「脳卒中治療ガイドライン (2004)」において嚥下障害は「対症療法」と「リハビリテーション」のふたつの欄で取り上げられている.そのなかでスクリーニング検査としては3つの方法が記載されている(①喉頭咳嗽反射,②水飲みテスト,③反復唾液嚥下テスト).でもエビデンスレベルの記載はあっても,方法や評価法が書かれていないので,臨床の場で容易に使えるとは言いがたく不親切な印象はぬぐえない.少し方法を調べてみたので紹介する.
1. タルタル酸吸入を用いた喉頭咳嗽反射(reflex cough test; RCT)
Addington WR et al. Assessing the laryngeal cough reflex and the risk of developing pneumonia after stroke. An interhospital comparison. Stroke 30; 1203-1207, 1999
http://stroke.ahajournals.org/cgi/content/full/30/6/1203(freeのpdfが読める)
laryngeal cough reflex (LCR)は脳血管障害後,消失ないし減弱するため,誤嚥の危険性が高くなる.このLCRを判定する方法がRCTであり,方法としてはnormal saline で溶解した20% L-tartaric acid溶液(タルタル酸は喉頭の咳受容体を刺激する)をエアロゾルとして最大3回の吸入を行う.評価は咳嗽反射の有無・程度を見て,減弱ないし欠如していれば異常と判定する.所要時間約10分.評価の限界については下記のホームページの記載に詳しい(案外,判定は難しいようだが,どちらか実践している病院はあるでしょうか?).
http://www.nss-nrs.com/cgi-bin/WebObjects/NSS.woa/wa/Articles/lcrTestArticle
2.水飲みテスト
いろいろ方法はありそうだが,詳しく方法と判定法が記載されていた以下の文献を紹介する.
窪田俊夫他 : 脳血管障害における麻痺性嚥下障害-スクリーニングテストとその臨床応用について.総合リハ,10:271-276,1982
常温の水30mlを注いだ薬杯を座位の患者の健手に手渡し,「この水をいつものように飲んで下さい」という.以下の3項目(A-C)を測定,観察する.
A. 飲み終わるまでの時間
B.プロフィール
1.1回でむせることなく飲むことができる。
2.2回以上に分けるが,むせることなく飲むことができる。
3.1回で飲むことができるが,むせることがある。
4.2回以上に飲むにもかかわらず,むせることがある。
5.むせることがしばしばで,全量飲むことが困難である。
C. エピソード
すするような飲み方,含むような飲み方,口唇からの水の流出,むせながらも無理に動作を続けようとする傾向,注意深い飲み方など
D. 判定
プロフィール1で5秒以内:正常範囲
プロフィール1で5秒以上,プロフィール2:疑い
プロフィール3-5:異常
3. 反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)
才藤栄一:老年者の摂食・嚥下障害の評価法と訓練の実際 歯界展望Vol.91 No3 1998-3
①被検者を座位とする.
②検者は被検者の喉頭隆起・舌骨に指腹をあて,30秒間嚥下運動を繰り返させる.被検者には「できるだけ何回も”ごっくん”と飲み込むことを繰り返してください」と説明する.喉頭隆起・舌骨は嚥下運動に伴って指腹を乗り越えて上前方に移動し,また元の位置へと戻る.この下降運動を確認し,嚥下完了時点とする.
③嚥下運動時の喉頭挙上・下降運動を触診で確認し,30秒間に起こる嚥下回数を数える.高齢者では30秒間に3回できれば正常と判断する.
④嚥下障害患者は1回目の嚥下運動はスムーズに起きても,2回目以降喉頭挙上が完了せず,喉頭隆起・舌骨が上前方に十分移動しないまま途中で下降してしまう場合がある.これを真の嚥下運動と間違わぬよう注意する.
⑤口腔乾燥が強く,嚥下運動を阻害していると考えられる場合には,人口唾液や少量の水を口腔内に噴霧する.
