Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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腰曲がり病(Camptocormia)

2005年08月25日 | パーキンソン病
Camptocormiaはギリシア語でKamptos=bend(曲がる), Kormia=trunk(体幹),日本語で言うと「腰曲がり病」というところだろうか(右図).Bent spine syndromeも同じ病態を指しているが,「首下がり」(head drop syndrome)とは別の病態である.まずその特徴として骨あるいは脊柱筋には異常はみられないことが前提である.また歴史的に戦時中(第1次・第2次世界大戦)の兵隊に多くみられたり,心理療法・電気療法でまっすぐに戻ったりすることから心理的要素の関与や精神科疾患であるなどと考えられてきた.しかし近年,器質的な疾患でも同様の病態が生じることが明らかになりつつある.
 今回,Baylor collegeよりcamptocormiaの臨床像・治療反応性などに関する研究が報告された.まず3例ほどの詳しい症例提示があるが,興味深いのはfigureの写真やwebで見ることができるビデオ画像.顕著な腰曲がりを呈している男性が,椅子に腰掛けたり,ベッドに横になったりすると腰曲がりが消失したり,両手を壁についたり,片足を椅子に乗せたりすると不思議なことに腰が伸びてしまう様子が良く分かる.
さて研究の方法としては,16例のcamptocormiaを呈する患者の神経学的所見を検討.平均発症年齢は51.5±19.9歳,初発の神経症状が出現してからcamptocormiaが生じるまで平均6.7年.Camptocormiaの罹病期間は平均4.5 年であった.基礎疾患としては11/16例(68.8%)がParkinson病,残りでは4/16例がジストニア,1例はTourette syndromeであった.治療として,12例がlevodopaを使用され,いずれの症例もわずかに改善,もしくは無効という結果であった.9例は腹直筋にbotulinum toxin type A を注射し,4名で著明な改善を認めた.1例では両側視床下核のDBSをパーキンソン症状に対して行ったが,camptocormiaに効果はなかった.以上の結果は,camptocormiaは単一の疾患により引き起こされるのではなく,heterogeneousな疾患群と考えられ,その一部は腹直筋のジストニア(abdominal dystonia)が関与しているということなのであろう.いずれにしても,まずこのような病態があることを認識し,治療可能な腰曲がりを拾い上げることが重要であると言えよう.

Neurology 65; 355-359, 2005
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