穴にハマったアリスたち

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感想:七時間目の怪談授業 (講談社青い鳥文庫)

2011年06月13日 | 小説・本
出来心で読んでみたら、思っていた以上に楽しかった。

七時間目の怪談授業 (講談社青い鳥文庫)

小学5年生の羽田野さんは、携帯電話を買って貰いました。
ハイカラです。
ちょっと得意気な彼女の元に、今日も今日とてメールが舞い込みました。

『これは死んでしまったサッちゃんに千人の友達を作るためのメールです』
『このメールを9日間以内に3人の友達に送らないと、あなたは不幸になります』

羽田野さん:
 「ッ!!」

なんたる嫌がらせ!
しかしそこは女児小学生様。
怯えながらも、生贄を探すしかありません。

そして怯えすぎた結果、先生に携帯電話の存在がバレました。

先生:
 「学校には携帯は持ってこない約束でしょ?」
 「これは没収です。1ヶ月したら返してあげます」

羽田野さん:
 「ッ!!」

1ヶ月も取りあげられたら、期限内にメールの転送が出来ない!
むーむーと呻く羽田野さん。しかしながら先生は厳しいのです。
た、助けて!私の人生、詰んだ!?

そんな羽田野さんに、先生は一つの賭けを持ちだします。
私は心霊現象なんて信じない。
でも皆さんが怖い話をして、私に「幽霊って怖い」と思わせることが出来たら信じよう。携帯電話も返してあげよう。

こうして始まる女児小学生VS学校教師の怪談。そんなお話。


とりあえず、設定が良いですね。無駄に熱い。
そして展開も熱い。
小学生どもは懸命に怖い話を繰り出します。しかしながら、トリックが分かってしまえば怖くなど無い。

1日目:「私は霊感があってオーブとか霊とか死期とか見える」系。
 ⇒まず「主観」と「客観」の違いを知りましょう。あと眼鏡を買いましょう。

2日目:「お経の効かない幽霊」
 ⇒幽霊と一言で言っても、キリスト教徒も居れば仏教徒も居る。そもそも日本語が通じる根拠もない。「固定観念」に捕らわれないようにしよう。

3日目:「動く人形」系
 ⇒むしろ動いてくれたら、ファンタジーとして嬉しい。

4日目:「そこは昔、戦争で多くの人がなくなっていて…」系
 ⇒幽霊云々以前に、僅か数十年前に、戦争で殺し合っていた現実が怖い。怪談で語られるような辛い状況を、実際に生き抜いた人たちがいる。平和の大切さを忘れないようにしよう。

全て正論すぎる。大人気ないくらいに。
だけど。確かに大人気ないのだけど、大事なことです。
先生の話を聞いた主人公らが、確かにそうだと見方を変えていくのが心地よい。

端々の小ネタも効いてます。
「怖い話を探している」と質問された図書室の司書さんが、即答で「牛の首」を持ちだすとか。(しかもほとんど解説がない)
有名な都市伝説へのオマージュも良い味出してます。この本の本来の読者層が、どの程度ついてこれてるのかは疑問ですが。

怖い話というのは、ある程度フォーマットが決まっています。
わざわざ解説するのも無粋ですが、羽田野さん達はちゃんとそれを学んでいく。
何せ2日目の時点で「実話を探すよりも、作った方が早い」と気付くとか、学習能力が高すぎる。

追い詰められた羽田野さんは、苦し紛れに考えます。
「そうだ。本物の心霊写真を撮ろう。その写真を元に怖い話を作れば、先生も怯えてくれるはず」。
そこで幽霊が出ると噂の廃病院に忍び込むことに。もはや発想が訳分からない。そして羽田野さんは悟ります。

羽田野さん:
 「なんか、幽霊が出るって噂の場所を散々、歩きまわって、しかも泣くほどこわい目にあって」
 「怪我までした後では、呪いのメールなんて、もうそんなにこわく感じなくなってるよ…」

なんてことでしょう。
あんなに純粋だった羽田野さんが、怪談を集めまくる内にすっかり薄汚れてしまった。
人はこうして強くなる。

ちなみに羽田野さんの言っている怪我とは、廃病院の割れたガラスを踏んで負ったものです。
それは幽霊よりもずっと怖い…!
リアルに感染症の疑いがあるので、早く病院に行ってください。

こうして迎えた最終日。
羽田野さんが切り札として出したのは、「あなた(先生)のせいで、大切な人が不幸になる」系の話。
選択は正しい。
それが最も人を恐怖に陥れる。
だけどそれは下衆のやり口だ。

先生は「確かに怖かった」と認め、携帯電話を返却してくれます。とても悲しそうに。
首尾よく取り返した羽田野さんも、自分の仕掛けたトリックを理解し、とても悲しむ。
幽霊が怖いんじゃない。
そんなことよりも、大切な誰かが失われることが怖い。
それは幽霊に限らず、事故や病気や喧嘩でもそうだ。

先生:
 「もしも幽霊がいるのなら」
 「幽霊でもいい…。もう一度あの子に会いたい」
 「ずっとそう思っていた」
 「でも、幽霊なんて現れなかった」

怪談よりもずっと悲しい現実。
「幽霊の存在は、むしろ救いである」と述べる登場人物たちの言葉には、納得せざるを得ない。
だけど残念ながら…。だから現実に向き合わないといけない。

お子様向けなれど、やたらにしっかりしたお話でした。
扱われている怪談は、子供向け小説ということで多少マイルドにはされていますが、内容自体は定番中の定番。
それを身も蓋もなく論破していく先生や、数々の小ネタがちょっと愉快。
そこからラストへの展開もとても綺麗だった。
某サイトで推薦されてたのにも納得。確かにこれは、最初の教育に良い本だと思った。


(左画像)
七時間目の怪談授業 (講談社青い鳥文庫)

(右画像)
七時間目の占い入門 (講談社青い鳥文庫)


作者あとがきから。

「で、ある日、次はどんな話を書こうかな、と思って、司書をしている友達に「小学生ってどういう本をよく読んでんのー?」と聞きました」
「すると、友達は「そうやなあ、怪談とか人気あるね。」と答えました」
「そこで、私は(そうか、怪談を書いたら、本がたくさん売れるかもしれない)と考えたのでした」

それを堂々と書いてしまう作者が怖い。

【蛇足1】

そんな作者さんだからなのか。
本当に子供をターゲットにしてるのか謎なところもちらほらと。
漢字にルビが振ってあるような本なのに、

羽田野さん:
 「怖い話を知りませんか?」
塾の講師:
 「まんじゅうと茶と金と美女」
羽田野さん:
 「???」

とか何かがおかしい。(なおオチの解説は無い)

【蛇足2】

怖いかどうかは見方の問題…というのはよくある。
例を挙げると、定番の怪談の「山で遭難した4人が、眠らないように小屋の四隅で走る」話、あれは個人的には美談だと思う。
(元ネタはヨーロッパの降霊術だそうですけど)

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