Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(2月27日) 

2021年02月27日 | 医学と医療
今回のキーワードは,感染拡大防止のためのエビデンス,要注意のカリフォルニア変異株,long COVIDからPASCへ,後遺症としての疼痛・慢性疼痛,ファイザーワクチンのリアルワールドデータ,ワクチン後顔面神経麻痺,コロナを恐れすぎたことによる脳多発病変,重症筋無力症における重症化因子,多発下位脳神経麻痺,抗不整脈薬ベプリコールです.

緊急事態宣言解除後,感染者数はどうなるのか,またgo to travelを再開したり,オリンピックを開催した場合,感染者数はどうなるのか,これらは科学的に考える必要があると思います.参考になる論文が報告されていますので,最初にご紹介します.

◆感染拡大防止のためのエビデンスを周知する必要性.
感染の危険因子は感染者と非感染者の,日頃の行動を比較することで特定できる.米国で2020年半ばに,成人314名を対象に電話調査を実施し,PCR陽性群と陰性群の間で,行動を比較した.この結果,感染と「レストランでの食事」や「バーやコーヒーショップの利用」に関連があることが確認された(図1).いずれも継続的なマスク使用が困難であること,感染者と長時間かつ激しく接触しうること,安全な距離を保つことが困難であることである.逆に買い物,自宅やオフィス,公共交通機関のリスクは高くはない.エビデンスの示されたハイリスク環境における感染リスクを,多くの人に明確に伝える必要がある.→ 緊急事態宣言で飲食業をターゲットにしたことは理に適っている.緊急事態宣言解除後でも,go to travelでも,感染を再度増やさないためには,ハイリスク環境対策が不可欠である.
JAMA. Feb 22, 2021(doi.org/10.1001/jama.2021.1995)



◆カリフォルニアの変異株は感染しやすく重症化しやすい
カリフォルニア州で発見された変異株B.1.427/B.1.429はより感染しやすく,重症化しやすいとScience誌のnews欄に掲載されている.UCSFで診療された324名の変異株感染患者は,その他の感染者と比べて,ICUに入室する頻度が4.8倍,死亡率が11倍以上も高い!またより伝染性が高いことも示唆されている.変異株が感染した老人ホームのクラスターは,他の変異体と比べて2倍以上に速く広がった.この変異体はスパイク蛋白に3つの変異を持ち,その1つのL452R変異は,スパイク蛋白とヒト受容体の相互作用を安定化させて感染力を高めるらしい.この3つの変異は,英国,南アフリカ,ブラジルで出現した変異株には見られない.論文はプレプリントで近日中に公開される.→ オリンピックを開催するためにはこのような変異株への対策が万全でなくてはならない.
Science. Feb. 23, 2021(https://bit.ly/3bJQ08O)

◆long COVIDからPASCへ.
Brain fog(脳霧)や疲労感,微熱,息切れ,睡眠障害,不安・うつなどのCOVID-19後遺症は,これまでlong COVID,long-haul COVID,post-COVID syndromeなどと呼ばれてきたが,米国NIHがpost-acute sequelae of SARS-CoV-2 infection(PASC)と呼ぶこと,ならびにその原因を特定し,予防と治療法を解明するためのプロジェクトを開始することを発表した(研究費4 年間で 11.5 億ドル).→ 急性後遺症(post-acute sequelae)という用語は初めて聞くもので,従来にない病態を反映したものと言えよう.重要なテーマに,迅速に研究費を投入する点は見習うべきであろう.
NIH homepage. Feb 23, 2021(https://bit.ly/3r90wwQ)

◆後遺症としての疼痛・慢性疼痛.
ブラジルから,COVID-19が新規の疼痛と3ヶ月以上持続する慢性疼痛のリスクとなるか検討した横断研究が報告された.対象はCOVID-19罹患後,退院した患者46名と,その他の原因で入院した患者73名(対照群)を比較した.COVID-19群では退院後平均112日で評価した.COVID-19群は,対照群と比較して,新規の疼痛の有病率が高く(65.2% vs. 11.0%,p=0.001),新規の頭痛の有病率も高かった(39.1% vs. 2.7%,p=0.001).新規の慢性疼痛もCOVID-19患者で多かった(19.6% vs. 1.4%,p=0.002).疼痛は頭頸部,下肢に多くみられた(P<0.05)(図2).嗅覚障害を認めた患者では,新規発症の疼痛が多かった.以上より,COVID-19は後遺症として,新規発症の疼痛,慢性疼痛を引き起こし,かつ嗅覚障害と関連する.
Eur J Pain. Feb 23, 2021(doi.org/10.1002/ejp.1755)



◆イスラエルでファイザーワクチン2回接種は,感染の9割をリアルワールドでも予防.
イスラエルの人口の53%(59万6618人)を含む最大のデータを用いて,ファイザーワクチンの有効性を臨床試験でない,リアルワールドデータ(実際の臨床現場から得られるデータ)として評価した研究が報告された.接種群と非接種群には59万6618人が含まれた.1回目の接種後14~20日目および2回目の接種後7日以上経過した時点でのワクチン有効性の推定値は以下の通りであった.PCR陽性の感染については,46%および92%;症候性感染者については,57%および94%;入院については,74%および87%;重症化については,62%および92%であった(図3).死亡予防は,1回目接種後14~20日目で72%であった.PCR陽性感染者と症候性感染者に対する有効性は,年齢によらず一貫しており,併存疾患を有する人でも,有効性がわずかに低下する程度であった.以上より,ワクチンの有効性がリアルワールドでも示された.
New Engl J Med. Feb 24, 2021(doi.org/10.1056/NEJMoa2101765)