個人的な意見だが,理想的には①screeningの方法を決めてその結果を病棟全体が共有し,チームとして嚥下障害のある患者さんを把握すること,②screeningで異常を認めた患者さんにはVFなどのより客観的な評価を行い,嚥下障害の機序・パターンを確認すること,③嚥下障害の機序に応じたリハビリを行える体制を作ること,が大切と思われる.今回は脳梗塞後の嚥下障害の話が中心となったが,基礎疾患によって嚥下障害のパターンはまったく異なり,それに応じてリハビリの方法も変わってくる.いずれも大変な仕事であるが,嚥下障害は患者さんのQOLに大きく影響を及ぼすので,この辺は医療従事者の頑張りどころである.
1. タルタル酸吸入を用いた喉頭咳嗽反射(reflex cough test; RCT)
Addington WR et al. Assessing the laryngeal cough reflex and the risk of developing pneumonia after stroke. An interhospital comparison. Stroke 30; 1203-1207, 1999
http://stroke.ahajournals.org/cgi/content/full/30/6/1203(freeのpdfが読める)
laryngeal cough reflex (LCR)は脳血管障害後,消失ないし減弱するため,誤嚥の危険性が高くなる.このLCRを判定する方法がRCTであり,方法としてはnormal saline で溶解した20% L-tartaric acid溶液(タルタル酸は喉頭の咳受容体を刺激する)をエアロゾルとして最大3回の吸入を行う.評価は咳嗽反射の有無・程度を見て,減弱ないし欠如していれば異常と判定する.所要時間約10分.評価の限界については下記のホームページの記載に詳しい(案外,判定は難しいようだが,どちらか実践している病院はあるでしょうか?).
http://www.nss-nrs.com/cgi-bin/WebObjects/NSS.woa/wa/Articles/lcrTestArticle
2.水飲みテスト
いろいろ方法はありそうだが,詳しく方法と判定法が記載されていた以下の文献を紹介する.
窪田俊夫他 : 脳血管障害における麻痺性嚥下障害-スクリーニングテストとその臨床応用について.総合リハ,10:271-276,1982
常温の水30mlを注いだ薬杯を座位の患者の健手に手渡し,「この水をいつものように飲んで下さい」という.以下の3項目(A-C)を測定,観察する.
A. 飲み終わるまでの時間
B.プロフィール
1.1回でむせることなく飲むことができる。
2.2回以上に分けるが,むせることなく飲むことができる。
3.1回で飲むことができるが,むせることがある。
4.2回以上に飲むにもかかわらず,むせることがある。
5.むせることがしばしばで,全量飲むことが困難である。
C. エピソード
すするような飲み方,含むような飲み方,口唇からの水の流出,むせながらも無理に動作を続けようとする傾向,注意深い飲み方など
D. 判定
プロフィール1で5秒以内:正常範囲
プロフィール1で5秒以上,プロフィール2:疑い
プロフィール3-5:異常
3. 反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)
才藤栄一:老年者の摂食・嚥下障害の評価法と訓練の実際 歯界展望Vol.91 No3 1998-3
①被検者を座位とする.
②検者は被検者の喉頭隆起・舌骨に指腹をあて,30秒間嚥下運動を繰り返させる.被検者には「できるだけ何回も”ごっくん”と飲み込むことを繰り返してください」と説明する.喉頭隆起・舌骨は嚥下運動に伴って指腹を乗り越えて上前方に移動し,また元の位置へと戻る.この下降運動を確認し,嚥下完了時点とする.
③嚥下運動時の喉頭挙上・下降運動を触診で確認し,30秒間に起こる嚥下回数を数える.高齢者では30秒間に3回できれば正常と判断する.
④嚥下障害患者は1回目の嚥下運動はスムーズに起きても,2回目以降喉頭挙上が完了せず,喉頭隆起・舌骨が上前方に十分移動しないまま途中で下降してしまう場合がある.これを真の嚥下運動と間違わぬよう注意する.
