Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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flail arm型とVulpian-Bernhardt亜型

2023年06月07日 | 運動ニューロン疾患
ALSガイドライン2023が発刊されました.眺めていたところ,分類・病型の項目に「進行性筋萎縮症(PMA)のなかで,両上肢に限局するものはflail arm型と呼ばれ,brachial amyotrophic diplegia,man-in-the barrel型およびVulpian-Bernhardt亜型も同じ病型を意味する」と書かれていました.若手の先生にウンチクを傾けたくなりました(笑).

1)フレイル・アームはL?R?
老年医学で使われるフレイルは「加齢により心身が老い衰えた状態」のことで「Frailty(虚弱)」に由来します.ALSの病型で使うのはflailで,その意味は柄の先に鎖で打撃部を接合した武器の一種(連接棍棒)だそうです.ちょうど筋萎縮で細くなった上肢(図左)が,連接棍棒(図中央)に見えたために名付けられました(Hu MT, et al. JNNP 1998;65:950-1. doi.org/10.1136/jnnp.65.6.950).


図はWikipediaより.

2)フレイル・アームの原著の間違い
上記の原著で著者らは歴史的考察を行い,この亜型は「おそらく1888年にGowersによって初めて記述され,図も書かれた」と記載しています(これが図左です).しかしすぐこれは適切ではないというレターが掲載されました(Gamez J, et al. JNNP 1999;67:258. doi.org/10.1136/jnnp.67.2.258).1880年前後のフランスにて,サルペトリエールのCharcotとともに,Flourensの弟子であったVulpian(1826-1887;図右)は,著書『Maladies du Système Nerveux』で,PMAについて「遠位筋,特に短母指外転筋が最初に侵される場合が多いが,中には上腕や肩甲部の筋肉がまず萎縮し,前腕と手の筋肉は長期間正常に保たれる例がある」と記載しています(肩甲上腕型脊髄性進行性筋萎縮症;formescapulo-humérale).病理学的に脊髄前角細胞の変性が原因であることも確認しています.類似するBernhardtの報告も併せてVulpian-Bernhardt型と呼ばれるようになりましたが,Bernhardtの報告は家族例で必ずしも内容が一致せず,混乱を招くという理由でこの用語は徐々に使われなくなりました(岩田誠ら.神経内科4;243-8, 1976).ちなみにVulpianはBabinskiとDejerineの学位論文の指導者で,岩田誠先生は「忘れられているきらいがありますが,おもしろい人です」と述べています.当時物議をかもしたPasteurの狂犬病ワクチンを,医師ではないPasteurに代わって最初に患者さんに接種したのがVulpianであり,高潔な人物として知られていたそうです(鼎談.神経学はいかにして作られたか:https://00m.in/DDqBc).







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