◆副反応のリアルワールドデータ.
副作用に関するリアルワールドデータも報告された(図4).一過性に局所的および全身的な反応が起こるものの,臨床試験と同様,基本的に安全と言える結果である.ただ2回目の接種時に副反応が多くみられることは認識したほうが良い.この機序は不明であるが,Dr. Debra Powellは「最初のワクチンは,ウイルスにどのように反応するかを体に教えてくれる.1回目でウイルスのタンパク質を認識する抗体とメモリーT細胞で武装し,2回目では免疫系の反応がより強固になる傾向がある」と語っている(https://bit.ly/37RndON).→ 2回目に副反応が強いのは,それだけ保護的な免疫反応が備わった証拠とも言える.また前述したように,2回の接種で保護効果は強くなるので,2回ともきちんと接種することが重要である.
MMWR. February 19, 2021(https://bit.ly/37OUI4c)



◆ワクチン後顔面神経麻痺の2報告.
イタリアからの症例報告.37歳男性がワクチン接種5日後に,左顔面麻痺を発症した.ステロイド内服50 mg/日を開始したが,2週間で完全麻痺に進行し,同側の顔痛も伴った.約1ヶ月経過したが,完全には改善していない.神経生理および髄液検査はしておらず因果関係は不明だが,著者は発症時期からワクチンとの関連を疑っている.
J Neurol. Feb 21, 2021.(doi.org/10.1007/s00415-021-10462-4)

また米国からも,ファイザーワクチンの 2 回目の接種後36 時間で,顔面神経麻痺を発症した57歳女性が報告された.過去3回の顔面神経麻痺の既往歴があったが,いずれもステロイド治療で改善していた.発症72時間後に最も麻痺が高度となったが,14日目から改善傾向がみられた.FDAのワクチンレビューにも顔面神経麻痺が指摘されているようで,稀ながら生じうる可能性はある.
Brain Behav Immun Health. May13, 2021(doi.org/10.1016/j.bbih.2021.100217)

◆コロナ感染を恐れすぎて発症した脳多発病変.
スペインからの症例報告.56歳女性で,4週間の経過で不眠,認知機能低下,パーキンソン症状を呈した.頭部MRIでは淡蒼球,深部白質,小脳半球に両側性の異常信号を認めた(図5).息子の話で,COVID-19感染を恐れるあまり,マスクを1日3回アルコール消毒していたことがわかった.当初はイソプロピルアルコールを使用していたが,メタノールに切り替えてしまったことが判明した.その後,徐々に改善したが,4ヶ月後の現在も重度の障害が残っている.つまり診断は慢性メタノール中毒である.マスクとアルコール消毒で検索すると,少なからぬ記事が見いだされる.このような事例も知っておく必要がある.
Eur J Med, Feb 18.(doi.org/10.1111/ene.14779)



◆重症筋無力症におけるCOVID-19感染の重症化因子.
フランスから重症筋無力症(MG)患者におけるCOVID-19の臨床像と転帰を明らかにし,重症化因子を検討した多施設,後方視的,観察コホート研究が報告された.希少疾患データベースに登録された3558名のMG患者のうち,34名(0.96%)がCOVID-19に罹患した.うち観察期間中に回復した患者は28名で,1名が罹患中,5名が死亡した.重症化因子として同定されたのは罹患前のMGFA分類(≧IV)であった(オッズ比102.6;p=0.004).関連しなかった因子としては,性別,MGの罹病期間,MGFA分類(≦IIIb)が挙げられた.またMGに対する免疫抑制薬やステロイドは,予後不良因子ではなかった.
Neurology Feb 10, 2021(doi.org/10.1212/WNL.0000000000011669)

◆多発下位脳神経麻痺の4症例.
イタリアから人工呼吸器離脱後に,嗄声,嚥下障害,舌偏位を来した4症例が報告された.頭部MRIは造影を含め異常なし.髄液も異常なし.非対称的な迷走神経,副神経,舌下神経麻痺と考えられた.ウイルスの直接感染か,自己免疫による間接的な障害かは不明.いずれにしてもICU治療後に,多発下位脳神経麻痺が生じる可能性を認識する必要がある.これまでも一側性,両側性のTapia症候群(反回神経+舌下神経麻痺)が報告されている.
Lancet Neurol. March, 2021(doi.org/10.1016/S1474-4422(21)00025-9)

◆新たな治療薬候補,抗不整脈薬ベプリコール®
コンピュータによるドッキング解析を用いて,SARS-CoV-2ウイルスのメインプロテアーゼ(Mpro)に対する阻害作用について,FDAないしEMA(欧州医薬品庁)で承認されている約30種類の低分子医薬品の特性を調べた.この結果,ピモジド,エバスチン,ベプリジル(抗不整脈薬ベプリコール®)の3つは,エンドソームpHを上昇させてSARS-CoV-2ウイルスのヒト細胞への侵入を阻害するとともに,感染細胞内のMproを阻害するという2つの作用を増強することが分かった.また,ウイルスを用いたマイクロ中和アッセイにより,ベプリジルはVero E6細胞およびA459/ACE2細胞において,EC50値がmicroMという低い値で,用量依存的に抗ウイルス中和活性を有していることが示された.著者はベプリコール®による臨床試験を真剣に検討すべきと述べている.
PNAS. March 9, 2021(doi.org/10.1073/pnas.2012201118)



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