さうぽんの拳闘見物日記

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拳闘見聞の日々。

まだ「最強」とは敢えて言わぬが「軸」は決まった 中谷潤人、バンタム初戦でWBC王者をKO

2024-02-25 11:30:36 | 関東ボクシング



そういうことで昨日もまた、たっぷり4試合、ライブ配信を楽しく見ておりました。
これだけ数が重なると、従来のTV放送ではかならず「あぶれる」試合があったものですが、そんな心配は要らず、しかもAmazonPrimeならではのサクサク進行。
安心して、ストレス無く、全部見られる。有り難いことです。

そういうことで感想を順番に書いていきますが、最初は、順番でいえばセミ、WBCバンタム級タイトルマッチから。



初防衛戦で来日、小柄ながら攻撃力はかなりのもの、上体の厚みは圧倒的なアレハンドロ・サンティアゴ。
挑むサウスポー中谷潤人は、三階級目にして、まだ長身、痩身のイメージ消えず。
減量苦から解放されて顔色は良いが、サンティアゴに比べると当然、細く映り、ちょっと心配にもなりました。


初回、小柄なサンティアゴは右から入る。中谷ジャブからワンツー。
小さいサンティアゴに対し、左傾して覗くような構え。これ、あまりよろしくないなあ、手打ちになってしまうし...と、ちょっとだけ不安。的が小さく、やりにくい?
ただ、その後、左から入って右フック水平に打つ、逆ワンツーを打つときは、身体がわりと立っている。ちょっと安心。やや中谷、という回。

2回、両者しばしジャブで探り合い。中谷ワンツー繰り出すが、終盤、サンティアゴが右から入って左返し、クリーンヒット。サンディアゴの回。
相手の体型、サイズと、パンチの伸びにギャップがある?序盤、見切る前に打たれた。この辺はさすが王者、簡単ではない、と見えたところ。

3回、コーナー出る前、中谷笑顔。サンティアゴ左サイドに出て打ち、外そうという動き。中谷落ち着いてジャブ、逆ワンツー。
残り35秒くらい、中谷のワンツーがサンディアゴの右目上をかすめるように飛ぶ。これでカット、出血。中谷の回。

4回、サンティアゴのコーナーが止血に使ったワセリン、塗りすぎと見てレフェリーが止め、少し拭い取ってから開始。

サンティアゴは左フックリードから攻めたいが、中谷がワンツー、逆ワンツー。いずれも左を見せておいて、死角から右フック狙い。 
右瞼を切って、当然中谷の左が気になるはずの相手に対し、その考えの裏を取った?攻撃。
サンディアゴ右一発ヒットを取るが、中谷構わずスリーパンチ。サイドステップ切ってジャブ当てる。
サンティアゴ出るが、ヒットは2度くらいか。中谷がストレートパンチの距離から好打重ねる。中谷。
 

ここで途中採点アナウンス、三者とも4対0で中谷。2回も中谷が取っている。王者には厳しい。
ところが5回、当然巻き返しに出ると思ったサンディアゴが、そんなに来ない。ちょっと奇異に思うほど。
両者、同じタイミングでボディ打ち合う。しかし中谷がコンビを出すと、下がって外し、少し打たれるとクリンチ。中谷が取る。

メキシカンの世界王者ともなれば、劣勢とわかれば当然怒濤の如く「来る」ものだ、という、こちらの先入観とはだいぶ様子が違う。
少し打ち返すが迫力がない。ボディ攻撃が少ないのも、その一因か。
そもそもサンディアゴ、この時点で表情に精彩がない。相手にくらいつく闘志が見えない。見た目以上のダメージを、すでに受けているのか。  


このままペースを維持すれば、クリアに中谷が勝つと見えた6回、中谷がワンツー×2。
最初は上へ伸ばし、「次」は、ダックした後、身体を戻したサンディアゴを「追尾」する、最短の軌道。これがまともに決まってサンディアゴ、ダウン。
ダメージありありの王者、何とか立つが中谷、逆ワンツーにアッパー気味のパンチを織り込んで追い立て、最後は右フック。サンディアゴ立てず、KOとなりました。



