Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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第14回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(MDSJ 2021)ビデオセッション症例解説

2021年02月24日 | パーキンソン病
標題の学会(大会長.福岡大学坪井義夫教授)が2月22日から24日にかけて行われました.WEBでの参加になりましたが,非常に勉強になった素晴らしい学術集会でした.私は「COVID-19と運動異常症」「PSP/CBD治療研究update」という2つセミナーで講師を務めさせていただきました.メインイベントは,学会員が経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,その不随意運動や診断・治療について議論するビデオセッションです.今年の12症例の一覧をご紹介します.当教室からも発表し,伏屋公晴先生の行ったプレゼンテーション(治療が奏功した大脳皮質基底核症候群:抗IgLON5抗体陽性関連疾患)が金賞を受賞しました.とても嬉しく思いました.

1.急性に発症し持続性左下肢限局性強直性けいれんを生じた70歳男性例
70歳男性.入院2週間前から旧に左下肢全体の突っ張りが出現.左下肢は強直し,自動・他動できず,有痛性で1~2Hzの筋痙攣を伴う.髄液,腰部MRI異常なし.
(回答)肺小細胞癌に伴うStiff-limb症候群(抗amphiphysin抗体陽性)・・・Stiff-person症候群の一側下肢限局型.免疫疾患で片側に症候が出現するメカニズムは不明.

2.舌の律動的不随意運動をエコーで評価しえた一例
72歳男性.1年前から喉の違和感.ふるえてしゃべりにくい.安静時に強い舌の不随意運動.下顎の舌からエコーを当てると,安静時に律動性5Hz,挺舌ないし歯を食いしばると3~4秒間止まるが,また再開する.
(回答)パーキンソン病の舌振戦(re-emergent tremor)・・・全身にも軽度のパーキンソニズムを認め,L-DOPA内服で改善した.

3.顔面と下肢の進行性不随意運動を呈した59歳男性
59歳男性.10日ほどの経過で,顔面と下肢の不随意運動(ミオクローヌス)が進行した.また眼瞼下垂,失調,筋力低下,腱反射亢進に加え,高血圧,尿閉,便秘を合併した.頭部,脊髄MRIは異常なし.3Hz反復刺激でwaningなし.血中カテコラミン濃度上昇.眼輪筋の強い収縮,球麻痺,呼吸不全が出現し,人工呼吸器管理.
(回答)抗グリシン受容体抗体を有する progressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus(PERM)・・・この不随意運動はspasmodic reflex myoclonusと呼ばれている(Stayer C et al. Neurologia. 1998 Feb;13(2):83-8).種々の免疫療法を行い,人工呼吸器は離脱した.

4.突然発症の片麻痺と対側に出現した不随意運動を呈した一例
89歳女性.膵癌の既往.突然の左片麻痺にて発症(左下肢不全麻痺).同時に右上下肢に不随意運動出現(ヘミコレア).MRAで右MCA水平部近位から途絶.DWIで右被殻,淡蒼球,前頭葉皮質に異常信号.なぜ右半身に不随意運動が出現したか?
(回答)一側の視床下核病変で,両側のヘミバリズム・ヘミコレアが出現するが,左片麻痺があるため,右側にのみ不随意運動が出現する.STN-DBSでも同側にジスキネジアが出現することがあるとのこと.

5.ふらつきと物忘れを主訴に受診した男性例(銀賞)
60歳男性.16年前から歩行時のふらつき.徐々に増悪した.四肢失調に加え,コレア,変動性の物忘れも見られた.顔面の小色素沈着(しみ,そばかす)と一部,皮膚がんも見られた.日光過敏あり.頭部MRIで,小脳,脳幹,大脳の萎縮.
(回答)小脳萎縮を合併した色素性乾皮症・・・通常,生命予後は不良で,罹病期間30年程度のことが多く,本例のような症例は稀である.

