Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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Camptocormia(腰曲り)をどう治療するか?

2007年09月22日 | パーキンソン病
 Camptocormiaは以前の記事に記載したが,ギリシア語のKamptos=bend(曲がる)と Kormia=trunk(体幹)がその語源で,顕著な腰曲がりを指すが,椅子に腰掛けたり,ベッドに横になったりすると腰曲がりが消失したり,両手を壁についたり,片足を椅子に乗せたりすると不思議なことに腰が伸びてしまう.Baylor大学における16例のcamptocormiaを呈する患者の検討では,その基礎疾患としParkinson病が11名,ジストニアが4名,Tourette syndromeが1例で,治療として12名でL-DOPA内服が行われ,いずれもわずかに改善,もしくは無効で,腹直筋botulinum toxinは9例中4名で著明な改善と報告されている(Neurology 65; 355-359, 2005).

 ではこのcamptocormiaをどのように治療すべきであろうか?興味深い症例報告があるので紹介したい.症例は49歳の男性でパーキンソン病の罹病期間は9年間で,以前はL-DOPAが有効であったものの,近年,peak-dose dyskinesiaとmotor fluctuationが出現・増強している.後者についてはwearing offが見られ,offにはすくみ現象に加え,camptocormiaを呈した.治療としてL-DOPA/carbidopa/entacapone(つまりスタレボのこと)の増量を行ったところ,camptocormiaおよびmotor fluctuationを軽減することができた.つまり進行期パーキンソン病症例のなかにはL-DOPA responsive camptocormiaが存在するという報告である(Nat Clin Neurol 3; 526-530, 2007).
 
 ここで自分なりのcamptocormiaを呈する症例の治療に関して提案を行ってみる.
①まずパーキンソニズムを認めるかどうか調べる.もしここでパーキンソニズムを認めない場合は,運動ニューロン病,ミオパチー,筋ジストロフィー,1次性・2次性ジストニア,Stiff-person症候群(抗GAD抗体測定),精神疾患,脊椎異常,ホジキンリンパ腫に伴う傍腫瘍症候群,バルプロ酸副作用などを鑑別する.
②パーキンソニズムを認めた場合は,それがパーキンソン病か否かを鑑別する.この鑑別には,臨床像(対称性の発症や,早期からの自律神経症状・姿勢反射障害・認知症,L-DOPA反応性不良,小脳失調・大脳皮質症状・著明なジストニアの合併などはパーキンソン病ではない可能性を示唆する)やMIBG心筋シンチが有用である.
③パーキンソン病であれば,()まず,上記のようなoff dystoniaの可能性がないか検討する.この場合,抗パ剤調節にて改善しうる(20%にパーキンソン病症例に有効という報告がある;JNNP 77; 1223-1228, 2006).()腹直筋ジストニアの有無を筋を触ったり表面筋電図で確認.もしそうであれば腹直筋botulinum toxin.()最後の手段は両側性視床下核DBS.無効という報告もあれば,有効性を示した症例報告もある(Parkinsonism and related Disord 12; 372-375, 2006).
④パーキンソン病でない場合,MSA-PやPSP, CBDを検討する.PSPは渉猟した範囲では合併する症例の報告は見つからなかったが,近年,PSPの疾患概念(臨床表現型の多様性)は大きく変貌しているので,本当に合併しないとは言えない.MSA-Pについては若干の症例報告があるが治療についてはほとんど分かっていない.抗パ剤抵抗性の疾患であるため,おそらく腹直筋botulinum toxinが行われることになるだろう.

みなさんはどうされていますか,治療のご経験などありましたらどうぞ教えてください. 

Nat Clin Neurol 3; 526-530, 2007 
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2 Comments

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MSAの首下がり (tarashi)
2007-10-01 01:16:22
MSA-Pに首下がりが多いことは有名です。腰曲りでうまくいった症例(PDであったらしい)は同僚の症例で知っておりますが、僕の症例ではL-DOPAテストでちょっと腰曲りが改善するものの、実際にL-DOPAを増量してももうひとつです。ところが、このあいだ、MSA-Pの首下がりでステロイドにより著明な改善を見た症例を持ちました(そのうち関東地方会で発表するかも)。もっとも甲状腺や、抗甲状腺抗体、膠原病などはなかったものの、どうも突発性の筋肉の炎症(それも局所的な?)・筋膜の炎症があったようです。今後カンプトの患者にもMRIなどにより(脊髄だけでなく)筋肉に注目して症例を見直したいと思っています。
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TRH (kresnik)
2009-04-05 17:30:16
 いつも楽しく拝見させていただいています。神経内科医です。

 Parkinsonismに伴う腰曲がりの患者を tilt tableに乗せて、角度を上げていったことがあります。臥位では腰曲がりがないのに、80度くらいになって立位を意識した瞬間腰が曲がる様を見ていると、一種のジストニアだというのが実感できました。

 先生は触れておられませんでしたが、関東地方会でヒルトニンの報告がありました。この薬、海外ではほとんど評価されていないようですが、「武井麻子ら.Protirelin tartrateによりcamptocormiaが改善した他系統萎縮症(MSA)の2症例.臨床神経 46: 428, 2006」で抄録が見られます。私も、機会があったら検討しようかなと思いながら、まだ自験例はありません。
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