日曜メインについての感想ですが...この手の試合を見ると、やはり心中、相反する思いを抱くものです。
過去にも同じようなことは何度も思ったのですが...というところでした。
理屈を越えた速さで全てを無力化するデビン・ヘイニー。
かつては攻防ともに完全無欠の精密機械だったワシル・ロマチェンコ。
新旧技巧杯対決と簡単に言えばそうなります。
両者一番の違いは体格でしょうか。
もうライト級には収まらなくなりつつある、と評判のヘイニーに対し、小柄なロマチェンコは、やはり一回り小さく見える。
これは互いにセーフティーに闘うのだろう、と思ったら、実際はちょっと違いました。
互いにけっこう間を詰めているというか。
ロマチェンコは軽いが細かいコンビ。小さい振りで届く位置にすっと立ち、そこから打つ。
対するヘイニーは右のボディブローで迎え撃つ。ボディ攻撃はやはり、ロマチェンコ対策として用意されている。
テオフィモ・ロペス戦でも見えたように、ロマチェンコからヒットを取れるとしたらやはりボディだし、同時に体格で劣るロマチェンコにとり、数少ない弱点でもある。
中谷正義も同様の狙いをもって、ボディ狙いの勝負をして、健闘したものです。
ヘイニーは若干、受け身が過ぎるようには見える。しかしロマチェンコの細かい連打に、必ず右の上下リターンを飛ばす。
ロマチェンコのアッパーを織り込んだショート連打に、ヘイニーも右ボディ、左フックなどを当てる。
仕掛ける回数はロマチェンコの方が多い。左ショートから、右フックから、入り方は多彩。
しかしヘイニーのリターンを高い頻度で合わされてもいる。
7回の左相打ち気味の場面も、ヘイニーの左フックの方が有効。
攻防自体は、意外と言っては悪いが、互いに大きく距離で外さず、比較的間が詰まったもの。
ラウンド毎に、これはどちらにも付けようがあるなあ、と思うことが多い。
ロマチェンコのヒット、ヘイニーのリターン。有効なヒットか、リターンによる相殺か。
テレビの映像で、どちらかに決めるにも限界がある。言えば正解の無い判定になるのだろうな、と。
場面毎に切り取れば、互いの巧さは出ていたのだろうと思います。
ロマチェンコが小柄ながら、仕掛けの回数でまさり、彼なりに果敢さを見せていました。
アッパーを織り込んだ風車のような連打は、終盤さらに回数が増えていきます。
11回は左ボディストレートから右フック返しで攻め込み、ボディ打ちで抑えました。
終盤になってなおボディを狙って、強敵を倒すのが、ロマチェンコのパターンでもあります。
またヘイニーの迎え撃ちも速く、タイミングも際どいものでした。
7回の左フック、9回の右ストレート、いずれのカウンター、リターンも、普通の相手ならまともに入って、好機に繋がったかもしれません。
終盤は上記の通り、ボディ攻撃のロマチェンコに対し、強敵相手だと終盤の失速が課題としてあったヘイニーが弱味を見せた感じ。
試合が終わり、判定は3-0でヘイニーとなりました。
場内はウクライナ贔屓もあって?不満のブーイングもありました。
しかし私は、それとはまた違った不満を持っていました。
どちらが勝ちでも良いけれど、そして双方、思った以上に、彼らなりに密度の濃い攻防を見せてくれたけども、互いに勝敗を明らかにするほどに打ち込み、捉えたわけではない。
11回はロマチェンコにとり、その端緒くらいではあったかもしれないが、それ以外は均衡が崩れることなど無かったように見えました。
そして両者、言えば正解の無いポイントゲームの世界に没入するのみ。
判定というものは結局、自分の手を離れるものでしかないのに、自分の手で「正解」たる「打倒」を目指す意志がない。
その「手前」での闘いが終始続いた。そんな試合でした。
試合後、もちろん勝った方は喜び、負けた方は不服そうでした。
しかし、世界ライト級の最高峰を争奪する、ふたりの超一流選手に対して失礼かもしれませんが、傍目のファンとしては、どちらにも感情移入することが出来ませんでした。
言えば通好みな試合だったし、闘い方や目指す勝利の形は人それぞれ、とわかってはいます。
とはいえ、この試合が終わって、本当に白黒、決着がついたと言えるのだろうか、という思いが消えません。
ポイントゲームの妙味を否定するわけではないですが、両者ともに、自らの手で「正解」をたぐり寄せる意志を、もう少し実際の闘いぶりにおいて、違った形で見せられないものか?
そこに、非常に物足りなさを感じました。
レベルの高い試合だったとは思います。
しかし、この試合を名勝負と言って、諸手を挙げて称えるほど、自分は出来の良いボクシングマニアではないのだな、と改めて思った次第です、ハイ。