非国民通信

ノーモア・コイズミ

裏切ったのではない、元からだ

2012-06-03 23:00:50 | 雇用・経済

「裏切った民主議員に報いを」 東電労組トップが不満(朝日新聞)

 「裏切った民主党議員には、報いをこうむってもらう」。東京電力労働組合の新井行夫・中央執行委員長は29日、愛知県犬山市であった中部電力労働組合の大会に来賓として出席し、そうあいさつした。

 「脱原発」をかかげる民主党政権のエネルギー政策などに、支持団体トップが不満を示した発言。中部電労組の出席組合員約360人からは、どよめきが上がった。

 新井氏は東電の福島第一原発の事故について「(東電に)不法行為はない。国の認可をきちっと受け、現場の組合員はこれを守っていれば安全と思ってやってきた」と述べた。事故後の政権の対応を踏まえ、「支援してくれるだろうと思って投票した方々が、必ずしも期待にこたえていない」とも語った。

 

 なかなか猛々しい物言いですけれど、敢えてツッコミを入れるとしたら「今まで民主党が味方だと思っていたのか!?」と言ったところでしょうか。労組のトップとして本当に労働者のことを慮るなら、元より民主党なんか絶対に支持してはいけない政党であったと思うだけに、「理解するのが遅すぎる」としか言い様がありません。ただまぁ、遅きに失した感はあるにせよ労組として民主党と距離を置こうとする姿勢時代は支持したいところです。労働者の敵・民主党を労組が支持するようなことがあって良いはずがないですから。

 しかるに「中部電労組の出席組合員約360人からは、どよめきが上がった」そうです。この期に及んで中部電力労組の出席者達は民主党支持を続けるつもりだったのでしょうか。もし、そんな心構えであったのならもはや労組としての役割を忘却しているとしか思えません。一部の国家公務員労組などもそうですけれど、労組である以上は自分たち労働者を守ることこそが本分、世間のウケのために自分たちを生け贄に差し出そうとする政権には報いを与えるべく行動するのが筋です。

 東京電力の企業としての責任はさておき、現場の労働者にまで無限に責任を負わせようとするのは資本主義のルールに照らしてもどうなのか、一般従業員にまで経営責任を負わせようとする日本には資本主義における労使の契約関係を超えた何かがあります。でも道徳本位制の社会では、それが当たり前なのかも知れません。ヒラの従業員だからと言って自分の職責だけを考えて過ごすことが許されない、企業の責任をも労働者が連帯して負担することが求められる、そして労組もまた所属する組合員を守ることよりも「世のため人のため」に行動することが求められるのでしょうか。ゆえに上記引用の東電労組トップの発言は結構な反発を買ってもいるようです。別に東京電力関係者だからと言って、何を言われても頭を下げて黙っていなければならない謂われはない、今回のはむしろ当然の発言だと思うのですが。

 

東電社員年収、来年度46万円アップ 値上げ申請の中(朝日新聞)

 東京電力は、2013年度から社員1人あたりの年収を今年度より46万円増やして571万円にする。全社員を対象にした「年俸制」導入にともなうもので、1千人以上の大企業平均より28万円高くなる。家庭向け電気料金の値上げの算定にも年収アップは織り込んでおり、利用者から反発が出る可能性がある。

 東電は福島第一原発事故の後、社員の給料や賞与をカットし、年収を平均700万円前後から20~25%減らした。家庭向け電気料金の値上げ申請では、12~14年度の社員の年収を平均556万円にしている。これは社員1千人以上の大企業の平均543万円に近い。

 

 さて、歴史修正主義者が南京事件など日本軍の蛮行を「なかったこと」にするのと同じような勢いで東京電力の給与カットや人員削減を「なかったこと」にしようとする否定論者が満ちあふれる昨今です。朝日新聞の見出しではなんと「東電社員年収、来年度46万円アップ」だそうで、露骨にミスリードを狙っていることが窺われます。もっとも本文を読めば分かるように、元々の給与水準を20~25%引き下げた時点を基準にしての「46万円アップ」です。誤解を生まない表現をするならば「給与削減幅を僅かに緩和」ぐらいでしょうか。

 むしろ年俸制の導入は業務量が増大する中で残業代を合法的に抑え込むための策なんじゃないかと思わないでもありません。メディアにはその辺にまで深く切り込んで欲しいものですが、この朝日新聞を含めて猫も杓子も「お客様重視」なのか、読者が喜ぶような記事しか載せないんですよね。その結果がこの煽りとしか言いようのない見出しに繋がっているのでしょう。まぁ、似たようなトリックは他でも使われ続けてきたものです。少年犯罪が最も少ない時期を基準点として「凶悪な少年犯罪が増加している」と喧伝したりみたいな……

 どのみち、企業規模からすれば決して高いとは言えない水準に東京電力の給与は落ち込んでいるわけです。削減された給与が僅かなりとも回復されるとあらば労働者側にとっては好ましいニュースのはずですが、「利用者から反発が出る可能性」が予想されてもいます。公務員給与もそうですけれど、我が国の有権者が喜ぶのは給与カットの決定ばかり、我が国の有権者が要求するのは一層の人員削減と賃下げだったりするのですから奇妙な話です。経済誌の「お約束」では「リストラは最後の手段」とされていますけれど、まずリストラを進めよというのが国民の最大公約数的な見解となっているように思えます。現実の日本では「リストラは最初の手段」なのでしょうね。とりあえず私は、どの会社(役所)であろうとも人員削減と給与の引き下げには反対しますし、これ見よがしに人件費削減を披露しては国民の歓心を買おうとするような経営者/政治家をこそ強く軽蔑しますけれど。