⑤口腔乾燥が強く,嚥下運動を阻害していると考えられる場合には,人口唾液や少量の水を口腔内に噴霧する.
個人的な意見だが,理想的には①screeningの方法を決めてその結果を病棟全体が共有し,チームとして嚥下障害のある患者さんを把握すること,②screeningで異常を認めた患者さんにはVFなどのより客観的な評価を行い,嚥下障害の機序・パターンを確認すること,③嚥下障害の機序に応じたリハビリを行える体制を作ること,が大切と思われる.今回は脳梗塞後の嚥下障害の話が中心となったが,基礎疾患によって嚥下障害のパターンはまったく異なり,それに応じてリハビリの方法も変わってくる.いずれも大変な仕事であるが,嚥下障害は患者さんのQOLに大きく影響を及ぼすので,この辺は医療従事者の頑張りどころである.
現在の勤務先では硫酸バリウムを用いています。
ただ、最近バリウムでショックや腸管穿孔などが取りざたされ、製薬会社からも添付文書の改定が回ってきています。
こうなるとVFでは使いにくくなると思うのです。
しかし、誤嚥しても危険のない(ことになっている)水溶性のGdなどは保健収載の関連でさらに使いにくいかと・・・。
どうするのがbetterでしょうか?
硫酸バリウムのニュース,私も読みました.バリウムによる穿孔,ショックは厚労省報告では,1954年以降で(疑い、因果関係不明も含む)副作用として「消化管穿孔等」が27例(うち死亡4例),「ショック」が18例だそうです.もちろん,副作用を被った人にとっては大問題ですが,年間推計使用者数は約1750人ということなので,頻度的にはそんなに驚くものではないような気がするのは私だけでしょうか・・・
VFのガイドラインについては,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会のものをWEB上で見ることができますが,「希釈した硫酸バリウム溶液,または非イオン性低浸透圧性水溶性ヨード剤を使用する。なお、誤嚥の可能性のある患者には肺毒性の明らかな造影剤(ガストログラフィン、ウログラフィン、アンギオグラフィンなど)は使用すべきでない。」とありました.バリウムの具体的濃度の記載はありませんが,通常80%W/Vぐらいでしょうか?(ご存知の方,教えてください)一般的な上部消化管造影では150~200%W/Vで200~300mlも用いるので,濃さも量もVFとは違うようです.また胃透視では病変を見るために発泡剤とか圧迫法なんて手技もあるので,バリウムの停滞による影響だけでなく,憩室などからの物理的穿孔もあるじゃないかなんて想像します.
ただし,タミフルの話題ではありませんが,バリウムもどういうわけか話題になってしまいましたので,患者さんへの説明など気をつけねばなりませんよね(でもどういうことがきっかけで,厚労省が今回のバリウム合併症を発表するに至ったのか興味がありますね).
医師であることを表に出さず記事を書いてはいますが、読むひとが読めばわかってしまうでしょう・・・。
ワクチンの件でもそうですが、受ける(呑む)ことでのメリットはほとんどマスコミでは話題に
されず、デメリットばかりが取り沙汰される現状が変わらないことには。
個人的にはインフォームド・コンセントやセカンド・オピニオンというものに(日本では)
限度がある気がしてならないのです。
・・・そう言っても始まらないのですが・・・。
インフォームド・コンセントの問題にしても病気や治療についての十分な情報があって初めて成り立つものだと思いますが,情報を提供する医療側も,情報を判断する患者さん側もその姿勢は千差万別で,実際にうまく機能していないことも多いのかもしれません.でも一方で,WEB 上,簡単に診療ガイドラインなどが入手できる世の中なので(いわゆるinternet second opinion),医療従事者は最低,各疾患のガイドラインを熟知して対応しないと,容易に患者さんの信頼を失う事態が生じます.医療従事者はがんばって勉強をして,エビデンスのある情報を提供するしかないのでしょうけど,専門的過ぎると患者さんも判断困難になってしまうので,その辺はまたバランスが重要なのかもしれませんね?