非国民通信

ノーモア・コイズミ

今なお恨みの種は蒔かれている

2015-08-12 23:08:14 | 雇用・経済

中国人実習生が急減、日本の製造業や建築業で人材不足 破産に追い込まれる企業も(FOCUS-ASIA)

外国人技能実習制度で訪日し、日本に滞在する中国人実習生が2008年の15万1094人から14年には10万5382人と、約3分の2に急減したことが、法務省がこのほど発表した統計で分かった。劣悪な条件に加え、賃金水準が低いことなどが影響しているという。実習生が減ったことで人手不足になった日本企業が破産に追い込まれるケースも出てきた。日本新華僑報網の報道として、中国新聞網が3日伝えた。

報道によれば、長野県のあるプラスチック加工工場で働く中国人実習生は、6人が古い平屋に住み、月に残業を含め340時間も働いている。残業代は時給わずか550円で、長野県の最低賃金基準である時給728円よりはるかに安い。

こうした厳しい状況に耐えられなくなった中国人実習生が続々と日本を離れて帰国するなどし、特に日本の製造業、建築業、介護・看護の現場などで労働力不足が深刻になっている。地方都市では破産する企業も出てきているという。

 

 単純労働者としての外国人受け入れを求める財界筋の思惑の一方、中国からの実習生は大きく減少していることが伝えられています。中国側にも「親日派」がいて、同国人を日本に売り渡して私腹を肥やそうとする動きは続いているのでしょうけれど、その反面で日本の実態を知って敬遠する人も増えたのかも知れません。曲がりなりにも経済成長によって所得水準が向上してきた中国人にとって、上がり目の見えない日本の給与など今となってはそれほど魅力的に見えなくなっていることもあると思います。日本で強制労働に従事してくれる中国人が増えることは、もうないでしょう。

 なお「実習生が減ったことで人手不足になった日本企業が破産に追い込まれるケースも出てきた」とのこと。それはその通りなのですが、建前といえども「実習生(研修生)」なわけです。あくまで技能を教える、伝える、それを本国に持ち帰ってもらうのが制度の看板で、これを「安い労働力」としてカウントすることはあってはならない、あったとすればそれは「違法」と言えます。「外国人実習生が不足して人手不足に陥る」とは、実習生を(最低賃金以下の給与で)労働力として使役していることを意味するものです。労働に関する法律違反は取り締まられないのが日本社会の常ではありますけれど……

 

「日本の印象良かった」97%→来日後58%に激減 ベトナム人技能実習生調査 龍谷大(産経新聞)

 技能実習に来て日本の印象が悪化-。外国人技能実習制度に参加するベトナム人を対象にしたアンケートで、こんな結果が出た。劣悪な生活環境や低賃金労働などが背景とみられ、調査した龍谷大(本部・京都市)のベトナム人留学生、グエン・ヒュー・クィーさん(27)は「多くが日本に悪い印象を持ったまま帰国しており、両国関係に深刻な影響を与えている」と指摘している。

 アンケートは平成26年10~11月、ベトナム人実習生100人以上にメールなどで依頼し、38人から回答を得た。その結果、97%(37人)が来日前の日本の印象を「とても良かった」または「まあまあ良かった」と回答したが、来日後の印象では58%(22人)と、約40ポイント減少。来日前は一人も選ばなかった「印象はあまり良くない」は37%(14人)に上った。

 自由記述では「給料が安い」「単純作業ばかりで帰国後の就職に役立たない」など待遇や労働内容への意見のほか、「自由がない」「狭い部屋に大人数で住まわされる」といった生活環境の不満もあった。

 また、実習生の多くが「アンケートへの協力が受け入れ先に知られれば報復されかねない」と回答を断ってきたという。

 

 なお減少する中国からの実習生とは裏腹に、ベトナム出身者が急増しているのだそうです。26年末時点でベトナム人の実習生は約16万7千人とのこと、そのベトナム人を対象にしたアンケート結果が上記引用です。わざわざ来日する人の多くは日本に格段の好印象を抱いていたはずですが、帰国時点では「印象はあまり良くない」と回答する人が増えています。それ以前に「アンケートへの協力が受け入れ先に知られれば報復されかねない」と回答を断る人も多かったとか。これも将来の禍根に繋がる、数十年後には日本が謝罪なり賠償なりを求められる一因となることでしょう。

