Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(4月3日)

2020年04月03日 | 脳血管障害
今回のキーワードは,感染リスク(長期療養施設,担がん状態),母子感染,COVID-19と神経疾患,ACE阻害薬・ARBの臓器保護説,心筋障害,閉じ込め政策のエビデンス,センザンコウ,2つの有望治療(C型肝炎ウイルス・プロテアーゼ阻害剤,回復患者血漿輸血)です.

◆ICU治療を要した原因.対象は米国シアトルの重症24名(64±18歳).併存症は糖尿病14名(58%).全例が低酸素性呼吸不全を呈し,18名(75%)が人工呼吸器を要した.また18名(71%)が昇圧剤を要する低血圧を呈した.予後は12名が死亡,3名は人工呼吸器継続,4名はICU退室,5名が退院.ICU治療となる原因は低酸素性呼吸不全と低血圧である.死亡例中4名に蘇生処置拒否(DNR)指示があった.NEJM. March 30, 2020

◆感染リスク(1).米国ワシントン州の長期療養施設の入居者1名が,2月28日に感染していることが判明,3月18日までに167名(入居者101名,スタッフ50名,訪問者16名)が感染.それぞれの入院率は55%,50%,6%,死亡率は34%,0%,6%であった.長期療養施設に患者が1名出ただけで,急速に拡大し,かつ重症化する.感染したスタッフや訪問者を施設内に入れないこと,また感染者の早期発見が重要.NEJM. March 27, 2020

◆感染リスク(2).武漢からの報告で,担がん患者のCOVID-19の感染率0.79%(12/1524名)は武漢全体の0.37%より高値と報告.12名は60歳以上が8名,7名が非小細胞肺がんで,3名が死亡.担がん状態は感染の高いリスクとなる可能性がある(オッズ比2.31).原因としては免疫能の低下,化学療法の影響,頻回の病院通院等が考えられる.担がん患者では感染しやすい可能性を考え,外来受診の回数を抑えるなどの対策が必要である.JAMA Oncology. March 25, 2020

◆母子感染.9名の感染妊婦の検討で,母子感染(垂直感染)の根拠はないと報告されていたが,否定する複数の報告が出た.まず武漢の感染妊婦から産まれた新生児33名のうち3名(9%)が,生後2,4日目の鼻咽頭・肛門ぬぐい液でPCR陽性となった.しかし6~7日目には陰性化した.なぜ速やかに陰性化するのか不明(JAMA Pediatrics. March 26, 2020).また母子感染による1例報告があり,出生2時間後にはIgM↑とIL6/10↑を認め,(IgMは胎盤を通過しないことから)子宮内感染が示唆された(JAMA. March 26, 2020).さらに,感染妊婦から生まれた6名の新生児の検討で,血清や鼻咽頭ぬぐい液のPCR検査で陰性であったものの,5名でウイルス特異的血清IgG↑,2名でIgM↑が報告された(JAMA. March 26, 2020).以上より,ウイルスは胎盤を通過し,新生児の体内で抗体産生が生じる.予後は良好.

◆心筋障害.急性呼吸促迫症候群(ARDS),二次性血球貪食性リンパ組織球症と並ぶ3大予後不良病態の検討.武漢の入院患者416名において82名(19.7%)に心筋障害(定義は高感度心筋トロポニンI↑)を認めた.心筋障害あり群は高齢で,高血圧が多い.N 末端プロ B 型ナトリウム利尿ペプチド,CK-MBが高値.かつARDS,急性腎障害,電解質異常,凝固異常,低蛋白血症も多かった.致死率はあり群となし群で51.2%と4.5%であった(図1).心筋障害の病態解明と対策が必要.JAMA Cardiol. March 25, 2020



