Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(4月10日)  

2020年04月10日 | 医学と医療
今回のキーワードは,神経合併症(髄膜脳炎,急性出血性壊死性脳炎,ギランバレー症候群),感染性をもつもの,中和抗体力価,マスクの効果と限界,中間宿主としてのネコ,有望な新規治療薬(回復患者血漿輸血,ヒドロキシクロロキン,抗寄生虫薬)です.社会的離断の期間を短縮する3つ方法について,イエール大学の研究者らが言及しています.①無症状感染者,軽症者を特定するための積極的なPCR検査と接触者の追跡+早期隔離(専用施設が必要),②家庭での感染を減らすこと(武漢では,ほとんどの感染が家庭内で発生した→早期発見し,家庭でなく,専用施設での隔離する),③集中治療室の在院日数を20~30%短縮する治療の開発(医療システムの維持に大きな効果をもたらしうる)です(JAMA. April 06, 2020).PCR検査数の増加と専用施設での隔離は対応可能な課題だと思います.

◆神経合併症(1).髄膜脳炎を呈した24歳男性(山梨大学病院).疲労感,発熱で発症.9日目に意識障害,1分間の全身痙攣.項部硬直あり.髄液細胞数12(mono 10, poly 2).胸部CTで小さなすりガラス様陰影あり.鼻咽頭拭い液でPCR陰性,しかし髄液で陽性.頭部MRIでは,DWIで右側脳室壁,FLAIR右側頭葉内側+海馬に高信号病変(脳室炎+脳炎;図1).髄膜造影効果なし.痙攣重積となりICUにて人工呼吸器管理.→ 鼻咽頭拭い液でPCR陰性でも,髄膜脳炎は否定できない.Intern J Infect Dis, March 25, 2020



◆神経合併症(2).急性出血性壊死性脳炎を呈した50歳代女性(米国).咳,発熱にして発症後,3日目に精神変調をきたした.鼻咽頭拭い液にてPCR陽性.髄液のPCRはできなかったが,他のウイルス性脳炎は否定.急性出血性壊死性脳炎はインフルエンザでもまれに合併するが,血液脳関門破綻を伴うサイトカインストームに伴って生じる可能性が指摘されている.画像は対称性で視床病変を呈する(図2).→ 意識障害時に,両側性視床病変の確認も必要.Radiology. 2020 Mar 31:201187



◆神経合併症(3).ギランバレー症候群(GBS)を呈した61歳代女性(中国).対称性の下肢脱力にて発症.発熱や呼吸器症状なし.3日後には増悪し,上肢にも脱力が及ぶ.受診時,リンパ球減少,血小板減少あり.髄液細胞数正常,タンパク124↑.免疫グロブリン大量療法を施行したが,発症8日目に咳と発熱,胸部CTですりガラス用陰影.鼻咽頭拭い液PCR陽性.20日頃から改善し,30日目には呼吸症状,神経症状とも改善し退院した.しかし看病した身内2名は感染.濃厚接触となった医療者8名は感染せず.→ GBSの原因として,COVID-19も念頭に置く.リンパ球数↓血小板数↓などあれば疑って,感染対策も行う.Lancet, April 1, 2020

◆感染性と中和抗体(1).採取した検体の感染性.身体部位ごとのウイルスの複製(増殖)をドイツ人患者9名で検討.ウイルスの複製は上気道で生じていた.咽頭からのウイルス排出は症状の出現1週間で高い(4日目がピーク).咽頭拭い液,痰は感染性を示したが,便のRNA濃度は既報通り高いものの,感染性を認めなかった(消化管でも複製が生じることを示唆するが,感染性を認めなかったことは対象者の消化器症状が軽かったためかもしれない.多数例の検討が必要).血液,尿も感染性なし.セロコンバージョン(抗体陽性化)は7日目で50%,14日で全例に認めたが,ウイルス量が急速に低下することはなかった(図3).つまりワクチンでは,より強い中和抗体の誘導が求められる.Nature. April 1, 2020