 

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7 コメント

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東電のこと (不肖の弟子)
2012-06-03 23:29:28
電気料金の値上げで「ボーナスを捻出する」ことを見聞きしているかと思います。

その件では管理人様と少しは似たことを言うマスコミは皆無でした。
私のように「ボーナスの支給対象は何処までで、一人あたりの平均額はどうなんだ」という話も然りです。
出てくるのは「リストラしろ、キイキイ」という一つ覚えです。

土地や施設の資産売却にしても、簡単に言えることではないでしょう。売却したら「相手がどうこう」とキイキイと言いそうです。

値上げにしても大口から頼まないことや「火力や水力発電所の修繕や親切に充てるならまだいいよ」という話すらしないのはどうかと思います。
この辺りは管理人様と意見が異なると思いますが、ご了承ください。
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Unknown (プチ左派)
2012-06-04 21:47:52
国家公務員が7.8%の給与削減がなったので、今度は国立大学も下げろと言われているそうです。
民主党の目指す国は給与大削減の超デフレ国家のようです。世界の中で成長から取り残された衰退国家をさらに衰退させるつもりのようです。

議員や公務員、年金や生活保護などを叩く連中がいつも上から目線で言うのが「俺たちの税金などで食ってるくせに」というもの。電力会社なら「俺たちの電気料金で食ってるくせに」です。
しかし賃金は労働報酬でしかありません。こういう連中には論理には「おまえこそ、客の金で食ってるんじゃないか!」と言い返すことにしています。

NHKだって受信料という形態がクレームを呼ぶ元になっていますが、民放はスポンサーからの金で番組を作っているわけで、そのスポンサー料は商品の中に計上されている、つまりは民放とはいえ、視聴者の金で番組を作っていることに違いはないわけですね。民放が無料だなんて幻想です。

つまり「俺の金で食っているおまえらは給料を下げろ」というのは、「俺も客の金で食っているのだから給料を下げられても仕方ない」と言うことになるんですね。
こうした足の引っ張り合いは見直されるどころか、エスカレートするばかり。先日も「市長の給与を半減する」主張だけで当選した市長がいました。
これらを見ると日本の将来は真っ暗だと言わざるを得ません。
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-06-04 23:20:12
>不肖の弟子さん

 値上げは、まず大口から始めていますよ。家庭向けも結局は値上げですが、一応は後回しになっています。まぁ、この辺も既に触れたことですが、民主党政府の考えることより国民に優しいと思うのですが、メディアも「お客様」も政治家も気にしてませんね。

>プチ左派さん

 自宅で偽金を作っているのならいざ知らず、そうでない以上は誰であっても他人が出した金を間接的に受け取っているはずなのですが、その辺は自覚されていないですよね。にも関わらず、公務員や電力会社社員にNHK職員など、叩きやすい相手には「俺たちの金で」と傲岸不遜な態度を取る、どんな強欲な投資家だってそこまで偉そうには振る舞うまいとすら感じるところです。まず国民も考え方を変える必要があると思わせられるところですね……
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Unknown (amanojaku20)
2012-06-04 23:45:26
労と使の間に一線が引かれているヨーロッパと比較して、日本の労使関係は労使協調でしたからね。

会社が赤字なのに、減給を飲み、ボーナス削減を飲み、耐え忍ばないとは何事かと思う人が多いのでしょう。


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Unknown (非国民通信管理人)
2012-06-05 23:01:48
>amanojaku20さん

 一方で経営側から敵視されることも少なくないのが日本の労組だったりもしますね。企業経営者にも国民にも労働組合というものへの理解がない中で、「良い子ぶる」と日本的な労組になってしまうのでしょうか。そして、その殻を破れば世間の反発を買うと。
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Unknown (プチ左派)
2012-06-05 23:14:54
あの年収400万以下というのブラック航空会社スカイマークが苦情の多さに業を煮やし、「今後は機内では乗客の苦情は一切受け付けない。相談センターか消費生活センターなどに訴えろ」という方針を出しました。

これに怒ったのが都の生活総合センター。「俺たちはおまえの会社の苦情受付窓口じゃない」とブチキレ気味。

人件費を切り詰めて、乗客サービスを一切削るというスカイマークは、新自由主義のシンボル的存在で、客にも「じゃあそんな会社に乗るなよ」と言いたくなってくるのですが、東電が「社員の人件費を減らして電気料金を下げる代わりに、大停電になっても苦情は一切お断り」とか、行政が「職員の人件費を減らして税金を下げる代わりに、町に犯罪・災害・ゴミがあふれても、救急車や消防車が来なくても苦情は一切お断り」という社会が来たらどうするのかな?とも考えました。
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Unknown (非国民通信管理人)
2012-06-06 23:22:55
>プチ左派さん

 結局、人件費を切り詰めるなどして低価格なサービスを提供することまでは歓迎されても、そのコストを消費者なり消費者生活センターなりにも追わせようとすると囂々たる非難が出るというわけですよね。何かを削ればどこかにしわ寄せが来るのですが、それを理解しない、あるいはそこで働く人にだけ押しつけて済ませようとする、我々の社会の我儘さを思い知らされます。
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