 日本の商社の中には中国でウナギの稚魚を取り尽くし、資源が枯渇すればまた新たな漁場を求めて別の国に目を向けるところもあります。技能実習生の扱いも、日本にとってはそういうものなのかも知れません。中国人が日本を敬遠するようになれば、また新たな「安価な労働力」を求めて他の国の人的資源を略奪しようとする、今はベトナムが新たな漁場になっているだけで、将来的には別のより貧しい国に目が向けられることもありそうです。しかしそれは、相手国に日本への恨み辛みを植え付けるだけのことでしかありません。最低賃金あるいはそれ以下の低賃金で人を酷使することでしか経営の成り立たない、そんな事業者を延命させてやることは日本側にとっても不幸なことでしかないのですが、まぁ大企業には批判的な風でも「弱い企業」には優しい人が多いですからねぇ……

 

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5 コメント

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Unknown ()
2015-08-13 01:01:48
一番最後の段落を読む前に「まるでウナギ漁業みたい」と思っていたら、最後の段落がまさにその話で少し驚きました。

>地方都市では破産する企業も出てきているという。

それこそ自由主義経済の原則に照らし合わせれば、こういう企業はどんどん市場から退場すべきという話になるはずなんですがね。なぜか日本の自称経済自由主義者はこういうことには大甘ですが。
もっともそれに対抗すべき左側も中小企業の悪徳行為には甘いので救いがどこにもありませんが。

無法な低賃金によってギリギリ存続してるような企業なんて、他の企業までも低賃金競争に引きずり込んで、労働者と市場をともに冷やし込むだけの百害あって一理なしの存在なので、経済の活性化と労働市場の正常化の両方の観点から徹底して排除されないといけないのですがね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2015-08-13 23:47:59
>毛さん

 市場原理主義者の類でも、労働者側の待遇改善を求める声には中小零細企業が潰れてしまうではないかと言い出すのが常ですし、逆に労働者寄りを装う人でも大企業を悪玉視するばかりで中小零細企業は「守るべき」と語る人も多いですからね。どちらの立場も弱い企業を守れと主張しているかのごとき有様、本当に最悪の雇用主には少しでも早く市場から退場してもらうのが改革であるはずなのですが。
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Unknown (nordhausen)
2015-08-15 08:02:35
一方で、「お金がなくても幸福に暮らせる」「幸福に貧富の差は関係ない」と唱えている人もいますからね。農山漁村地域で半自給自足生活を行ったり、青年海外協力隊で後発発展途上国へ研修した経験からそう言っているのでしょう。しかし、この言葉を低賃金かつ長時間労働に従事している人たちに対しても同じことが言えるのでしょうか。正直、ある程度経済的余裕がないと幸福を実感するのは難しいと思います。それに、こういう精神的幸福論を唱える人たちは、低賃金で安く人を使う企業の蔓延についてどのように考えているのかは疑問です。
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今なお恨みの種は蒔かれている (大竹 修一)
2015-08-15 10:41:37
今なお恨みの種は蒔かれている←全くその通り。強制労働や徴用と、どこが違うのかと言いたいです。地方の安普請のアパートに閉じこめられて毎日が単純作業。日本人の誰もがやりたがらないような仕事をあてがわれるわけだから、日本を去るにあたっては、「怨み」を遺していく実習生も多いことでしょう。

 10年後、20年後が心配です。
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Unknown (非国民通信管理人)
2015-08-15 23:33:30
>nordhausenさん

 結局、その辺は金に困っていない人の戯れ言ですからね。しかし、そうした有閑階級の精神論を信奉し、経済的な豊かさを悪玉視する人も多いのですから救いようがありません。精神的な豊かさを排他的に唱えている人もまた日本の財界筋の人間と同程度にタチが悪いと思います。

>大竹 修一さん

 結局、強制という事実はなかったと後生に言い繕うのかも知れませんが、強いられた側に遺恨を残すことに変わりは無いですよね。しかも現代の日本で行われていることは、当時すなわち現在の法にも明白に違反しているのですから、これを改められないようでは……
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