◆COVID-19と神経疾患.武漢の神経内科医が米国神経学会ブログに寄稿.神経症状の多くは非特異的で,頭痛,めまい,疲労,筋痛が多いが,痙攣や昏睡,嗅覚・味覚障害もある.
①脳卒中:D-dimer高値や血小板減少を背景として発症する.血栓溶解療法や血栓回収術の適応はCOVID-19の状況を考慮して決める.二次予防に抗血小板薬や抗凝固薬を用いる場合,血小板数や凝固能を頻回に確認する.スタチンも肝機能や筋障害を確認して処方する.またウイルスは血管内皮細胞のACE2に結合するため,著明な高血圧を呈しうる.血小板減少や凝固異常があると脳出血リスクが高まる.降圧薬については配慮が必要で,カルシウム拮抗薬が好ましい(これは次項目で解説).
②髄膜炎:髄液中にウイルス核酸が証明された報告はあるが,ウイルスが直接中枢神経を侵す確実なエビデンスはない.またリンパ球減少も生じるため,結核性髄膜炎のような日和見感染にも注意.
③自己免疫疾患:重症筋無力症(MG)なども重症ハイリスク群である.MGではクリーゼに注意する.免疫抑制薬の中止についても検討が必要.ステロイドについては,MGとCOVID-19の双方を考慮して決める.

◆基礎研究(1).ACE2はウイルスが感染する受容体であると同時にレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の活性化を抑制する酵素である.先日,RAASを抑制するACE阻害薬+ARBがACE2発現を増加することで感染リスクを高める可能性が指摘され,米国3学会は十分な臨床データがないとして,薬剤の中止・変更をしないように呼びかけた.今回,発表された総説は逆に「これらの薬剤は肺や心筋に対して保護的に作用する」という仮説を提唱し驚いた.
まず内服中止の危険性が示されている.心不全や心筋梗塞患者では症状の不安定性,予後の増悪をもたらす可能性がある.高血圧患者での中止は,リバウンドによる血圧急上昇の可能性がある.他の降圧剤の切り替え中の血圧上昇リスクや,血圧コントロールは患者によりまちまちであり,状態の増悪をきたす可能性がある.
ACE2はアンギオテンシンII(A-II)に作用し,A-(1-7)に変換することでRAASを抑制する(図2).ウイルスがACE2を介して感染後,ACE2にはダウンレギュレーションが生じ,その結果,RAASは持続的に活性化する(よって患者では血圧が上昇しうる!).RAAS活性化は肺損傷,心筋リモデリングの障害,血管収縮,血管透過性の亢進を引き起こす.実際にSARSでは,A-IIの持続的活性化により肺損傷が起こり,RAAS阻害剤が抑制効果をもつことが示されている.ACE2 KOマウスでは,A-II活性化による急性心筋障害に対し,左室リモデリングが不良であることも報告されている.以上のようにRAAS抑制は肺,心筋保護に繋がる可能性があり,組み換えヒトACE2やARB(ロサルタン)の効果・安全性を検証する臨床試験が進行中である. Engl J Med. 2020 Mar 30.



◆基礎研究(2).COVID-19の原因ウイルスSARS-CoV-2は人獣共通感染症(Zoonosis)を起こす.ゲノム配列の75~80%はSARSのウイルスと相同だが,むしろコウモリ・コロナウイルスに近い.つまり自然宿主(最初にウイルスが感染する生物)はコウモリで,中間宿主への感染を通してヒトに感染するウイルスに変異したと考えられている.中間宿主は,SARSはハクビシン,MERSはヒトコブラクダだが,COVID-19では不明であった.武漢の生鮮市場における中間宿主としてヘビ,カメ,センザンコウ(Pangolin)が候補に挙げられていた.センザンコウは密売される絶滅危惧種の哺乳類である.今回,マレーセンザンコウ由来コロナウイルスが2種類同定され,その1つがSARS-CoV-2とゲノム配列で85.5~92.4%の相同性を示し,受容体結合領域のアミノ酸配列に限ると97%が一致した.センザンコウの市場での売買を禁止すること,そして中国や南アジアにおける生態調査が将来の新たな感染症防止に重要であると著者は述べている.Nature. 26 March 2020