◆感染性と中和抗体(2).涙液からの感染.中国の入院患者38名中12名(32%)に結膜炎所見(流涙,結膜充血,結膜浮腫)を認め,うち2名(5.2%;2/38名)は結膜拭い液もPCR陽性であった(鼻咽頭PCR陽性は28名).結膜炎所見を認める症例は,そうでない症例と比較して白血球数や炎症所見(CRPなど)が有意に高値であった.→ 1/3の症例は眼症状を呈すること,涙液にもウイルスが含まれ,感染しうる.JAMA Ophthalmol. March 31, 2020

◆感染性と中和抗体(3).「軽症で回復した」175名における中和抗体の検討.中和抗体は発症から10-15日目に陽性になるものの,抗体価は患者によりまちまちで,約30%の患者では低力価で,10名(5.7%)では中和抗体は検出されなかった.また高齢者や中年の患者では,若者と比べて中和抗体やスパイクタンパク質結合抗体がより高値であった(図4).→ この研究は様々な問題提起をする.①抗体価が上昇しない回復者が,今後,再感染しうるのか?②抗体価が上昇せずに回復するのは,T細胞やサイトカインなどの別の免疫反応が関与しているのではないか?③回復患者血漿は後述するように治療として期待されているが,患者により中和抗体価は様々で,事前に測定しなければ使用できない.ネット上ではこの論文に対する誤った解釈がみられるので要注意.medRxiv. April 06, 2020



◆マスクの効果(1).呼気中へのウイルス排出とマスクの効果.コロナウイルスの飛沫感染,エアロゾル感染に対するマスクの効果の検討(インフルエンザウイルスやライノウイルスも調べている).急性呼吸器症状を呈した感染患者の鼻および咽頭の拭い液,ならびに30分間の通常呼吸の呼気で得られた飛沫ないしエアロゾル中のウイルスコピー数を検討している.コロナウイルス(OC43やHKU1)は新型ではないが,粒子のサイズは同程度.17名の検討で,飛沫では30%,エアロゾルでは40%でウイルス排出あり.そしてマスク着用は飛沫の場合は抑制する傾向があり(P=0.07),エアロゾルの場合は有意に抑制した(P=0.02)(図5).→ COVID-19患者のウイルス伝達をマスクが抑制する科学的根拠として重要.Nat Med. April 3, 2020



◆マスクの効果(2).マスクの限界.患者4人が20 cm先のウイルス培養液入りのペトリ皿に向けて,咳を5回したところ,サージカルマスク着用にもかかわらず4名中3名でウイルスが検出された.綿製マスクでも,4名中2名でウイルスが検出された.いずれのマスクも,患者が咳をした場合には,周辺環境やマスクの外表を汚染するので注意が必要である.Ann Intern Med. April 6, 2020

◆手術による急性増悪.武漢の待機手術(帝王切開5名,腹腔鏡下結腸切除術4名,胸腔鏡下肺葉切3名等)の待機手術を受けた無症状の潜伏期患者34名において手術が及ぼす影響に関する後方視的検討.全員が術後すぐに(平均2.6日)肺炎を呈し,15名(44%)がICUに入室し,7名が死亡し,死亡率は20.5%と高かった.死因はARDS,ショック,不整脈,急性心筋障害であった.ICU入室者は高齢で,合併症が多く,より難しい手術を受け,リンパ球減少や白血球増多も顕著だった.手術が病態の悪化を助長する恐れがある.→ 待機手術患者における術前評価は不可欠.感染者や濃厚接触者への接触があれば2週間の隔離は必要だろう.EClinicalMedicine. April 04, 2020