6.不規則な足趾の不随意運動をきたし拡大胸腺摘除術後に消失を認めた後天性自己免疫性Rippling muscle diseaseの64歳男性例
64歳男性.運動後の筋強直にて発症.筋の叩打後の隆起(筋の過興奮現象)あり.CK上昇.筋生検にて,Rippling muscle diseaseで認められるcaveolin-3のモザイク状の発現低下あり.多くの症例で認めるcaveolin-3遺伝子変異はエクソーム解析でなし.合併して認められた下肢の有痛性の不随意運動は何か?
(回答)いろいろな意見が出たが,胸腺摘出術後に改善したことから自己免疫性の病態が考えられる.不随意運動については,主治医はpainful legs and moving toe syndromeの合併を考えている.

7.下肢に強い左半身失行の1例(金賞)
岐阜大学からの症例.4年の経過で,左半身の失行(動画では時間がなく示せなかったが上肢にも肢節運動失行や観念運動失行あり),右上肢筋強剛,右下肢ジストニア,腰を引く小刻み歩行,皮質性感覚障害を呈するが,認知機能障害なし.ある治療を行い,症候は顕著に改善した.右半球優位の萎縮,DATシンチで左右差.
(回答)CBSの表現型を呈した抗IgLON5抗体関連疾患・・・IVIGにて症候はかなり軽減した.

8.振戦とジストニアを呈し、脳波異常、DAT SCAN低下を示した15歳男児
15歳男児.言語発達の遅れ.13歳で右手の振戦と歩行障害が出現.徐々に増悪した.下肢および左手にジストニア.夕方に症状は悪化傾向.知能も軽度低下.DATシンチ両側で低下.
(回答)瀬川病(DYT5A)・・・L-DOPAが有効であった.

9.自己免疫機序が想定される半側舞踏病の68歳女性の例
68歳女性.2年ほど前から左手足が勝手に動くようになった.当初,年数回であったが,徐々に増加した.家族歴はなく,既往歴にGraves病があった.左上肢の筋トーヌス低下.認知症なし.髄液異常なし,腫瘍検索異常なし.抗TPO抗体陽性.DATシンチ正常.
(回答)抗TPO抗体に関連した自己免疫性舞踏運動・・・抗TPO抗体が病因となる自己抗体かは不明.非腫瘍性の自己免疫性コレアとしては,IgLON5やCASPR2,GAD65,CRMP-5/CV2といった報告がある.

10. 階段を下りる際に脚が勝手に動く女性(銅賞)
59歳女性.20歳ごろから階段を降りる際にのみ,右足を前に蹴り出すような不随意運動が見られる.股関節が過屈曲し,膝関節は過伸展する.
(回答)task-specific dystonia of stepping down stairs・・・動作特異的ジストニアである.狭い家屋のため,階段が急である京都において認めることがあるジストニアとのこと.トリヘキシフェニジルが半数で有効.階段を緩やかにすると良い.

11. 1歳からの精神運動退行と小脳萎縮を認めた4歳女児~小児と成人で異なる表現型を示す ある遺伝性疾患~
4歳女児(インドネシア人).家族歴なし.1歳で歩行や会話が困難になった.眼振,嚥下障害,視神経萎縮,痙性と腱反射亢進,筋トーヌス低下を認めた.1歳の時点で小脳萎縮あり.両側淡蒼球の異常信号(鉄沈着).
(回答)PLAN(PLA2G6-associated neurodegeneration)のうちのINADタイプ(infantile neuroaxonal dystrophy)・・・成人の表現型であるPARK14(ジストニア・パーキンソニズム)とは異なる.

12. 慢性片頭痛患者に発現した持続性不随意運動:ブレクスピプラゾールによるアカシジア?
50歳女性.20歳から頭痛.40歳から連日となり,慢性片頭痛と診断される.スマトリプタン,バルプロ酸,トピラマートにて改善.7年前から抑うつ.オランザピンおよびブレクスピプラゾールにて改善.しかし坐位で左下肢の貧乏ゆすり状の不随意運動出現,立位で消失.歩行も遅くなった.MRI,MIBG心筋シンチ異常なし.
(回答)薬剤性遅発性ジスキネジア・・・薬剤中止2週間で改善した.




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