くボクサーはそんなにはいないと思いますが。


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さて、エロルデやペップの項で動画も紹介した、通算100KO超えのサンディ・サドラー。
日本では金子繁治戦で見せた強さにより、評価が高い王者です。短い映像(1分弱)を見たことがありますが、頭一つ身長が違い、体格で劣る金子に左フックを効かせ、右で倒し、再開後タオル投入、という流れでした。
確かに当時の日本のレベルと比べると雲の上だったのかもしれません。伊達に100KO勝ちなんて出来るものでもないでしょう。





ですが、欧米のボクシング批評においては、そのダーティーファイトから評価は低めで、歴代ランキングでも宿敵ペップの上に置かれることは、ほぼ皆無だそうです。
まあ、試合映像見たら、それもしょうがないかなと思います。

しかし、今よりも反則行為に対する規制が緩い時代、これも含めた「闘い」がボクシングである、というのが現実だったのでしょう。
ただ、そういう面を抜きにしても、両手を前に出して攻める防御は、いくらでも打ち崩しようがありそうに見えます。というか、ペップ戦では景気よく打たれてもいますね。




対するはメキシコの英雄、パッキャオの宿敵としても知られるファン・マヌエル・マルケス。
確かにライト級でも強かったですし、ウェルターでパッキャオをKOしたときは、色々と疑惑が言われましたが、フェザー級でのエントリーなら、心置きなく、というところで。

さて、不遇の長かったマルケスがやっとタイトル獲得したマヌエル・メディナ戦、2回の迎え撃ち三連打。





これは見事。好きですね、このパンチ。
このシーンだけ切り取って動画アップしてる方がいるくらいなんで、同感してくださる方も多いと思います。

あとはHBOのハイライト。
パッキャオとの初戦は、本当に、何という試合だったのだろう...と改めて思いますね。







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ということで、対戦ですが、さすがにマクガバンの闘志も、ハメドには届かず。
サンチェスvsサルディバル、メキシコの新旧対決。これは難しいですが...サンチェスの「予知能力」が発揮され、サルディバルを振り切るか。
ペップvsペドロサ、防御の達人同士ながら、よりインサイドに小さく打てるペップで。
サドラーvsマルケスは、サドラーの塗り壁ガードの内外から、マルケスの強打が入る。マルケス。

準決勝、ハメドvsサンチェス。完全に外すというわけにもいかない同士、サンチェスも「追尾」して好打を重ねるが、ハメドが強打の威力で競り勝つか。
ペップvsマルケス、マルケスの連打攻撃を、巧さ故に見てしまうペップが外しきれず、マルケス。

実現しなかった夢対決、ハメドvsマルケスは、パッキャオを執拗に攻め続け、技量では上回っていたマルケスが、ハメドの強打に耐えつつ、防御を打ち崩す。マルケス。


試合のたびに、どう出るか、或いは「化ける」かわからないサンチェスという、不確定要素が大きなクラスですね。
やはり夭逝の王者というのは、色々と悩ましい存在です。



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2 コメント

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Unknown (アラフォーファン)
2020-04-28 19:21:28
なるほどサンチェスは実力もさることながら、あの若さで9度の防衛、底を見せぬまま逝去したのもあり、また格好いい振る舞いもあり、神格化されている面もありますよね。ただベスト8は充分納得。私はライト級で体格の壁に当たりましたが、フェザー級ならユリオルキスガンボアは充分凄いと見てます。サドラー外して入れてくれないかなと。あのダーティーな、ホプキンスもずるかったですが、この人は石膏をグローブに仕込んだとかありませんでしたっけ?
ファンマヌエルマルケス、私も大好き。メイとやった時のパッキャオ様でなく、どんどん強くなる一方のパッキャオ様に都度苦戦を強いたあのベーシックの底高さ。ハメドに勝つ予想嬉しいです。私もマルケスなら、ハメドの粗を突けると思います。

で、余談ですが、このマルケスにクリスジョンはしっかり勝ってるんですよね。彼は9位くらい?はてさて
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コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2020-04-30 14:05:29
>アラサーファンさん

サンチェスは夭逝の王者故に、その先が「イメージ」になってしまいますね。サンチェスが生きていたら、という仮定を現実に見せてくれるのでは、という期待が、出始めの頃のフリオ・セサール・チャベスにかかっていた時期もありましたが、ちょっと方向性が違いましたしね。
ガンボアは、無闇に階級上げてばっかりやな、と思ううちの一人ですね。ホプキンス、そんな話ありましたか。あまり感心を持っていませんでしたが...。
マルケスは、滑り足の良いときに不運な負けがあって、どこで当てるかで違うかもですが。ハメド戦、見たかったですね。
クリス・ジョンは確かに勝っていますが、試合映像の画質が悪くて、どうもいまいち...まあ、実力のベースは高いですが。


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