非国民通信

ノーモア・コイズミ

生活のために働く人のために

2014-05-28 23:26:32 | 雇用・経済

(インタビュー)ある派遣社員の体験 元派遣社員・酒井桂さん(朝日新聞)

(前後は色々と略)

 ――たとえばパートと派遣では、仕事に違いはあったのですか?

 「ほぼ同じで、違ったのは待遇ですね。パートの時給は派遣より低いけれど、ほとんどは夫の配偶者控除が受けられる範囲で働きたい人たちだと思います。正社員と同じ直接雇用で、わずかでも賞与が出たし、職場で弁当を注文すると補助があって、ほぼ半額の350円程度ですむ。派遣にはこんな補助はないし、健康保険組合が実施するインフルエンザ予防接種も受けられない。社員旅行にも参加できませんでした」

(中略)

 ――自分は派遣労働でいいという人もいるのではないですか。

 「派遣仲間の人たちに労組に入って一緒に要求しないかと声をかけたら、『そこまでする気はない』『労組って(会社に圧力をかける)右翼?』という反応が返ってきました。働いて収入のある親と暮らしていたり、夫の給料が高い人だったり。父の死後、年金生活者の母との生活のために働く私とは違った。それに、時給など労働条件をお互いに明かしませんし、派遣会社も別々です。派遣社員は最初から働き手として、バラバラになっている感じです」

 

 ある(元)派遣社員のインタビュー記事が載っているわけですけれど、長くなるので注目したい箇所だけ引用します。改善されているとは言えないながら一応は問題視されているものもある一方で、今一つ理解されていない要因もまたあると思うところで、それがこの辺なのです。すなわち、「夫の配偶者控除が受けられる範囲で働きたい人たち&働いて収入のある親と暮らしていたり、夫の給料が高い人」と「(自身及び扶養親族の)生活のために働く私(人)」の違いですね。

参考、嫌でも避けては通れまい

 ある世論調査によれば、「親の介護は自分がする」と回答した人が37%に上る一方、「親の介護問題について考えたことはない」が21%、「親が自分で老後を考えているので関係ない」は9%、「親の介護は他の兄弟がする」など、自分以外の兄弟に任せるという意見も12%あったそうです。親の介護を巡っても様々な見通しを持つ人がいるわけですが、高齢者向けの福祉に関して耳を傾けるべきはどの層でしょうか? 単純な多数決が民意として幅を利かせがちでもありますけれど、高齢者向けの福祉を削減するのか手厚くするのかを問うべきは、親の介護を他人任せにしようとしている人ではなく自分の将来的な責任と意識している人ではないかと思うのです。

 非正規雇用の処遇に関しても同様です。「配偶者控除が受けられる範囲で働きたい人たち&働いて収入のある親と暮らしていたり、夫の給料が高い人」の意見と「(自身及び扶養親族の)生活のために働く人」の要望、より応えるべき重要性があるのはどちらなのでしょう。日本の非正規雇用という偽装雇用を是正しようとする動きに対して、色々と屁理屈を持ち出してダメ出しする人は後を絶ちません。その手の論者は決まって「自らの意思で非正規雇用を望む人もいる」と強弁するものですが、彼らが都合良く選別する「非正規雇用を望む人」の中に「生活のために働く人」は含まれているのでしょうか?

 出典:家計を支える女性の出現率の国際比較 - データえっせい

 上に引用しました統計からも、日本では「家計を支える女性」が極端に少ないことが分かります。元々それほど高くない女性の就労率と比べてもなお圧倒的に少ない、我が国には働く女性は「それなりに」いますけれど、「家計を支える女性」ともなると際だって希な存在になるわけです。女性全般の有業率の低さとは裏腹に、日本のシングルマザーの就労率は非常に高いことが知られてもいますけれど、同時にその貧困率の高さもまた著しいところです。色々と歪なものが感じられはしないでしょうか。

 真に目標にされるべきは、「家計を支える女性」比率の向上であって、単にどこかに勤めているというだけの家計補助的な働き方をする女性をカウントしたものではあってはならないと私は考えます。要するに「夫の配偶者控除が受けられる範囲で働きたい人たち&働いて収入のある親と暮らしていたり、夫の給料が高い人」を非正規でチマチマと働かせて、それで「女性の社会参加が進んでいる」などとアピールするのは誤魔化しでしかない、建前を取り繕いつつその内実は格差を広げるものですらあるだろう、と。

 「配偶者控除が受けられる範囲で働きたい人たち&働いて収入のある親と暮らしていたり、夫の給料が高い人」であれば、非正規雇用でも満足できます。そして非正規雇用でも満足できる人が労働市場に流入すれば、安定雇用を望む人々の立場はどうなることでしょう。日本で働く人の賃金を高めていくことが国内市場の購買力を底上げし、引いては経済成長にも繋がっていくのですが、一方でデフレ志向の強い財界筋には「安い労働力」を求める声も根強いものがあります。そして低賃金労働の担い手として期待される移民の受け入れ拡大を求める人もまたいるわけです。この辺は流石に反発も小さくないところですが、実はもう一つ、低賃金労働の担い手として目を付けられている層もあるのではないでしょうか。

 それが要するに「配偶者控除が受けられる範囲で働きたい人たち&働いて収入のある親と暮らしていたり、夫の給料が高い人」で、こうした層が「安い労働力」の調達先として期待されているフシもあるはずです。そして非正規でも特に不満を持たずに働いてくれる人がたくさんいるのなら、生活に必要なだけの賃金と将来の保証を求める人などは雇用側にとって「面倒くさい人」でしかなくなってしまいます。「配偶者控除が受けられる範囲で働きたい人たち~」を増やすことは、「生活のために働く人」を低賃金労働者と競合させることに繋がりねませんし、女性の非正規社員を増やしたところで性別による格差が解消するはずのないことは考えるまでもないでしょう。しかし、この辺が女性の社会進出だの男女共同参画云々との美辞麗句で誤魔化されているところもあるのではないかと思うわけです。

 

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