バンタム級転向初戦で、これだけ余裕を持って闘い、これまでどおりに柔軟で多彩、淡々と闘う中にも相手をしっかり痛めつけ、倒してのWBC王座奪取。
井上尚弥を破天荒だ規格外だ怪物だと言い続けている昨今ですが、中谷潤人も別個に見れば、充分怪物的というか、並外れていると言わざるを得ません。
ちょっと考えられない、というか。本当に凄い、と改めて感心させられました。

おそらくサンティアゴは、5回までの時点でかなりダメージを抱えていたのだろう、と思います。
それは左を見せ、捨てて狙った中谷の右フックの数々であり、ひょっとしたらボディブローだったのかもしれません。
あと、距離の遠さと、それを生かした中谷の防御にも、精神的に疲弊させられていたのでしょう。
6回の決壊は、若干唐突にも見えましたが、そのあたりの蓄積があったのだと。


この一試合、サンディアゴをKOとした事だけで、いきなりバンタム級世界最強、とまでは...かなりインパクトのある、衝撃的な試合だったので、ついそう言いたくもなりますが。
ただ、かなりインパクトのある試合だったのは事実です。
少なくとも、国内外に注目選手ひしめくバンタム級において、井上尚弥が去った後の「メインキャスト」が決まった、とは、充分言えるでしょう。
かつて井上尚弥による、4団体統一への路線が(苦心惨憺の末)実現したのと同じ事をやるには、やっぱり「軸」が決まらんと無理だろうなあ、と思っていたんですが、その「軸」が、たった一試合で決まった。
中谷潤人は、転級初戦で、なかなかの大仕事をやってのけた、と思います。


バンタム級ではかなり体調も良さそうで、顔色も良いし、体格でも全然負けていない。
スパーリングのラウンド数や時間設定などを聞くと、壮絶な光景が目に浮かぶというか、そんな無茶して大丈夫なのか、と思うような、ハードなトレーニングをしているようで、その裏付けが、彼の強靱な心身を築き上げているのでしょう。
他のどのタイトルホルダーと対しても、これなら充分、と思える仕上がりでもありました。



最後に、絶賛一方だけではつまらないので(笑)ちょっとだけ注文つけますが、世界のトップクラスでは、という注釈付きながら、ちょっと打たれることに無頓着な部分があるようにも映りました。
まあ、長身とリーチに恵まれたボクサーというものは、若干そういう部分があるのは仕方ないことかもしれません。

それは例えばトーマス・ハーンズが、シュガー・レイ・レナードに僅かに及ばなかった一因でもあろう、と思ったりもします。
将来的に井上尚弥と闘う日が来るとして、井上がレナードとしたら、中谷は左のハーンズになる...なってしまう、のか?
試合が終わって、そんなことを思ったりもしました。

正直、ネクストモンスター、という惹句自体は良いとしても、実際に中谷潤人を、将来の井上尚弥の対戦相手として考えたことは、これまでは一度もありませんでした。
しかし、今回、初めてそんな想像が頭に浮かんできたりもしました。
昨日の試合は、そういう試合でありました。



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5 コメント

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Unknown (R45ファン)
2024-02-25 13:01:09
毎回毎回驚かせてくれる中谷くん、右の返しはコルテス戦でも何度か見せてましたが今回はより深くヒットしてましたね。
あの6ラウンドは鮮やかでしたが昨日はあの4ラウンドの残り30秒くらいに見せた、一回少しかがみ気味から打ち上げたような左ストレートに「うお!」とうなりました。彼は左ストレート、フック、アッパーで分けられないくらい多彩なパンチ打ちますが、ストレートも色々打ち方や軌道、タイミングが変わりますし、相手読めないですよね。モロニーもそうでしたが今回のサンティアゴもパンチ見えなかったそうで。
いやはやメインキャストは文句なしですね。

