Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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上肢の機能性運動異常症に対する理学療法(注意をそらす技術とフィードバックを活かす)

2024年07月08日 | 機能性神経障害
機能性神経障害のひとつ,機能性運動異常症の治療法は難しく,情報も限られています.認知行動療法を試みても症状が改善しない場合,次の一手はリハビリになります.Tremor Other Hyperkinet Mov誌に,外来リハビリが有効であった2症例のケースレポートが出ていて「こうやって治療するのか!!」ととても参考になりましたのでご紹介します.

症例1: ジャグリング(お手玉)を使う
21歳女性.19歳から眼瞼開閉障害と口周囲けいれんに悩まされていた.治療としてジャグリングを導入した.これは症状から注意をそらす効果がある.まず1つのボールから始め,慣れてきたら2つ,3つと増やしていった.その効果を鏡で直接,確認してもらったり,ビデオで撮影して後で再生してもらったり,自分で認識しながら,症状を制御することを促した.3週間後,症状は消失し,仕事に復帰した.1年以上.再発はない.→ジャグリングのような注意をそらす技術とフィードバックを組み合わせることが有用である.



症例2: 触覚と聴覚をうまく使う
58歳女性.左手の振戦,疲労,痛みで6年間悩んでいた.治療として質感(テクスチャー)による感覚刺激とリズム運動課題を行った.異なる質感の物体,例えば,砂,布,プラスチックなどに触れることで感覚入力が増え,振戦への意識をそらした.また手拍子や足踏みなど,リズムに合わせた動きを取り入れることで,手の動きがしやすくなるだけでなく,症状からも注意をそらすことができた.ビデオフィードバックを用いて症状の回復を視覚化した.治療の結果,改善し,仕事に復帰した.

つまり機能性運動異常症の治療は以下の3本柱からなります.
1. 心理教育: 患者が自身の病状を理解し受け入れることを促進する(=認知行動療法).
2. 注意訓練: 患者の注意を症状からそらし,症状の軽減を図る.
3. 自己効力感: 患者の主体性を高め,個々の興味を取り入れることで治療の効果を高める.


今回の論文は,このうちの2と3に関わるわけです.従来の理学療法とは異なり,機能不全や影響を受けた肢体に焦点を当てず,自動的な内在的な動きを重視し,病的な動きを減少させることを目指すということになります.大変勉強になりました.
Degen-Plöger C, et al. Individualized Physiotherapy of Upper Body Functional Movement Disorder - Two Illustrative Cases. Tremor Other Hyperkinet Mov (N Y). 2024 Jun 28;14:29.(doi.org/10.5334/tohm.895)フリーアクセス

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