Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

進行の速いALS症例に対しては高カロリー脂肪食が有効かもしれない

2020年05月19日 | 運動ニューロン疾患
体重減少はALSにおいて予後不良の予測因子であることが,動物実験や予備試験の結果知られている.しかし,高カロリー栄養が生存期間の延長につながるのかは不明である.このため高カロリー脂肪食(high-caloric fatty diet;HCFD)の効果を確認するLIPCAL‐ALS studyと名付けられた臨床研究が行われた.

方法は治療群と対照群を1:1に割り付けるランダム化二重盲検比較試験を2015年2月から2018年9月にかけて行った.割付後,3, 6, 9, 12, 15, 18ヶ月後に経過観察を行った.この研究はドイツのALS/MND‐NET と呼ばれる12施設からなるネットワークにおいて行われた.治療(HCFD)群は通常食とリルゾール100 mg/dayに加え,405 kcal/day, 100% fat,対照群は偽薬を摂取した.主要評価項目は生存期間(死亡までの期間と最終イベント時の生存率)とした.

さて結果であるが,201名(男:女121:80,年齢62.4±10.8 歳) が参加した.主要評価項目の検討の結果,最終死亡のあった28ヶ月後に評価した生存率は,偽薬群で0.39 (95%信頼区間0.27–0.51) ,治療群で0.37 (0.25–0.49)で有意差なし,ハザード比は0.97(1サイド97.5% CI −∞~1.44, p = 0.44)であった.副次評価項目であるALSFRSや肺活量,さらに体重でも有意差はなかった.つまりALS全体を解析の対象とした場合,高カロリー脂肪食が生存期間の延長をもたらすエビデンスは得られなかった.またドロップアウト率は26%と,通常の薬剤による臨床試験(例:ラサギリン試験では13%;Lancet Neurol 2018; 17: 681-8)より高かった.

しかし,事後解析(post hoc analysis)では,進行速度が速い群(ALSFRSスコアが1ヶ月に0.62より低下する群)において有意な生存期間の延長効果と体重の維持が認められた.具体的には主要評価項目は18ヶ月後に評価した生存率では,偽薬群で0.38 (95%信頼区間0.21–0.54) ,治療群で0.62 (0.47–0.74)で有意差あり,ハザード比は0.50(2サイド95% CI 0.27-0.92, p = 0.02)であった.

このことから再度,高カロリー脂肪食の効果を,進行の速い群において行う必要が考えられた.ただし研究デザインには十分な考慮が必要である.まず,高カロリーが効果があるのか,脂肪食が効果があるのかが不明である.また進行速度を客観的に評価するために,介入開始前に経過観察期間を設けて,正確な進行速度を評価した上で,試験への参加を行う必要がある.また薬剤を用いる臨床試験と比較して,栄養療法の継続は難しく,ドロップアウト率が高くなる可能性があることから,工夫が必要と考えられた.いずれにしてもALSのような難病における栄養療法についてはさらなる検討が必要と言える.

Ludolph AC et al. Effect of High–Caloric Nutrition on Survival in Amyotrophic Lateral Sclerosis. Ann Neurol 2020;87:206–216 (doi: 10.1002/ana.25661)




この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 新型コロナウイルス感染症COV... | TOP | PCR検査率からから考える封じ... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 運動ニューロン疾患