ただ、中谷くんの衝撃の後、メイン真面目に見られるかな…と心配してましたが、(これは尚弥様がイギリスでセミやった時もそうで、満足しすぎ現象ですが)心配なし。拓真くんも良かったですね。
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Unknown (海の猫)
2024-02-25 15:18:05
最初の増田を見た時は、これが今日一番の衝撃になるかと思いきや、とんでもなかったですね。中谷が圧勝しても驚かない、と思っていましたが、この勝ち方はやはり驚きです。

序盤、中谷が少しやりづらそうに見えましたが、それ以上にサンティアゴの表情が暗い。おそらく、思った以上に入れないことに戸惑っている。サンティアゴは距離を詰めるのがうまい選手で、サイズのある相手にも戦い慣れているため、自信があったのだと思います。公開採点を聞いてもいかなかったのは、単純に攻略の糸口が見つからず、どう行くべきか迷っていたのもあったかと。

中谷はさらに引き出し増え、自信を持って戦ってましたね。以前は一発で倒せるタイプではありませんでしたが、そこも掴めた感じで。この階級の長身選手はテテがいましたが、大分クオリティに差がありますね。テテは遠距離だと精度悪く、ほぼ入らせないための見せパンチでしたが、中谷はしっかりダメージを与えられる。サイズ差を活かした戦い方としては、なかなかないレベルの完成度。この階級「最強」かと言われると、自分もまだ分かりませんが、誰が相手でも有利オッズにはなるのでは。世界王者レベル、かつサイズ差が小さい相手と戦った場合にどうなるかは、見たことないので分からないとしか言いようがないですが。

自分も初めて中谷を井上の対戦相手として意識しました。このまま順調にいけば数年後にあり得るのかもと。その前に拓真が見たいですが、拓真はこの後、石田、堤と行くそうなので、実現前に中谷は階級を上げてしまいそうな気もします。
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Unknown (モノクマ)
2024-02-25 21:26:01
階級を上げて初戦でこれは衝撃でしたね
減量苦で階級を上げて自分のパワーが上がっても、必ずしも階級内での相対的なパワーが上がるとは限らない中で、今回の試合では相対的な差も上がったように感じました

サンティアゴは根性と無尽蔵のスタミナによる手数の選手と思っていましたが、そんな選手を距離で支配し、何もできないと思わせることで、メンタルから削っていったように見えました。おそらく、ここまで何もできなかったことはサンティアゴとしても初めてだったのではないでしょうか

ただ長身とリーチがある選手にありがちな、打たれることに無頓着な部分があるのではという点、同感です。
世界トップレベルと比較すると中谷はスピードという点では劣るところが多々あると思いますし、今回の試合は近くなる場面が少なかったので確実なことは言えませんが、一応、近距離ではサンティアゴの方に脅威を感じた気がしました。これが同サイズの相手だったり、今の中谷にも潜り込める相手だったりに命取りになる可能性があるのではとも少し感じます

ただ、現バンタム級で頭ひとつ抜けていることはしっかりと示しましたし、中谷が目指すpfpランキングにも顔を出せる選手だとアピールもできたと思います。
そんな内容の試合を魅せたからこそ井上戦も現実味を帯びてきますね!
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Unknown (Neo)
2024-02-26 10:32:58
凄いKOでしたね.全く見えなかった様に見え,実際そうだった様ですね.軸が強く枝葉が多彩,恐ろしい攻撃力です.防御面など中谷選手にはまだ色々不足部分はあるかも知れませんが,既にバンタム級No.1と言っても良いかと思いました.拓真選手が次をクリアして成長が見せられれば,中谷選手の真価が試されるようなマッチアップに将来的になるかもですね.
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コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2024-02-26 12:35:37
>R45ファンさん

パンチの打ち方は本当に自在なところがありますね。膨大な量のスパーリングの最中、教えて身につくものとは別のものを見出しているのかもしれません。フライ級時代は柔軟さが目に付きましたが、クラス上げて最初が小柄な相手だったこともあり、遠くから打ち据える、という試合でしたから、間合いの違いに相手が対応出来ませんでした。見えない、とはその辺、サンディアゴの読みが通じなかった部分かなと。モロニーは死角から打たれた、サンディアゴは来ると思っていない間合いから打たれた、という違いがあるように思います。