◆閉じ込め政策(1).シンガポールからの閉じ込め政策の科学的根拠に関するモデル研究.具体的には,感染者の隔離とその家族の検疫,2週間の休校,検疫強化(PCR検査),従業員の半数を在宅勤務にすることで「大幅に感染拡大を防ぐことができる!」と報告した.基本再生産数(一人の感染者から生じうる二次感染者数:R0)を,比較的低い(1.5),中程度(2.0),高い伝染性(2.5)とし,「無症状者からの感染」を7.5%と想定した.閉じ込め政策を行わなかった場合,80日後の累積患者数はR0=1.5で279,000人(シンガポール人口の7.4%),2.0の場合727,000人(19.3%),2.5の場合1,207,000人(32%)と予測.もし上記政策を行った場合,R0=1.5の場合1,800人(99.3%の減少), 2.0の場合50,000人(93.0%の減少),2.5の場合258,000人(78.2%の減少)になった(図3).ウイルスの伝染力にもよるが,閉じ込め政策は有効である.Lancet Infectious Diseases. March 23, 2020



◆閉じ込め政策(2).上記論文に対するコメントが同じ号に掲載されている.閉じ込め政策では科学的根拠のみならず,倫理的配慮が重要だと強調している.政治家は施行に際して,人種による差別や経済的弱者への重い負担を防ぐ必要がある.またホームレス,収監者,身体障害者,不法移民のような人々には特別な配慮が必要である.Lancet Infectious Diseases. March 23, 2020

◆閉じ込め政策(3).問題のR0はCOVID-19ではいくつなのか?実は「プレプリント(査読なし)」を含めると16の論文が報告されている(図4).黄色丸が平均値で,赤と青は95%信頼区間の最大・最小値を示す.発表日順に並び,左側10個が査読なし,右側6個が査読ありである.査読なしに外れ値が2つあり,合議の上この2つを除外すると,査読なしで3.02(95%CI 2.65-3.39),査読ありで2.54(2.17-2.91)であった.プレプリントは慎重な評価を要するが,速やかな情報の共有は有用である. Lancet. March 24, 2020



◆臨床試験(1).以下の3つの臨床試験はすべて中国から.C型肝炎ウイルス・プロテアーゼ阻害剤danoprevirと,その血漿濃度を維持するCYP3A4阻害剤リトナビル(高濃度では抗HIV薬となる)を,COVID-19の中等症患者11名に投与する単群オープンラベル多施設共同試験.安全性は確認され,全員が4つの状況(3日間以上の平熱・呼吸器症状の改善・肺病変の顕著な改善・2回連続PCR陰性を達成して退院した.ダノプレビル/リトナビル併用は有望.medRxiv. March 24, 2020

◆臨床試験(2).ロピナビル/リトナビル配合剤群(カレトラ®)と抗ウイルス薬ウミフェノビル群(アルビドール®),そして対照群を2:2:1(21名,16名,7名)に割り付けるELACOI試験が行われた.7日目ないし14日目におけるPCRの陰性化,および臨床・画像所見の改善に関して,3群間で有意差なし.ロピナビル/リトナビル配合剤群では副作用が多かった(23.8%).既報の通り,これらの薬剤による効果は乏しい.medRxiv. March 23, 2020

◆臨床試験(3).急速な進行を示し,抗ウイルス薬使用に関わらずウイルス量排出量が高く,ARDSと低酸素血症を呈し人工呼吸器を要する重症5名に対し,回復患者からの血漿の効果を調べる単群試験が行われた.特異抗体への結合価が1:1000以上,中和力価40以上に調整されている.主要評価項目は,体温,SOFAスコア(0-24;大きいほど重症),PAO2/FIO2,ウイルス排出量,血清抗体価,ARDS,人工呼吸器・ECMO治療.5名中4名が3日以内に体温が正常化,12日以内にSOFAスコアとPAO2/FIO2が改善.ウイルス排出も12日以内に陰性化(図5).ARDSも12日以内に4名が改善し,3名は14日以内に人工呼吸器を離脱した.3例は入院後51-55日で退院し,2名は37日で病状は安定している.重症例に対しても有効性が示唆されるが,ランダム化比較試験が必要である.JAMA. March 27, 2020



この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 新型コロナウィルス感染症COV... | TOP | 新型コロナウイルス感染症COV... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 脳血管障害