◆動物における感染.ヒトに身近な動物に対して,新型コロナウイルス2株の経鼻的接種実験を行い,ブタ,ニワトリ,アヒルでは感染せず,イヌには感染しにくく,フェレット(イタチ科に属する哺乳小動物)やネコは感染しやすいことが判明した.フェレットは,ヒト呼吸器関連ウイルス研究で,しばしば動物モデルとして使用されてきた.インフルエンザやSARSウイルスはフェレットの上気道+下気道で複製するが,SARS-CoV-2は上気道(鼻甲介,軟口蓋,扁桃)のみで複製した.ヒトと同様に直腸ぬぐい液でもウイルスRNAが検出されたため,消化管での複製も示唆される.フェレットはCOVID-19に対する抗ウイルス薬やワクチンの効果を評価する動物モデルとなる.一方,武漢での検討で,ネコにおけるウイルス抗体陽性も報告されているため,COVID-19根絶のためにはネコの感染の監視が必要かもしれない(Science. Apr 8, 2020).また実際に武漢のネコ102匹中11匹(11%)の血清に中和抗体が陽性で,流行時にネコに感染があったというプレプリント論文も報告されている(bioRxiv. April 03, 2020).

◆新規治療(1).回復患者血漿輸血.すでに有効性が示唆されていたが,さらにその結果を支持する臨床試験が中国から報告された.メチレンブルー光反応で残存ウイルスの不活性化処理を行った回復患者血漿200 mLを,重度患者10名に輸血した(発症から中央値16.5日目に輸血).主要評価項目は安全性,副次評価項目は治療3日後の臨床,検査所見(リンパ球数,CRP,胸部CT)の改善とした.全員の症状が1~3日以内に消失または大幅に改善し,また中和抗体価は高値で維持され,7日目には程度の差はあるが画像所見が改善し,ウイルス血症も消失した.重篤な副作用なし.→ 今後,使用量やタイミングについての検討が必要.PNAS. April 6, 2020

◆新規治療(2).ヒドロキシクロロキン(HCQ).クロロキンは,in vitroの実験でSARS-CoV-2に対して抑制的に作用することが報告されていることから,HCQの効果を検証する無作為化比較試験が行われた.62名の入院患者を並行群間試験として割り付け,31名をHCQ(400 mg/日)を5日間投与する群,残り31名を対照群とした.主要評価項目は臨床的回復までの時間,臨床的特徴,画像所見とした.結果としてはHCQ群で体温,および咳が寛解するまでの期間が有意に短縮した(いずれも約1日短縮).またHCQ群は,対照群に比べて,画像上の改善が見られた患者が多かった(80.6% vs 54.8%).試験中に重症化した4名すべて,対照群であった.HCQ 治療群では軽度の副作用(皮疹,頭痛)が2 名に認められた.大規模臨床試験と薬効の解明が必要である.medRxiv 2020; DOI: 10.1101/2020.03.22.20040758.

◆新規治療(3).抗寄生虫薬イベルメクチン.これは大村智博士が土壌の放線菌の一種から分離したアベルメクチンをもとに開発された抗寄生虫薬である(2015年のノーベル医学生理学賞).オーストラリアからin vitroの実験系の研究であるが,サル腎臓由来Vero細胞にSARS-CoV-2を感染させ,2時間後に,ヒトが服用可能な濃度のイベルメクチンを添加したところ,48時間後にウイルスRNAが5000倍抑制された.抗寄生虫薬がなぜウイルスに対して効果を発揮するか不思議に思ったが,イベルメクチンが細胞質のタンパク質を核内へ運ぶ輸送タンパク質であるインポーチンと結合して,さまざまなウイルスタンパク質の核内移行が阻害されることが関与すると考えられている(図6).実際にHIV-1(エイズ)やデングウイルスでもその作用が報告されている.タイにおいてデング熱に対する360名が参加した第3相試験が行われ,安全性が確認され,投与レジメの検討も行われている(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02045069).今後,この臨床試験を参考にヒトにおける臨床試験が計画されるだろう.Antiviral Research. March 29, 2020


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