>海の猫さん

距離の違いは思った以上にサンティアゴを苦しめていたようですね。もっとコンビで切り込んでくるかと思ったらそうではなく、遠くから、死角から来るパンチが脅威だったということでしょう。仰る通り、普段から自分より大きい相手と闘うのが普通のことで、それでもなお、ですから、大変だったんでしょうね。ただ、途中採点聞いて、それこそなりふり構わず来るだろう、と思っていたんですが、それがなかった。抑え込むにしても、そこまでのレベルで抑え込めていたということでしょうか。
ゾラニ・テテですか、もう忘れていましたが(笑)確かに精度にだいぶ差がありますね。リング外での「距離感」もまた、変な選手でしたが。
中谷と体格が変わらないバンタム級というのは、それこそ稀少でしょうが、前提として距離を防御に使えない相手との闘いは、バンタムにおいては未知数ですね。ただ、小柄でスピードがあって、踏み込める選手(これはこれで稀少ですか)だったら、もっと怖いかもなあ、と思いもしますが。
中谷は、かつて井上尚弥が、自信を攻略せんとする相手を想定したときに、難敵としてゾラニ・テテに行き着いた、という話で行けば、テテ以上の質を、難しさを持っていますね。スーパーバンタムでウェイトが合うかというと、まだ何とも言えないですが、互いに良い状態で闘えたらなあ、と。もちろん、互いに、他に勝たねばならない試合がいくつもあるわけですが。


>モノクマさん

まあ、一種の怪物ですね。ネクストモンスターの惹句どおり。井上尚弥だけじゃない、後続がいますよ、という。
仰る通り「封殺」されていたということなんでしょうね。何しろ顔が弱気で。アップになる度に「ええ?」と思って、びっくりしました。リング上で正対する中谷潤人は、本当に悪魔のように見えるのかもしれませんね。
長身、リーチに恵まれたボクサーは若干雑、というのは、あくまで一般論で、それも世界のトップクラスの中では、という話ではありますが。まして試合を、相手をコントロールし、自分のペースで闘えているときは、少々打たれても堪えないでしょうし、それを気にせず「ずかずか」とやる方が良い場合もあります。ただ、スーパーフライとバンタムでの試合では、ちょっと気になるレベルになっているようにも思います。相手のサイズについては、あれで踏み込める相手だったらどうかなと。フランシスコ・ロドリゲス戦でも、サウスポーに構えて入ってくる相手の奇策もあってか、ちょっと「やられて」ましたね。あれより質が高く大きい相手が、今後バンタムで出てくれば...とここまで書いて、井上拓真がファイタースタイルに徹したら、と、ちょっと想像しましたが。
パウンド・フォー・パウンドは、軽量級で倒せる選手に高い評価を与える傾向があるかな、と思います。その意味では中谷のランク入り、充分あり得るでしょうね。


>Neoさん

中谷がワンツーをふたつ打ったとき、サンティアゴは最初のを外して、安全圏に逃げたつもりだったんでしょうね。そこに次のが来て、まともにもらってしまった。耐えようがなかったのでしょう。単にスピードやパンチ力ではなく「コネクト」に秀でている、というサンティアゴのコメントは、単に打たれたことでなく、狙い方や、当たる理由において、中谷の質の高さを語っているのだと思います。
防御に関しては、距離を元手に、相手に脅威を与えることで抑えている面がありますが、上記の通り、フライ級から上げて以降、いくつか目に付く、気になる部分がありますね。
今後は井上拓真のみならず、色んなカードが期待されますね。次はリゴンドーに勝ったアストロラビオだそうですが、他の王者が入れ替わることはあっても、中谷は当分...という風に見えます。その意味で軸は彼ですね。もう、最強と言えるかもしれませんが、まあ一旦抑えて、と(笑)。
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